コンピュータ動物園と,その学術的意義

コンピュータ動物園と,その学術的意義

平木 敬(情報理工学系研究科創造情報学専攻 教授,情報科学科 兼担)

情報科学研究の面白さのひとつは,今日できない事が数年後に可能となることである。ネットビデオにアクセスし,世界中の論文をすぐに閲覧できることは10年前には考えられない事であった。実際,計算速度は過去50年で1010倍高速化している。私たちが情報システムの高速化を研究する上で,長期的予測や将来どのように使われるかを考えることは非常に重要である。しかしながら,私たちの想像力は貧困であると言わざるを得ない。コンピュータの過去を振り返ることは,過去達成してきた進歩と変化を実感するために重要と考える所以である。

過去のコンピュータの保存はすでに世界各地のコンピュータ博物館で行われている。我国では国立科学博物館が大規模なコンピュータを収蔵・展示している。しかしながら,これら博物館ではできるだけ手を加えないで展示するため,収蔵しているコンピュータの殆どは動作不能状態である。

わたしたちの「コンピュータ動物園」は,剥製を展示している「博物館」に対し,すべての物が動作する「動物園」を目指したコンピュータの歴史展示施設である(図1)。ほとんどすべての収蔵品は発売時の性能で動作し,可能な限りオリジナルのソフトウェア(OSやコンパイラなど)が動作している。勿論,収集したコンピュータの多くは,どこかが故障していて動作しない。実は,収集のソースの多くはゴミ捨て場だったりするので当然だ。つまりここでは,「ゴミ捨て場」が「理学の現場」だ。それを園長兼飼育係の泊久信さん(情報理工学系研究科博士課程3年)が巧みに修理して生き返らせる。図2は代表的な修理例で,切れたプリント基板を電線で補修し,壊れた電解コンデンサを交換している。

図3は最初期のマイクロコンピュータ, MITS 680でモトローラ6800を使用している。これらを含め私たちは200台以上のコンピュータを収蔵している。

そもそもコンピュータ動物園を始めた動機は,計算速度対消費電力比のように将来のシステムを考える上で重要な指標の長期遷移を明らかにすることであった。10年以上前は,コンピュータは性能が大切であり消費電力は問題ではなかったため,古いシステムの実データが存在していない。コンピュータ動物園では,過去のコンピュータを同じベンチマークソフトウェアで測定し,システム全体の消費電力を測ることが可能である。図4は,コンピュータ動物園の測定データによる長期的消費電力あたり性能を示したものである。この図から,順調に電力あたり性能は向上すること,単体性能が高いプロセッサがもっとも省電力であることが示されている。私たちは,これ以外にさまざまな性能測定を行っている。

最後に,コンピュータ動物園の詳細は http://www.computer-zoo.org で公開中である。ぜひアクセスしてみてほしい。また,コンピュータ動物園は古いコンピュータの寄付を募集中である。現在電源が入らない,動作しない状況でも修理により稼働する可能性が高いので,珍しいコンピュータをお持ちの方にはぜひご寄付をお願いしたい。

図1

図1:コンピュータ動物園の一部

図2

図2:古いコンピュータの修理

図3

図3:MITS-680 (1975)

図4

図4:電力あたり性能の推移(縦軸MIPS/W, 横軸 西暦)