人工衛星をつくって宇宙X線を観測する研究

人工衛星をつくって宇宙X線を観測する研究

中澤 知洋(物理学専攻 講師)

図1

筑波宇宙センターにて,音響試験に臨むASTRO-H衛星。高さ8 m,重さ 2.5 t の衛星を,慎重に試験室に運び入れる。(JAXA提供)

宇宙には2つの魅力がある。ひとつはロケットや人工衛星に代表される,宇宙開発。そしてもうひとつが,ビッグバンやブラックホールに代表される,宇宙物理である。私は,ブラックホールなど,X線を発する,高温,高エネルギーの天体を観測的に研究している。X線は大気で吸収されるため,人工衛星に観測装置を載せてロケットで打ち上げて研究するので,宇宙の魅力を二つながらに味わえる研究分野と感じている。

われわれは現在,2005年に打ち上げられた「すざく」衛星を用いて宇宙X線観測を進めつつ,2015年の打ち上げを目指して,次期X衛星ASTRO-Hを開発している。いずれもJAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所を中心に,国内外の多くの研究者が協力して開発したものである。「すざく」はJAXAのM-V(ミュー5)ロケットで打ち上げられ,ASTRO-Hは大きいためにH-II Aロケットでの打ち上げを予定している。将来は,昨年初号機の打ち上げに成功したイプシロンロケットを用いた衛星も検討中である。

科学衛星の開発では,JAXAのリードのもと大学等研究機関も参加して,理学と工学の研究者,技術者が協力する。われわれ理学の研究者は,観測性能を飛躍的に向上させる次世代の観測装置を研究し,衛星の基本デザインを提案する。提案が採用されたら,今度は検出器開発の担当として,企業やJAXAの技術者とともにこれを開発して衛星に引き渡す。衛星そのものの開発は,JAXAの工学の研究者や企業の技術者のリードで行われる。組み立て後の試験や打ち上げ,軌道上での運用は,チーム一体となって遂行する。こうして初めて,われわれは科学データを入手し,宇宙の謎を研究することができる。

科学衛星に搭載する検出器は,桁違いの性能を実現するためにまさに最先端の技術を投入する。開発中のASTRO-H衛星も,これまでとは桁違いに優れたエネルギー分解能と広い波長帯域,そして感度を実現している。これにより,宇宙最大の天体,銀河団の中に満ちている高温プラズマの運動を初めて知ってその成長を目の当たりにできる。また,宇宙最大の粒子加速機である宇宙ジェットや,ブラックホールの研究も大きな進展が期待される。

しかし,宇宙環境は厳しい。真空,宇宙放射線に加え,打ち上げロケットの振動,衛星の重量制限,電力制限もある。なにより厳しいのは,一度打ち上げたら全く修理が利かないという事実である。最先端の技術とはすなわち,誰もやったことのない技術ということであり,開発には困難がつきものである。これを打ち上げ前に完全に解決することが求められる。実験物理屋として,最大の課題であり,やりがいでもある。なんとしてもこの衛星を成功させるべく,今われわれは全力でその開発に取り組んでいる。

東京大学とJAXA宇宙科学研究所は,学際理工学という特別な枠組みで一体となって宇宙科学研究を進めている。理学系では物理学,天文学,地球惑星科学の3専攻を中心に,理学系の教員や院生がJAXAのプロジェクトに参加すると同時に,JAXAの研究者が東大理学系(と工学系)の大学院教育に対等な立場で参加している。