理学のヒナを育てる

山本 文雄(学校法人海陽学園海陽中等教育学校 数学科教員)

図1

図1:全国数学選手権大会にて

図2

図2:授業で板書中の筆者

PROFILE

山本 文雄(やまもと ふみお)

1999年
東京大学理学部天文学科卒業。
2001年
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程修了。
2005年
同博士課程単位取得退学。財団法人海陽学園設立準備財団にて同学園の設立業務に従事。
2006年
学校法人海陽学園海陽中等教育学校にて数学科教員として勤務。

研究か教育か。それは理学部や理学系研究科を目指し,そして実際に進学した後も,ずっと私の頭の中にあり続けたテーマであり,私が教職に関する科目を履修し教員免許を取得したのは自然な流れであった。

私は現在,愛知県にある全寮制の海陽中等教育学校に勤務し,いわゆる中学生・高校生に相当する生徒たちの数学教育にあたっている。理科ではなく数学なのはなぜか。それは,自らの体験を踏まえ,理科好きを増やすには,まず,数学好きを増やすのが良いと考えたからである。

大学院時代は天文学専攻の学生として,天文学教育研究センターの長谷川哲夫助教授(現国立天文台ALMA推進室教授・合同ALMA事務所副プロジェクトマネジャー)の研究室で観測的研究をしていた。大質量星の重力崩壊によって起きる超新星爆発の残骸(超新星残骸)に付随する分子雲を,一酸化炭素分子の回転エネルギー遷移に伴う輝線でとらえる。同センターが国立天文台野辺山宇宙電波観測所に設置した,60 cm電波望遠鏡を用いたサーベイ観測や,同観測所の45 m電波望遠鏡を用いた詳細観測を通じて,超新星残骸の衝撃波による加熱・圧縮を受けて,星形成の準備が整いつつある可能性のある分子雲を同定した。

このような研究内容が,中等教育でそのまま生きることはない。ではなぜ,その担い手になったのか。子どもの頃から人にものを教えることが好きではあったが,教育への関心が決定的に強くなったのは,国立天文台の三鷹キャンパスと天文学教育研究センターで行われる特別公開日において,展示や説明を担当したのがきっかけである。科学に興味をもった大勢の子どもたちを目の当たりにして,説明に熱がこもったのを覚えている。そのような素地があり,海陽学園設立準備財団常務理事でのちに海陽中等教育学校初代校長を務められた伊豆山健夫名誉教授(元教養学部物理学教室教授)から,理想に満ちた教育構想の提示を受け,現職に身を置くことになった。

授業では,数学とそれが支える科学(理科)や経済学(社会)などには,興味深いことや役立つことが確かに存在すること,それらを理解するためには地道な積み重ねも必要であることの両方を伝えることに力を入れている。また,手を動かして物をつくることも重要である。連立方程式の授業でオイラーの多面体公式を扱ったところ生徒の反応が良く,その後,不等式の授業でプラトンの立体(正多面体)が5種類しかないことを説明できたり,実際につくってみたり,という展開に自然に入っていった。中には,自らアルキメデスの立体(一様多面体のうちの13種類)をつくってみる生徒もいた。

教育の場は授業以外にもあり,まず,全寮制の特長を生かして,夕食後の自習時間に生徒たちのもとへ顔を出し,おもに学習内容に関する支援を行っている。大学や大学院ではどのようなことを学んだのか,そして自分がそこで何を学べるのかといった質問が出ることも多い。次に,放課後は数学部の意欲ある生徒たちへの先取り学習を行っている。2年生が興味をもったオイラーの等式の証明を目標に定めて,それに必要な微分や三角関数,指数関数などを始めとするさまざまな単元を学習するという形式をとり,およそ1年半で目的を達した。3年生になった彼らは,数検財団主催の全国数学選手権大会に参加し,高校生に胸を借りて,敢闘賞(3位)を獲得した。今後は,偏微分や重積分を始め,大学の一般教養レベルの内容にも足を踏み入れる予定である。

開校4年目も後半に入り,高校1年生にあたる4年生が,希望の職業に就くにはどの大学・学部に行くのが良いか,その受験・進学にはどの科目が必要なのか,といった下調べを始めた。理科系大学・大学院出身の教員として,身をもって数学の重要性を伝える機会が増え,理学部や理学系研究科での経験が生きていることを改めて強く実感している。