英語を勉強せずにグローバル人材になる方法?

英語を勉強せずにグローバル人材になる方法?

服部 記子(サノフィ株式会社 シニアマーケティングマネージャー)※

図1

様々な国籍の人が数万単位で集う国際学会の様子

2005年の夏,「語学留学してきます」と言い残し,私は研究室を飛び出した。人を助けたいという高尚な,だけれどもあいまいな理由で研究者をめざしていた当時の私は,大学院に進学したばかりだというのに,研究という仕事が自分に合っているのかわからずにいた。思い立つと実行せざるを得ない性分の私はいても立ってもいられず,理学系研究科における典型的なキャリアである研究者とは違う道を模索しに,とくに行く当てもないままスーツケースひとつでパリに飛び立ったのだ。

フランスを留学先に選んだのは半ば思い付きだ。理学部学生選抜国際派遣プログラムの前身である理学部海外渡航制度で初めて訪れたヨーロッパで「外国は食べ物がまずい」という概念を覆された上,ヨーロッパの学生生活の楽しさを垣間見ることになった。その後知人を頼ってパリに語学留学したのだが,やはりもう少し長く滞在したくなり,薦められたHECパリ経営大学院 (HEC Paris) に出願してみたのである。(ちなみに理学部海外渡航制度に参加した友人たちのほとんどは国際的に活躍する研究者になり,現在海外暮らしをしているものも多い。彼らにとってもあの2週間はいい刺激になったのであろう。)

それから8年,計3カ国,2つの大学に2つの会社,6つの都市,8つのアパートを経て去年の夏,仕事の都合でパリに戻ってきた。「研究とビジネスをつなぐ」という居場所を見つけ,現在はフランスの製薬会社で仕事をしている。こう書くとなんだか大げさに聞こえるが,ヨーロッパでは国境を越えて遠距離通勤している人なんてざらにいるし,キャリアのためには留学も外国勤務も必須条件だ。ヨーロッパではみな学生のうちに数ヶ月から一年にもわたる長期のインターンシップをするのだが,それを外国でする人も多い。文系の学生は多国籍企業や銀行で,理系の学生は製薬会社や製造業の研究開発部門で,といった具合である。そのせいか,数ヶ国語を流暢に話せるのも大学院時代の友達の中では「普通」のことであった。

とはいえ,こちらでいう流暢という概念は日本人が思っているそれとは少し異なっているように思う。私も昔は,発音がきれいで,ミスなく書いたり話したりできることが大事なのだと思っていた。しかし,東大理学部時代に外国人がいる研究室に在籍していたこと,また,いろいろな国の人が混ざり合って住むヨーロッパに来たことによってその概念は覆された。それ以来数々の職場をみてきたが,ヨーロッパでもアメリカでも,世界各国から来た人が英語を共通言語として働いているのが普通である。はじめは,「こんな海外経験の浅い,語学も完璧でない外人にどんな仕事を任せてくれるのか」と不安に思っていたものだが,そんなのは全くの杞憂であった。むしろ,日本人であることが有利に働くことがとても多い。

全体で見ると,英語をネイティブで話す人はむしろ少数派で,数ヶ国語を完璧に話す人など特殊な環境で育った人を除いてはほぼいないのが実情だ。極端に言えば,記者やコピーライターでない限り,訛っていても,文法が間違っていても,分かりやすいメールを書けて会議や学会で論理的なプレゼンを堂々とできる人が勝ちである。難解な英語が分かるよりインド人,フランス人,スペイン人の訛りを的確に理解できるほうがよっぽど助けになるし,完璧な英語にこだわるよりも違う外国語を学んだり,他分野の知識を身につけるほうが仕事上でも強みになる。

東大においても「国際的に活躍できるグローバル人材育成」というのが大きな課題になっていることであろう。そこで,学生の皆さんにはぜひ日本を飛び出してみてもらいたいと思う。学校や企業から派遣された短期滞在という枠を超え,自分の力で現地の人と同じ土俵に立ち,勉強やインターンシップをし,さらには現地で就職をして,東大の授業や研究で得た知識や技術を武器に真のグローバル人材になってほしい。

※2005年 東京大学理学部生物学科卒業