第8回 英語での口頭発表の準備

トム・ガリー (Tom Gally)

国際会議やセミナーで,日本の科学者が英語で発表する機会が増えている。英語に自信のある人,例えば留学経験のある人などにとっては,それは日本語で発表することとあまり変わらないことである。日本語で上手に発表できるのであれば,英語でも上手にできるはずだ。しかし,英会話が苦手な科学者にとっては,日本語での発表能力がどんなに優れていても,発音やイントネーションなどが違う英語での口頭発表は苦痛そのものである。今回は,そういう英語が得意ではない人はどのようにすれば良い口頭発表を準備できるか考えてみたい。

まず台本の作成から始めるべきだ,と私は思う。これに異議を唱える読者もいるだろう。「日本語でも英語でも,台本を上手に読み上げるのはひじょうに難しいことだ」,「俳優のような演技力がないとうまくできない」,「少し言葉がつかえても自由に台本なしで話したほうがわかりやすい」,などという反論である。私も基本的にこの反論には賛成だが,今まで教えてきたような「英語が得意ではない」若い科学者が,いきなり台本なしで口頭発表することはまず無理だと思う。数回台本を使って発表したら台本を捨てて自由に話せるようになる人が多いが,初めて英語でプレゼンテーションするときには台本作成から準備するように,と私は勧めたい。

前回は,台本作成には略語や数字を言葉に書き直す必要があると書いた。それは,発表者に読みやすくするためでもあるし,聞き手にわかりやすくするためでもある。同じ理由で,台本でのセンテンス(文)を短くしなければならない。例えば,論文などでは次のようなセンテンスをよく見かける。

  • A major clue for explaining the extinction of the dinosaurs was the discovery in 1980 of high concentrations of iridium, which is normally rare in the Earth's crust, in the stratum at the Cretaceous-Tertiary boundary.
  • 恐竜の絶滅を説明するための大きな手がかりの一つは,ふつう地殻にはまれなイリジウムが1980年,白亜紀・第三紀境界層の地層に高濃度で発見されたことだ。

このセンテンスは論文では大丈夫だが,そのまま口頭発表で読み上げようとすると二つの問題がある。一つは,センテンスそのものが長すぎることだ。「A major clue...」から読み始める前に息を大きく吸っても,「...Cretaceous-Tertiary boundary」にたどり着くまでに息が続かなくなるだろう。もう一つは,センテンスで伝えている情報が多すぎる,ということだ。ただ,この両方の問題は,長い文を分割することで解決できる。

長いセンテンスの分割は,関係節を独立させることから始めればいい。書き言葉では関係節をよく使用するが,話し言葉では,特に非制限用法の関係節はあまり使わない。上の文では「which is normally rare in the Earth's crust」が非制限用法の関係節なので,まず次のように2文にしたい。

  • [1] A major clue for explaining the extinction of the dinosaurs was the discovery in 1980 of high concentrations of iridium in the stratum at the Cretaceous-Tertiary boundary.
  • [2] Iridium is normally rare in the Earth's crust.

このように,関係節を独立させるときに,その節で省略されていた主語や目的語が復帰していることになる。ここで復帰しているのは,動詞「is」の主語「Iridium」である。

この修正だけで,聞き手にとっては文がかなりわかりやすくなったと思う。ただ,「A major clue」で始まるセンテンスには情報がまだ多すぎる。文章ではそのような複雑な文に出会ったら,読者はゆっくり読み返すことができるが,口頭発表では一回しか聞けないから,わからない単語があったり,または聞き逃したことがあったりすると,もうどうしようもなく不理解のままで終わってしまう。そのため,このセンテンスをさらに分割する必要がある。

まず,「A major〜」の文で伝えられている「情報」を数えてみよう。「恐竜の絶滅を説明するために大きな手がかりがある」がその一つ。次に,「その手がかりは1980年に発見された」と「その発見は,白亜紀・第三紀境界層の地層との関係があった」がある。最後は,「その地層には,高濃度のイリジウムが存在する」である。この4つの「情報」をそれぞれ独立の文にしたら,最初の長いセンテンスは次の5つのセンテンスになる。

  • [1] There is a major clue for explaining the extinction of the dinosaurs.
  • [2] That clue was discovered in 1980.
  • [3] The discovery involved the stratum at the Cretaceous-Tertiary boundary.
  • [4] That stratum contains high con-centrations of iridium.
  • [5] Iridium is normally rare in the Earth's crust.

このように長いセンテンスを細かく分割すると,「a major clue」と「That clue」,「discovered」と「discovery」,「the stratum」と「That stratum」,「iridium」と「Iridium」のように,繰り返しが多くなる。論文だったらこれは稚拙な文体に見えるが,口頭発表では全く問題ない。逆に,それぞれのセンテンスは一回しか読み上げられないので,聞き手の理解を助けるにはある程度の繰り返しが望ましい。

初めて大勢の人の前で外国語で話すときには,だれでも緊張するだろう。しかし,今回説明したように読みやすい台本を作って,その読み上げを何回も練習すれば,英語が不得意な人でもわかりやすいスピーチができるようになると,私は確信している。

次回は,このシリーズの読者の方々から寄せていただいた質問に答えたい。