世界を股に掛けた排泄物化石の研究

世界を股に掛けた排泄物化石の研究

泉 賢太郎(地球惑星科学専攻 博士課程3年)

うんち化石の研究のために世界中を飛び回っているやつがいるらしい-そう,私である。大学院進学後,排泄物化石の研究を始めた。中にお宝があるからだ。排泄物化石には食べたものが残っていることがあるため,食事メニューがわかる。普通の化石では,そのようなことはできない。摂食活動は生命の維持に不可欠だ。現在の生物の食事メニューは胃の内容物を観察すればわかる。だが過去の生物の場合,筋肉や内臓は分解され,胃の内容物も残らない。それだけに排泄物化石の意義は絶大だ。さらに,地球史を通じてさまざまな生物が出現してきたので,それに応じて食事メニューも変わってきたはずなのだ。実態の解明には,排泄物化石を時系列的に追えばよい。

世界最南端の都市・ウシュアイアにて

具体的には,太古の海底で泥のなかに棲息していたぜん虫様の無脊椎動物の排泄物の化石が研究対象だ。いろいろな時代から産出するので,時系列を追えるのである。これまで日本以外にドイツ,スペイン,ブラジル,アルゼンチン,ポーランドに行った。それぞれ思い出があるが,ひとつ挙げるならばアルゼンチンである。2013年末,45日ほど世界最南端の都市ウシュアイアに滞在した。日本からだと地球の裏側である。狙いは約3400万年前の排泄物化石だ。キャディック (CADIC:Centro Austral de Investigaciones Cientificas) という研究所に滞在し,その間に狙いの化石を採集し,簡単な計測や観察を行った。南極が近いだけあり,春先にもかかわらず厳しい寒さと風の中での調査となった。景観も動植物も日本とはまったく異なっていたのも新鮮だった。とくに印象的だったのは,ワナコというラクダの仲間の動物に出会えたことだ。

ウシュアイアでの生活も日本とは違った。キャディックには食堂がなく,観光地なので町のレストランも高い。よって朝昼晩はすべて自炊だ。最初はスーパーマーケットに戸惑った。たとえばレジ袋はもらえないし,野菜などが剥き出しで陳列されているため痛んでいるものが多い。そして,レジ待ち行列があまりに長い。これはアルゼンチン特有の現象らしく,20分程度の待ち時間はざらだ。また,スペイン語もままならない私を快く受け入れてくれたE.B.オリベロ(Eduardo B.Olivero)博士とM.I.ロペス・カブレラ (Maria I.López Cabrera) 博士をはじめ,院生たちやルームメイトにはたいへんお世話になった。基本的に私は「ビールくれ」とか「ワインくれ」といったスペイン語しか習得できなかったのだが,彼らはそんな私を(そんな私だから?)毎週のようにパーティーに誘ってくれた。そのため,アルゼンチンに滞在している間は肉とお酒が主食になっていたが,大きな病気なく帰国できたのはマテ茶のおかげである。南米原産のお茶で,ビタミン・ミネラルだけでなく食物繊維も豊富で,「飲むサラダ」と言われているそうだ。すっかりハマってしまい,マテ茶専用容器と専用ストロー,それに茶葉を購入し,今でも毎日たしなんでいる。

野外調査の合間の昼食中に共同研究者と議論する筆者(左)

紙面の都合ですべてご紹介することはできないが,このように世界を股に掛けて研究することで得られるものは大きい。大学院進学をお考えの皆様,海外に出て研究が進展するのならば迷わず行ってみよう!

PROFILE

泉 賢太郎(いずみ けんたろう)

2010年 東京大学理学部地球惑星環境学科 卒業
2012年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 修士課程修了
現在同博士課程在籍
2012年~ 日本学術振興会 特別研究員DC1