遠方「銀河」見聞録-電波で探る銀河の距離-

遠方「銀河」見聞録-電波で探る銀河の距離-

谷口 暁星(天文学専攻 修士課程2年)

図1

ATCAの22mパラボラアンテナと野生のカンガルー

図2

共同研究者とともに観測中の筆者(中央)

遠かった…それが私の第一声だった。日本から丸2日,飛行機と電車を乗り継いで豪州内陸部までやってきた私は,とある銀河を観測するため天文台を訪れていた。オーストラリアコンパクト電波干渉計 (ATCA:Australia Telescope Compact Array) は,シドニーから400kmほど離れたナラブライという町のはずれにある,直径22mのパラボラアンテナ6台からなる干渉計方式の電波望遠鏡である。見渡す限りの草原の中に突如現れた巨大なアンテナが一斉に動く様子を目にした私は,改めて日常生活からの距離感を覚えたのだった。

距離が遠いと時間がかかる―普段の生活で当たり前のように経験するこの関係は,宇宙スケールでは重要な意味をもつ。光の速さは有限なので,遠くの天体ほど昔の姿を私たちは目にしていることになる。つまり,天体までの距離と見えている時代が対応しているのだ。観測ターゲットの銀河は,およそ120億年前の姿を見せていると予想される,爆発的に星形成を起こしている遠方銀河である。銀河ができて間もない宇宙初期の銀河の星形成は謎が多く,この時代の銀河の情報を知ることが謎を解く手がかりとなる。そのための第一歩として銀河の正確な年代,すなわち距離を測定するのが私の観測の目的である。

ATCAでは2013年の秋と2014年の春の2回,合計2週間ほど滞在し観測を行ったが,海外観測が初めての私にとって豪州での生活は新鮮な経験ばかりだった。観測の際に印象的だったのが,エイをアイと発音する豪州独特の英語だ。観測前には現地のスタッフとともに望遠鏡に入力するコマンドを作成するのだが,彼らが「Aのボタン」を指しているのを私が「Iのボタン」と勘違いすることもしばしばあった。そんな困難(?)の末いよいよの観測の本番である。距離を測定する方法はいくつかあるが,とくに遠い銀河に対しては星間物質中に豊富に存在する一酸化炭素分子が出す,特定の波長の光(電波)を観測する。距離が大きいほど宇宙膨張の効果によって波長が長い方にずれるため,この「ずれ」を観測することで距離を求めることができるというわけだ。

観測時間外はというと基本的に自由なので,天文台の中を散策することが多かった。驚くべきことに周囲には柵がなく,草原と完全に地続きな天文台構内では野生のカンガルーが至る所で跳びまわっていた。他にもカエルやトカゲなどの豪州固有の動植物や,日本からは見るのが難しい,南十字星をはじめとする南天の星空も特筆すべき光景だっただろう。また,豪州生活を語る上で欠かせないのが,英国文化が色濃く残る豪州の国柄である。都市部から離れたこの観測所でも優雅なティータイムがあり,現地のスタッフから毎日(観測中でさえも!)誘われ,紅茶やコーヒーとともに観測以外の会話をゆったり楽しむ良い時間となった。

近年は望遠鏡運用スタッフが観測を行う天文台が増えており,研究者が現地に赴いて観測をする機会というのは実は少ない。そんな中,観測提案から望遠鏡操作までを経験できたのはたいへん貴重な機会だったと思う。もちろん観測後の解析や考察こそが研究の醍醐味であるが,遠方の望遠鏡で遠方の銀河を見聞した様子,その面白さが少しでも伝われば幸いである。

PROFILE

谷口 暁星(たにぐち あきお)

2013年 東京大学理学部天文学科 卒業
2013年~ 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程在籍