人工衛星や宇宙飛行士の安全を守る

越石 英樹(宇宙航空研究開発機構)

図1

図1:宇宙機や宇宙飛行士のサポートで対処すべき宇宙環境の概念図

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図2

図2:筑波宇宙センターのH -Ⅱロケット実機展示と筆者

PROFILE

越石 英樹(こしいし ひでき)

1996年 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了,博士(理学),技術士(航空・宇宙)。宇宙開発事業団入社。現在,宇宙航空研究開発機構研究開発本部宇宙環境グループ所属。

地上と宇宙空間の環境の違いと聞いて,ほとんどの人が思い浮かべるのは真空,無重力だと思うが,宇宙空間に特徴的な環境条件がもうひとつある。宇宙開発に携わる者以外にはあまり知られていない“放射線環境”である。地上にくらべて厳しい宇宙空間の放射線環境は,ロケット・人工衛星・宇宙ステーションなどの宇宙機の電子機器に劣化・故障を引き起こしたり,有人宇宙活動を行う宇宙飛行士の健康に被曝障害を与えたりする。私の所属するグループでは,宇宙放射線環境が宇宙空間での人類の活動に与える影響を対象とする「宇宙環境科学」という学際的な新しい分野の研究を行っている。また,宇宙放射線環境に関して,宇宙機の設計・製作・運用や宇宙飛行士の有人宇宙活動のサポートを行っている(図1)。

私は学部では工学部電子工学科に在籍し,大学院では理学系研究科天文学専攻に在籍して電波干渉計と太陽表面現象の研究を行った。学部,修士・博士と専攻分野を変えることは専攻分野が一貫する場合に比べて専門性が劣るように感じることもあるが,反面,複数の分野について広い知識をもつことができ,それらの境界に位置するような仕事を担う上で強みになるともいえる。そのため大学院在籍初期から,工学と理学の両方の知識が生かせる職業に就きたいと考えていて,それはプロジェクトマネージメントと研究を両立させたいという考えに変わっていった。将来的に研究職を目指すか実務職に就くかで迷いはあったが,博士課程3年次は博士論文執筆に専念したいと考え,博士課程2年次に民間企業の職場訪問や国家公務員試験の受験などで実務職に就く準備をした。最終的に決断したのは博士論文提出後で,プロジェクトマネージメントを主とした仕事を担いたいという理由から実務職を選んだ。研究職でもそのような機会はあると思うが,実務職の方が機会が多いと考えたからだ。

現在は,宇宙機搭載用の宇宙放射線観測センサの開発では,工学的な知識を生かしてプロジェクトマネージメントを行い,宇宙機の設計・製作・運用や宇宙飛行士の有人宇宙活動のサポートでは,理学的な知識を生かして宇宙機で取得したデータを用いた研究を行っている。両者を通じて感じるのは,大学院での研究で経験した物事を論理的に考える訓練は,どのような仕事に就いてもひじょうに有用であるということだ。発生した問題の本質を見極めてどのように解決していくか考える力や,あるいは,設定した目標までの道筋を見極めてどのように実現していくか考える力は,研究職,実務職のどちらでも求められる能力であり,大学院での研究経験はこのふたつの力を磨き上げてくれると思う。