「求む 異端児」…?

「求む 異端児」…?

長谷川 修司(物理学専攻 教授)

図1

2008年国際物理オリンピックベトナム大会での日本チームの入場行進。このうち何人かは現在,理学部・理学系で活躍中。(NPO物理オリンピック日本委員会提供)

標題は,東大・京大の入試改革を報じる2013年4月14日(日)の讀賣新聞の記事の見出しである。大学のグローバル化,大学教育の実質化(?),学生の均質化・内向き志向など,昨今,大学教育に関する記事をよく見かけるが,秋入学や新学事暦の議論と呼応しているのだろう。他大学では縮小傾向の推薦入試を東大と京大が今更始めるとのこと。3100名の新入生のうち100名の「異端児」を受け入れようとのことだが,想定しているような「異端児」,すなわち特定の分野に例外的な優れた才能をもつ生徒がこの国に実際にいるのか,「異端児」を受け入れたはいいが大学でその子たちをうまく伸ばせるのか,理学部の諸兄姉も半信半疑といった気もちだろう。

2005年の世界物理年をきっかけに,高校生の実力を競う国際物理オリンピックに日本もやっと参加することになり,私はそれ以来その活動に参加している。そこで,数は少ないが上記のような「異端児」が日本にも生息しているのを発見して驚くと同時に嬉しくなるという経験をしているので,その最たる例を紹介したい。

毎年,夏の国内コンテストで選抜された約10名の日本代表最終候補生たちは,年末の強化合宿に参加することになっているが,高校2年生の彼は,ある大学の飛び級入試の面接のために遅れてやって来た。しかもたいへん落胆した様子で。話を聞いてみると,その面接では,黒板に図や式を書きながら,水平に投げ出したボールの運動を解析しなさいという問題が出されたとのこと。ここぞとばかりに彼は一般化座標を使ってラグランジアンを書き,そこから運動方程式を導き出そうとしたところで試験官に制止された。「君は何をやっているんだッ?」「今からラグランジアンから運動方程式を導くんです」「君はニュートンの式を知らないのか?」「ですから,それを導くんです…」「君はふざけているのかッ?」「ですから,運動方程式が出てきますから…」「もういい!」(多少の脚色はお許しを)。高校2年生がラグランジアンを知っているとは!(そして,その試験官が知らないとは!?)私は嬉しくなって彼に聞いたら,『ランダウ‐リフシッツ理論物理学教程(全9巻)』,『スミルノフ高等数学教程(全12巻)』,どちらも半分以上読み終えたという。しかも,高校では,微分積分の授業中に,εδの概念無しで微積を勉強してもしょうがいないのではと発言したら,数学の先生から,お前はだまっていろ,と言われてそれ以降相手にされなくなったという。結局,彼はその高校からアメリカンスクールに転校することになり,卒業論文をギリシャ語で書いたというまさに「異端児」。5名の代表選手の最終選考を兼ねた春合宿では,彼はアラビア語のコーランを英語対訳をたよりに読んでいた!結局,彼はオリンピック国際大会には出場できず,また,飛び級入試にも東大入試にも落ちて,その後,大学には行かずに別の道を歩んでいる。

もちろん他の多くの物理オリンピック選手や最終候補生たちは東大入試を突破して現在も学部・大学院で活躍している。ある学生は,駒場時代の全学自由研究ゼミナールをきっかけに生産研で研究を始め,駒場2年間で投稿論文にまとめるまでになったとのこと。

物理オリンピックでは大学1,2年程度までの内容が試験の範囲に入っているので,相当な「早熟」が求められる。物理オリンピック活動が日本で始まった頃,物理教室の教室会議で「そんないびつな高校生をつくってどうするんだ!」とある大教授が言い放ったのを覚えているが,時代は変わるもので,今やそんな「いびつな高校生」を東大が積極的に欲しいということになるなんて…。なので次の問題は,そのような「異端児」を大学でどう育てていくのか,ということになる。元オリンピック選手のある学生が駒場生だった頃,こんなこと言っていたのを思い出す。「最近は4元ベクトル表記しか使っていないんで,来週の電磁気の試験のために久しぶりにEとかBの表記を復習しなくちゃ…。」