核融合エネルギー実現への道のり

核融合エネルギー実現への道のり

高瀬 雄一(新領域創成科学研究科複雑理工学専攻 教授,物理学専攻兼務)

図1
図1:組立て中のJT-60SA。2つ目の真空容器セクターを設置しているところ。
図2
図2:柏キャンパスにあるTST-2球状トカマク装置。

核融合は軽い原子核同士が衝突し,より重い原子核に変換される過程であり,その際莫大なエネルギーが放出される。太陽を含む恒星は水素原子核の融合によって光り輝いている。われわれはこれを地上で使えるエネルギー源として開発する研究を行っている。原子力発電は重い原子核が軽い原子核に変換される核分裂反応を用いるが,連鎖反応なので福島原発のように暴走する危険性があり,長寿命の高レベル放射性廃棄物も大量に生成される。しかし原子力発電の担っていた大規模安定供給(ベースロード)電源を肩代わりできるエネルギー源は現状では存在しない。核融合エネルギーが実現すれば,原子力に代わるベースロード電源になり得ると期待されている。地上では重水素と三重水素の核融合反応を利用するが,三重水素の原料となるリチウムも重水素も地球上に大量に存在するので,資源量は事実上無尽蔵である。また原理的に暴走反応は起こり得ず,低レベル放射性廃棄物が少量生成されるだけなので,安全性はきわめて高い。また,二酸化炭素を排出しないので,環境問題の解決にも大きく貢献できる。

ではその実現性の見通しはどうなのか?正電荷をもつ原子核は反発しあうので,磁場を使って十分長いあいだ閉じ込め,核融合反応に必要な1億度以上の超高温に加熱する必要がある。日本のJT-60や欧州のJETというトカマク型プラズマ閉じ込め装置では,加熱のため外部から供給するパワーと同程度の核融合出力パワーが得られる性能(臨界プラズマ条件)が1990年台にすでに達成されている。さらなる大型化により性能が高まることは明らかだが,1兆円規模の予算を要するため,臨界プラズマ条件達成後,長いあいだ次の一歩を踏み出せずにいた。その後世界7極(日,欧,米,露,中,韓,印)の協力で外部加熱入力の10倍の核融合出力を目指す国際熱核融合実験炉 (ITER) の建設が南フランスでようやく始まった。日本では, JT-60SAとよばれるトカマク装置を日欧共同で茨城県那珂市に建設中である(図1)。この装置はITERのサテライト装置であると同時に,日本の国内重点化装置でもあり,その使命はサテライトトカマクとしての「ITER支援研究」のほか, ITERではできない研究を行い,実用化に向けた最終ステップである発電実証炉(デモ炉)への道筋をつける「ITER補完研究」も含まれる。東大はこの装置の目標設定・設計と研究計画の策定に主導的役割を担ってきており,実験開始(2019年3月予定)後も重要な役割を担っていくことを期待されている。デモ炉の設計・建設には20年程度の年月がかかると見込まれるので,核融合発電の実用化は現実的には今世紀中葉以降になると思われる。ただし政府の早期決断により集中的な資金投入が行われれば,実現を早めることは十分可能である。

本学の理学系研究科および新領域創成科学研究科の高瀬・江尻研究室では,柏キャンパスにあるTST-2という装置(図2)を使って, ITER後のデモ炉に向け,より効率的に小型で高性能プラズマを生成する手法の開発を目指し,その根底となる物理機構の解明に焦点をあてて研究を行っている。この装置は「球状トカマク」とよばれるトカマクの中でも最近有望視されている方式を採用しており,小型で磁場が低くても高性能のプラズマを生成できる。研究テーマは多岐にわたるが,とくに高周波波動を用いたプラズマ生成およびプラズマ電流駆動,それに付随したプラズマの自発的構造形成過程の研究では,世界を先導する成果をあげている。当研究室の修了生は, ITERおよびJT-60SAの実施機関である日本原子力研究開発機構,世界最大級のヘリカル型装置を有する核融合科学研究所などで活躍しており,今後ますます国際化していく核融合エネルギー開発を主導するリーダーに育ってくれると期待している。