第9回 同じに見えても同じではない英語と日本語

トム・ガリー (Tom Gally)

英語と日本語はかなり違う言語である。文字も違うし,文法,語彙,発音も違う。これは,あまりに当然なことであるから,あえて述べる必要はないと思うかもしれないが,両方の言語を使う人にとっては決して油断できない事実である。長年,両方の言語を使ってきた人にとっても,同じに見える英語と日本語の言葉が意味や使用法で違う場合が多いからである。

例えば,英語が達者な日本人が書く論文などには,次のような文をよく見かける。

  • We examined the effects of gamma radiation on fullerene and so on.
  • 私たちは,ガンマ放射線のフラーレンなどへの影響を調べた。

ここでは「and so on」と「など」に注意したい。この二つの表現はまったく同じ意味を持っていると思っている人が多いようだ。確かに,和英辞書で「など」を調べると,「and so on」がその英訳として載っていて,実際の英文と和文でも「and so on」と「など」が同じ意味で使われている場合もある。しかし,場合によっては決定的な違いもある。私が関わってきた和英や英和辞書でもその違いがまだじゅうぶん説明されていないから,英英辞書と国語辞書の記述を比較して検討しよう。

まず,「and so on」。学習者用の英英辞書には,次の定義と用例がある。

  • and so on (ALSO and so forth) together with other similar things: schools, colleges and so on (出典:Cambridge Advanced Learner's Dictionary)

つぎは,国語辞書の「など」。

  • など 例として示す意を添える。同類のものが他に有っても無くてもよい。(出典:『岩波国語辞典』第6版)

英英辞書の「together with other similar things」と国語辞書の「例として示す意を添える」はだいたい同じことを指しているが,「同類のものが他に有っても無くてもよい」にあたる意味は英英辞書にはない。実際にも,「and so on」については「同類のものが他に無くても良い」ということは決してない。「and so on」には,「同類のものが絶対にある」という意味が入っている。それは「and so on」と「など」の違いの一つなのである。

もう一つ違いがある。それは,「and so on」を使うには,読者がその「同類のもの」が何であるか,具体的に推測できる文脈が必要だということである。例えば,上の英英辞書の「schools, colleges and so on」という用例では,「and so on」が「教育機関」を指している,と読者がわかる。具体的にどういう教育機関かわからないが,「vocational schools(職業訓練学校)」や「military academies(陸軍士官学校)」のようなものだろう。

一方,「など」についてはその「同類のもの」が推測できる場合もあるが,推測できなくても良い。例えば,同じ『岩波国語辞典』には,「その事は国会などで問題になった」という用例がある。「国会など」の「など」は何を指しているだろう。マスコミ? 都道府県議会? 政治家たちの行きつけの飲み屋? 日本語ではこの曖昧な「など」で差し支えないが,その例文を「That matter became an issue in the Diet and so on.」として英訳したら,「and so on」が何を指しているかわかないから英語としては不自然である。

冒頭に取り上げた例も同じである。論文の読者が「fullerene and so on」を読んだら,「フラーレンの他に,一体何を調べた?」と知りたくて苛立つだろう。ここで,読者を苛立たせないようにするには,いくつかの方法がある。一つは,例を追加して推測できるリストにすることである。

  • We examined the effects of gamma radiation on fullerene, graphite, diamond and so on.

このように「fullerene, graphite, diamond and so on」にしたら,「and so on」が「(フラーレン,グラファイト,ダイヤモンドのような)炭素の同素体」であることが分かるようになる。

もう一つは,「and so on」が指す分類を明確にすることである。

  • We examined the effects of gamma radiation on fullerene and other allotropes of carbon.

または

  • We examined the effects of gamma radiation on allotropes of carbon such as fullerene.

こうすると,「フラーレンなど,炭素の同素体」という,じゅうぶんな説明になる。

最後に,「など」がとくに同類の物を指さない場合は,次のように「and so on 」を省くべきである。

  • We examined the effects of gamma radiation on fullerene.

和製英語の困惑

「and so on」と「など」のような,同じに見えても実際に違う表現が英語と日本語には山積している。その違いの一部は和英と英和の辞書に指摘されているが,我々,辞書編纂家でも気が付いていない違いもたくさんある。特に厄介なのは和製英語である。和製英語というのは,英単語をベースにした,日本語でしか通用しない表現である。「ナイター」「オフィスレディー」「コンセント」などのような定着している言葉は辞書でちゃんと「和製英語」としてラベルされているが,新語や専門用語については「本当の英語」と「和製英語」の区別はなかなか難しい。

私もこの間,米国人の翻訳者と話していたときに,あるウェブサイトについて「Check the site's top page.(そのサイトのトップページを見てください)」と言ってしまった。その翻訳者は,「Do we really say "top page" in English? (英語でも本当に『top page』と言いますか)」と聞き返してきた。私が後で調べたら,確かに英語では top page ではなく,「home page(または homepage)」が普通だとわかった。

どうやって調べたかというと,言葉の使用を確認するために有用な新しいツールを使った。それは,グーグルなどのサーチエンジンである。現在,インターネット上にだれでも自由に閲覧できるページは100億近くあると推測されている。その半分ぐらいが英語で,また約5%が日本語で書かれているから,インターネットは両言語の膨大な用例集でもある。グーグルなどで言葉を検索すると,それが入っているページの数も表示されているから,その言葉が使用されている頻度を確認できる。

例えば,グーグルで「top page」や「トップページ」が入っているフレーズで検索したら,次の結果がでた。

  • "on the site's top page"23
  • "on the site's home page"15,000
  • "on the site's homepage"9,420
  • "サイトのトップページで"14,200
  • "サイトのホームページで"384

これを見ると,英語と日本語の似た文脈では,英語では「home page」または,「homepage」,日本語では「トップページ」が普通に使われているとわかる。私が会話で「top page」を使ってしまったのは,日本語で「トップページ」をよく見ていたからだろう。この経験から,私は今までよりもさらに細かいところまで英語と日本語の違いに注意することを決心した。

ただし,両言語の違いは単語やフレーズのレベルだけにあるわけではない。文全体の構造にも気が付きにくい相違がある。それについては次回にお話ししたい。