ナノを使って新しい色を作る

岩越 あや子(日本ペイント株式会社)

図1

図1:金属ナノ粒子による着色液(吹き出し内は金/銀複合ナノ粒子のTEM像)

図2

図2:金ナノ粒子含有塗料と塗膜の説明中の筆者

PROFILE

岩越 あや子(いわこし あやこ)

1996年
東京理科大学理学部化学科卒業。
1998年
東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程修了。
2001年
同博士課程修了,博士(理学)。日本ペイント株式会社入社。現在,R&D本部色彩技術研究所所属。

私は現在,金属ナノ粒子の研究を行っている。金属はナノサイズになることで,単純なサイズ効果だけでなく,バルクには見られないさまざまな特徴を示すことが知られており,金属ナノ粒子の応用分野は多岐にわたっている。金属ナノ粒子ならではの特徴のひとつに,プラズモン吸収がある。詳細は割愛するが,金,銀,銅は,ナノ粒子になるとそれぞれ赤,黄,赤色を示すのである。実は金ナノ粒子の赤色などは案外われわれの身近にもあり,江戸切子などのガラス細工やステンドグラスの赤色にも使われているので,皆さんもご覧になっているのではないだろうか。この,金属ナノ粒子を利用した色がわれわれのターゲットである。ナノ粒子を利用して,これまでの塗料に見られないような透明性の高い塗料用色材や金属メッキ調塗膜用塗料などを商品化し,これまでにない新しい意匠を世に送り出そうと研究を続けている。

学生時代は卒業研究ではペプチド合成を行っており,大学院に入ってからは有機合成の研究をしていた。研究テーマは修士課程,博士課程を通じてオキシム誘導体を利用した含窒素化合物の合成ではあったが,修士課程では天然物の基本骨格合成をしており,博士課程では素反応開発と,課程ごとに性格の違う研究となった。が,どの研究でも,結果が出ない時は試行錯誤を繰り返しつらいもので,いっぽう,結果が出た時の嬉しさやその結果をどうやって発展させようか考える時のワクワク感は変わらないものであった。

企業への就職活動を行うことに決めたのは,博士課程2年目の早い時期だった。大学院の研究生活にはつらいところもあったが,自分が世界で初めての反応を見つけるなどの大きな目標があった。しかし一方で,この反応は世の中にどの程度役立つのか?という疑問がわき,自分で見つけたものを商品化する,世の中に実際に役立てたい!という気持ちから企業への就職を選択したのである。

入社してすぐ,着手してほしい研究テーマとして,金属ナノ粒子を挙げられた。これまでの専門は有機化学であり,金属ナノ粒子はどちらかというと無機化学。一瞬戸惑いを感じた。しかし,先に述べたように,有機化学の分野ではあったものの,研究テーマが節目節目で変化していったことで,会社に入ってからのテーマの違いにあまり抵抗を感じずに新しいテーマを受け入れられた。そして,入社3,4年ほどは金属ナノ粒子の基礎研究をメインに行い,その中で,新しい発見ができ,特許を出したり,学会で発表したりしていた。現在はこれらの研究を基に,商品化へ向けて開発を行っている。商品化を目指して,となると,研究の質がまた大きく変わってくる。スケールアップは当然のことながら,商品を構成するユニットすべてをもっての性能が必要となってくるため,金属ナノ粒子のみ研究していればいいというわけではなくなるのだ。個人的には基礎研究によりおもしろみを感じるのだが,かわいいわが子を世に送り出すため,商品化へ向けて努力を続けている。

このように現在,学生時代とまったく違うテーマで研究を行っているが,大学院時代に培った研究の考え方・進め方・(結果がでないことに対する?)辛抱強さは,研究テーマが変われど普遍的なものであり,自分で研究目標を立て進めていくやり方が身についているからこそ,仕事に対するモチベーションがあがり楽しくなるのだと感じている。また,企業側の視点に立つと,企業の独自性を打ち出すためには基礎研究は欠かせないものであり,独自で研究を進められる人材がますます必要となっている。そういう意味でも大学院時代に身についたものはひじょうに貴重であったと思う。

ところで,現在は,1児の母になり,会社では研究者,家では子供の召使・・・いやいや母親業それから主婦業(これは半分くらい)をこなす毎日である。保育園のお迎えなどがあり,会社にいる時間も限られてくるため,なかなか実験三昧というわけにはいかないが,仕事にメリハリをつけられるようになったり,視点を変えることができるようになったりとメリットも多い。

1人3役の経験を武器に,将来,誰彼かかわらず受け入れられるような新しい意匠を世に送り出すことを目標にこれからも精進していきたい。