新興国で日本ブランドをつくる

岡島 礼奈(エルエス・パートナーズ株式会社 代表取締役)

ロゴ 図1

事務所で事業プラン策定中の筆者。上は会社のロゴ。

PROFILE

岡島 礼奈(おかじま れな)

2003年
東京大学理学部天文学科卒業。
2005年
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士修了。
2008年
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士修了。博士(理学)。
2008年
ゴールドマン・サックス証券入社。
2009年
エルエス・パートナーズ株式会社設立。現在,代表取締役。

新卒でゴールドマン・サックス証券に入社したが,リーマンショックでの社内の変化,金融情勢を目の当たりにし,日本を含む先進国とよばれる国々の閉塞感を感じた。そこで新興国に目を向けてみると,とてつもないパワーに圧倒された。そこで感じたのが,日本が沈み行く国であるということ。GDPもそろそろ世界2位をキープできなくなるであろうし,人口も減少に転じている。月並みな言い方だが,少子高齢化が進み,成長するという要素が感じられない。このまま緩やかに衰退していくのだろうと感じる。

その状況を打破したいという思いから,「日本ブランドをつくる」をモットーに,日本の企業が新興国に進出するためのアプローチのコンサルティングを行う会社,「エルエス・パートナーズ株式会社」を設立した。まだ立ち上げたばかりであるが新興国と日本をつないで,日本ブランドを世界に発信したい。日本とはまったく異なる習慣,文化の人と仕事するということに戸惑いながらも楽しんでいる。新興国はきちんとしたデータすらそろっていないことが多く,難易度は高いながらもとてもおもしろい。

大学院時代はいろいろな仲間に恵まれ,損得勘定なしの友達づきあいを楽しめた。好きに時間を使えるので,NPO法人の活動や,天文学科時代の友人達と「サイエンスとエンターテインメントの融合」をテーマに,基礎科学の事業化,ロボット,ゲームの3つの事業を行う,有限会社リヴィールラボラトリを設立,経営した。この会社は今も名前を変えて存続している。この経験は,再び今の会社を興す原動力となった。天文学の研究はあまり熱心に行っていなかったが,所属する研究室の吉井譲教授の寛大,熱心なご指導により,観測的宇宙論の分野で,博士論文を出すことができた。博士論文の題材は「コンパクト電波源に関するθ- z relation」。宇宙が今後どうなっていくのかを決定するパラメーターを制限する手法を研究していた。

大学院での研究自体は,今の仕事には役に立たない。宇宙のずっと先がわかっても経済的には何も関係がない。しかし,研究手法である問題点の発見,洗い出し,解決方法のアプローチなどは,すべての仕事に共通してゆく手法であり,考え方の基礎としてとても役に立っている。大学院にいってよくなかったことは,年齢と社会人経験のギャップ。研究を活かさない種類の仕事につくとなるとサラリーマンとしては少し痛い。早いうちから仕事をしたほうがよい場面もある。また日本の大企業は,専門職以外での博士の受け入れには積極的でなく,実は外資系しか,博士課程修了者に門戸を開いていなかった。しかし人生何が幸いするかわからないので,まだ結論づけるのは早い。人生万事塞翁が馬という言葉が最近とても身にしみる。

自分が外資系の,人材の流動性が高い分野の会社にいたからかもしれないが,終身雇用という概念はもうかなり幻想に近いと思う。おそらく今後の人たちは,より主体的に,自分のキャリアを考え,必要に応じて働く環境,手法を変えてゆくのだと思う。起業というのはその中のひとつの選択肢に過ぎないし,起業自体は目的ではなく手段である。私は起業を,働き方の選択肢のひとつとして勧める。起業しなくても自分の目標がかなえられる場所があればそちらに行けばいいと思うし,大企業のダイナミズムでしか実現できないことも多数ある。もちろん研究などは大学や研究機関に残ったほうがやりやすいだろう。よほどの資産があれば話は別だが。私にとって起業は,自身の自由度を最大限にし,フットワーク軽く働くための場所である。今は会社を日本に設立したが,1,2年のちにはシンガポールに拠点を移す予定である。このようなフットワークでいられるのも,起業ならではだと思う。

今は収益化の観点から,新興国にフォーカスを当てているが,もう少し余裕ができてきたら,理学,天文学に関するビジネスも興したい。そして日本ブランドの中の科学の濃度を高めてゆきたいと妄想している。そのための事業化のプランは現在策定途中であり,生涯をかけて実現したい。研究者は向いていなかったものの,やはり理学,天文学は心のよりどころである。