理学と工学の融合による産業貢献

紋川 亮(東京都立産業技術研究センター)

図1

高分子合成実験をする筆者

PROFILE

紋川 亮(もんかわ あきら)

2004年
東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了,博士(理学)。
2004年
物質・材料研究機構生体材料研究センター特別研究員。ドラックデリバリーシステムの開発,バイオセンサーの開発に従事。
2006年
地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター研究員。現在,研究開発部第二部ライフサイエンスグループ所属。

「理学と工学の融合」。これが,私の目標のひとつである。現在,私は,地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターに研究員として勤務している。業務は,企業・大学との共同研究の推進,企業の抱える技術的課題を解決する事業化支援業務などが中心である。これらの業務を通して東京都の産業発展および都民生活の向上を目指し努力している。具体的には,生活習慣病などの診断に利用できるバイオセンサーや大都市部の環境問題に関する研究開発・事業化に取り組んでいる。

学生時代は,就職に関して悩んでいた。理学出身,しかも地球惑星科学専攻であったため,企業への就職は難しいと思い込んでいたし,研究者として狭い分野でポストを争うことも不安に思っていた。ましてや,他分野への転換など考えてもいなかった。まさしく,自分で大きな壁をつくっていたと思う。学位を取得後,お世話になった先生から,2つの特別研究員公募のお話をいただいた。1つはバイオテクノロジー,もう1つは表面科学の分野であった。あまりに分野が違うため戸惑ったが,自分を少しでも必要としている所に飛び込んでみようと,別分野への転換を決意した。新しく学ぶことが多く苦労したが,その経験が現在の仕事に役立っていると考えている。

私には,学生時代の経験が,現在の業務に生きていることが2つある。1つ目は,「多角的視点による課題解決力」である。企業の要望は,生産現場における問題点の解決や新製品開発のための性能試験など多岐にわたる。そのため,幅広い分析手法を融合し,多角的視点から課題解決に取り組み,適切な改善方法を示すことが重要である。私は,この課題解決力を学生時代の先生方のご指導により,磨くことができたと考えている。学生時代は,火星隕石中に存在する水を含んだ鉱物の生成環境の解明をテーマとしていた。この研究を進めるためには,元素分析,構造解析,ガス分析など幅広い分析手法を用いることが必要であり,大学内だけではなく,他の研究機関の装置を利用させていただいた。そのため,さまざまな分野の研究者と議論する機会に恵まれ,1つの課題を多方面から検証し,解決することの大切さを学んだ。この経験が,現在の事業化支援業務に役立っている。

2つ目は,「深い探究心」である。研究開発で得られた成果は,まず「特許」という形で権利化する必要がある。とくに企業における特許は研究開発の重要な鍵となる。なぜなら,その権利の存在が,時に企業の味方となり敵ともなり得るからだ。企業は,せっかくの製品を何とか他社に真似されないよう自社の権利を主張するため,何十という特許を作成することもある。この特許の作成において,「深い探究心」がより強い権利の作成に役立つ。特許作成のさい,たとえば「なぜその製品が有効なのか」,「どのような理論・メカニズムに基づいているのか」,「他の方法で同じ効果が得られないのか」など,開発品について,さらに深く追求するとどうだろうか。おそらく,深く探求することで得た条件や理論を盛り込むことで,より強い権利主張ができるであろう。もし,この追求がなかったなら,他社に権利範囲外の技術を用いた対抗製品を売り出されるかもしれない。最悪の場合,他社に重要な権利を取得され,製品の販売ができなくなる。これは,中小企業であれば,経営に致命的な打撃を与える。情報化社会である現在,必要な情報は,誰でも簡単に得ることができる。このような時代にこそ,深い探究心によって,他社の追随を許さない技術開発が求められている。卒業後,金属,高分子,バイオなど,学生時代とは異なる分野の研究開発に携わる機会に恵まれた。それらの開発を通して,いくつかの特許を出願しているが,その作成の過程で,学生時代に培った探究心が生きている。

私は,これからも,学生時代に得た「多角的視点による課題解決力」と「深い探究心」を忘れずに,精進していきたいと思う。そして,大規模研究開発部を有することが難しい中小企業のブレーンとして,創出した研究成果の産業界への円滑な橋渡しを行い,将来的な社会還元に繋げられればと考えている。本稿が,これから進路を決められる皆さんが,理学部や理学系研究科に進学し,理学からさまざまな世界に羽ばたくきっかけになれば幸いである。