理学部への期待

理学部への期待

橋本 和仁(工学系研究科応用化学専攻 教授)※

図1
橋本和仁教授

改めて述べるまでもなく,理学部の本来の使命は,人類知の追及や,目先の利益にとらわれることなく,100年あるいはそれ以上先の科学技術の基となる基礎学問を行うことである。昨今,「出口を見据えた基礎研究」などというのを目にするたびに苦々しく思っておられる方が,理学部に在籍される研究者,学生の殆どであろうと推察する。筆者も元は理学部出身であり,このような精神を学生時代に十分に鍛え込まれてきた。

いっぽうで,1999年に世界科学者会議が「科学は人類全体に奉仕するべきものであると同時に,個々人に対して自然や社会へのより深い理解や生活の質の向上をもたらし・・・」とのいわゆる「ブタペスト宣言」を出していることをご存じであろうか。21世紀の科学者の役割に関し,従来の視点からの大きな転換の必要性を謳っているのである。

またわが国においては1995年の科学技術基本法制定以降,政府は科学技術関係予算を大幅に増額してきた。たとえばここ20年間で,科学研究費は約2.5倍,科学技術振興費も2倍強となっている。これは主として科学技術の社会,経済への貢献を期待してのものであることを,理学部在籍の研究者とて直視する必要があろう。

「社会的要請はわかった。しかし,自分のやっている研究は応用とは全く関係ないので,貢献のしようが無い…」,そう思われる研究者も理学部には数多くいることだろう。そこで提案したい。自分の研究テーマを変更することは全く必要ない。しかし,これまでのテーマに加え,新たに社会的貢献を意識した研究課題を付け加えてみてはいかがであろうか。新たなテーマにかけるエフォート割合は,研究者によって当然異なってよい。しかし,重要なのは,他人に任せるのではなく,全員がそのような研究をそれぞれに開始することである。たとえ個々の貢献は小さくとも,理学部所属の研究者全員が,こぞってそのような意識をもち,研究を行えば,全体としてのベクトルはきわめて大きなものになるのではなかろうか。

理系少年の多くが理学部にあこがれ,その中でもとくに優秀な人が大学,大学院へ進み,研究者として活躍しているに違いない。理学部は理系頭脳の宝庫である。ぜひともこの優れた能力を,社会のため国家のためにも使ってもらいたいと切に願うのである。

※総合科学技術会議議員,産業競争力会議議員。1980年東京大学理学系研究科化学専攻修士課程修了