南極地域 – 世界最多の隕石採集地 –

南極地域 – 世界最多の隕石採集地 –

三河内 岳(地球惑星科学専攻 准教授)

図1

今回採集した中で最大の隕石。約18キログラムある。
写真提供:第54次南極地域観測隊

日本の南極地域観測の歴史は50年以上にわたっている。南極での観測には大きく2種類ある。1つは,地球上の一測定点として,気象や地磁気などの観測を定常的に実施するもので「モニタリングともよばれる。すぐには成果が期待できないが,人為的汚染のきわめて少ない場所であるため,同じ観測を長期間継続し,データ蓄積することによって,地球環境の変動などを追うことができる。たとえばオゾンホールの発見はこのようなモニタリングによって得られた最大の成果である。もう1つは,南極の地理的特性を活かし,特有の現象や生物などを観測・観察するものである。オーロラや氷床の観測などが挙げられるが,たとえば掘削で得られた氷床コアからは,過去数十万年の気候変動が解明されてきている。

南極という立地によって,大きな科学的恩恵が得られているものがもうひとつある。それは,隕石の大量発見である。地球上のほかの場所にくらべて南極にとくにたくさんの隕石が落下して来るわけではないが,氷上に落下した隕石が長い時間をかけて氷河によって運搬され,集積する機構が存在するため,山脈に沿った裸氷帯で大量の隕石が見つかっている。1969年に日本の第10次観測隊がやまと山脈において9個の隕石を偶然に見つけたことに端を発し,その後,組織的な隕石探査が世界中の南極観測隊で実施されるようになった。それまで世界中で2000個程だった隕石の総数が,1回の探査で3000個以上もの隕石を採集することが可能になったのである。日本はこれまでにやまと山脈などの裸氷帯で隕石探査を実施し,発見した隕石の総数は約17千個に及んでおり,世界第2位の隕石所有国となっている。近年は昭和基地から西に約600キロメートル離れたセール・ローンダーネ山地での隕石探査をベルギーと合同で実施している。筆者も第54次隊に参加して2012年12月~2013年2月にかけて南極に滞在し,隕石探査を行った。

近年わたしたちは研究対象を地球から太陽系天体,さらにその形成過程へと広げてきた。太陽系形成の研究のためには,地球科学の伝統に倣うならば,地球外の天体に研究者が赴いてフィールドワークするのが最良であるが,現実的には不可能である。そこで隕石の登場となる。隕石を採集してそれを研究することが,惑星科学の研究者にとってはフィールドワークを自ら実施できるほぼ唯一の機会といえる。隕石は,太陽系誕生直後の約45億6千年前に形成されたものがほとんどで,惑星やさまざまな天体がどのように現在のような姿に進化していったかについての情報を含んだ貴重な試料である。

大量の隕石が発見される裸氷帯では,厚い氷床が南極大陸を覆っており,今回の隕石探査で訪れたナンセン氷原も標高が約3000メートル近くあった。白夜の真夏でも最高気温は-15度ほどで,カタバ風とよばれる内陸から吹いてくる風が常に風速10メートル以上ある過酷な環境の下で,隕石を求めて氷の上をスノーモービルで走り回った(図)。クレバスも多く存在するこのような環境で探査を行うことには危険が伴い,出発前には救命救急やセルフレスキューなど数多くの訓練を実施した。今回の隕石探査では10名が約1ヶ月半の間にわたってナンセン氷原に滞在し合計420個の隕石を採集した。採集した隕石は国立極地研究所で分類され,世界中の研究者に,リクエストに応じて配分されることになる。理学系研究科地球惑星科学専攻でもいくつかの研究室が南極隕石を使って,研究データを得ている。ほかには,佐藤薫教授がプロジェクトリーダーを務める大型大気レーダー計画(PANSY)が2012年から昭和基地で本格稼働しており,極地ならではの大気現象の観測を行っている。また現在,越冬中の第54次隊では博士課程在籍の福田陽子さんがオーロラなど宙空圏のモニタリング観測を担当して活躍しているところである。このように南極は地球惑星科学とさまざまな分野で密接に結びついた場所になっている。

南極地域観測についてのより詳細は国立極地研究所のホームページを参照されたい。