第5回

天文学教育研究センター(木曽観測所)

宮田 隆志(天文学教育研究センター 助手)

木曽観測所のウェブサイト

図1:木曽観測所の全景。中央上の丸い建物がシュミット望遠鏡ドームで,その左上が観測所本館。周囲は深い緑に包まれている。

図2:シュミット望遠鏡で観測を行う観測者。望遠鏡や装置等の操作はすべて本館からリモートで行う。

図3:観測所の裏で子育てをするタヌキの親子

図4:木曽観測所の105 cmシュミット望遠鏡

図5:木曽観測所シュミット望遠鏡で撮影したヘールボップ彗星(1997/03/06)

図6:望遠鏡のメンテナンスの一環として,主鏡の分解洗浄を行う所員

図7:高校生向け科学セミナー「銀河学校2005」でドームを見学する参加者

理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所はその名のとおり,天文学教育研究センターの所有する天体観測施設である。ここではおもに105 cmシュミット望遠鏡を用いた観測研究がなされており,広視野という特長を生かした研究が行われている。また,科学セミナー「銀河学校」やサイエンスパートナーシッププログラム(SPP)など,アウトリーチ活動も積極的に実施してきている。

沿革

「木曽路は全て山の中にある」

島崎藤村のこの言葉のとおり,木曽地方は山深い自然に富んだ地域である。木曽川を挟んで東に木曽駒ケ岳,西に御嶽山がそびえ,その谷間に中山道木曽11宿と呼ばれる旧宿場町が点在する。この木曽地方のちょうど真ん中,木曽福島の町から御嶽山方向に12 kmほど入った所に,天文学教育研究センター木曽観測所はある(図1)。

木曽観測所は可視光・赤外線で天体を観測する施設である。はるか天体から届く光を精密に測定するには暗い夜空が欠かせない。木曽地方は日本でも有数の,夜空が暗い地域であり,これが東京から離れた木曽に観測所を置く最大の理由である。この暗い夜空を求めて木曽観測所には国内外の天文研究者が共同利用の形で観測に訪れる。その数は年間のべ200名以上に上る。晴れた夜にはほぼ欠かさず観測が行われている(図2)。

木曽観測所は山深い場所にあるため,暗い夜空のほかにも豊かな自然に囲まれている。観測所から一歩はいった裏山は,春は山菜,秋はきのこといった山の幸の宝庫である。旬の季節になると,所員は昼休みに昼食の時間も惜しんで食材の採取にいそしむことになる。また,観測所には星空を求める人間以外にも,様々な珍客が訪れる。熊やマムシなどといった招かれざる客もいるが,ウサギやカモシカなどの姿もよく見られる。中でも,観測所裏で子育てをしている野生のタヌキなどはたいへんかわいらしく,徹夜観測に疲れた我々の気持ちを和ませてくれる(図3)。

施設と研究

木曽観測所の主力観測装置は口径105 cmのシュミット望遠鏡である(図4)。シュミット望遠鏡とは,鏡筒先端に特殊な形のガラス板をつけ広い視野にわたってボケのない鮮明な画像を得られるようにしたタイプの望遠鏡である。近年,望遠鏡は大型化が進んでおり,木曽シュミット望遠鏡よりも大きい口径を持つ望遠鏡は多数,存在する。しかしながらそれら望遠鏡の多くは,天空のある領域を細かく見ることに最適化されており,一度に撮影できる視野はそんなに大きくはない。カメラで言えばまさに望遠レンズに相当している。それに比べてシュミット望遠鏡は,広い領域を一度に撮影することを得意としており,広角のカメラであるといえる。このようなタイプの望遠鏡としては木曽シュミット望遠鏡は大口径の部類に属しており,現在でも世界で4番目の口径を誇っている。

木曽観測所で行われる観測研究はおもに,広視野というシュミット望遠鏡の特性をいかしたものとなる。たとえば地球近傍を訪れる彗星などは見かけのサイズが大きく,普通の望遠鏡ではなかなか撮影できない。しかし木曽シュミット望遠鏡を用いれば,その雄大な全体像を鮮明に映し出すことができる(図5)。また広い視野は,特異な星やイベントを見つけ出すためのサーベイ観測にも有効であり,太陽系外惑星の探査なども精力的に行われている。これ以外にも,銀河系内の星団や銀河系最外部の星の調査,宇宙論スケールで起こる爆発現象の解明など,さまざまなテーマの観測がなされている。さらに2002年には,口径30 cmの自動望遠鏡も完成し,長期間にわたる天体のモニター観測などで威力を発揮している。

このような華々しい観測研究を支えているのが,技術系スタッフの地道な作業である(図6)。木曽観測所も開所以来30年を過ぎ,機械のトラブルや故障も多くなってきている。望遠鏡ドームに雨漏りだといえば行って大工よろしく天井の補修をやり,モーターのアンプが壊れたといえば行って回路の半田付けをやりなおし,ネットワークが不調といえば行ってコンピュータを再起動させ。天体観測なので雨には負けるが,トラブルにも負けない,夜中の呼び出しにもくじけない,スタッフの不断の努力がすばらしい成果を生む土壌となっている。

アウトリーチ活動

研究活動に加えて,木曽観測所の活動の重要な柱となっているのが広報・教育活動,いわゆるアウトリーチ活動である。

木曽観測所では毎年「銀河学校」と呼ばれる科学セミナーを開催している(図7)。このセミナーは宇宙や科学に興味がある高校生を対象としたもので,シュミット望遠鏡を使った観測や解析,発表会などが行われる。研究内容は高校生にしてはひじょうに高度かつハードなもので,中には4日間の実習期間中,ほとんど寝ずに課題に取り組む参加者もいる。このような過酷(?)な体験から科学の面白さに目覚めるものも多く,銀河学校の卒業生には本学をはじめ自然科学系の大学,大学院に進む者も多く見受けられる。また,企画運営の一部を,銀河学校卒業生が中心となったNPO法人「サイエンスステーション」が行っていることも特筆すべき点である。これによって,所員だけではなかなか行えないきめ細やかな実習サポートなども行えるようになっている。今年の銀河学校は2006年3月21日から4日間,行われる。

この銀河学校に加えて,2002年から文部科学省サイエンスパートナーシッププログラム(SPP)として長野県内の中高校生を対象とした実習も行ってきている。大きな望遠鏡が見られること,天文研究者と触れ合えること,そして何より美しい夜空が見られることから,この実習も好評である。2005年度には中高あわせて14校350人が参加している。さらに近隣小学校への出前観望会,地元の天文愛好家団体「木曽星の会」と連携しての天文講演会などといった企画も行っている。夏や秋のシーズンには,毎日のようにイベントが実施されており,所員は目も回るほどの忙しさである。これらもすべて,多くの人に天文学への興味を持って欲しいとの願いからである。

この理学系研究科・理学部ニュースでも,37巻3号(2005年9月発行)に一般公開の様子が採り上げられているので,参照いただきたい。

さいごに

木曽観測所のシュミット望遠鏡は広視野という特長を持っており,それを最大限にいかした観測研究を今後も続けて行きたいと思う。また,いち早くアウトリーチ活動に取り組んできたという経験をいかし,今後も様々な実習・授業の企画を行っていく所存である。みなさんも,機会があればぜひ木曽観測所を訪れ,満天の夜空を眺めてみてほしい。そこには,秘密を隠して美しく輝く星空が笑っているはずである。

Infomation

所在地:
〒397-0101 長野県木曽郡木曽町三岳 10762-30
電話:
0264-52-3360
FAX:
0264-52-3361
URL:
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/index-j.html
見学可能日:
毎日
見学可能時刻:
午後12時から午後5時まで
見学可能場所:
105 cmシュミット望遠鏡ドーム観覧者室
アクセス:
自家用車:国道19号線「元橋」T字路より約20分
タクシー:JR中央西線木曽福島駅あるいは上松駅から約30分(3000円~4000円)
バス:JR木曽福島駅前から,おんたけ交通バス「王滝」「赤岩巣」「木曽温泉」
「御岳ロープーウェイ」行き乗車。「橋渡(はしど)」停留所下車。徒歩6 km
JR上松駅からおんたけ交通バス「焼笹」行き乗車。「焼笹」停留所下車。徒歩5 km
※それぞれ1日に数本ですので,ご注意下さい