第5回 冠詞と関係節

トム・ガリー (Tom Gally)

日本の英語教育では,関係節の制限用法と非制限用法の違いが必ずと言ってもいいほど取り上げられる。にもかかわらず,日本人が書いた英語論文などでは関係節の間違いがよく目につく。それはなぜだろう。

まず,制限用法と非制限用法を簡単に見てみよう。次の例で太字で示されている関係節は,制限用法だ。

  • We weighed several samples, and we analyzed the sample that had the highest density.
  • (いくつかのサンプルを計量して,密度の最も高いサンプルを分析した。)

複数のサンプルの中から,一つだけが分析された。そのサンプルは,that had the highest densityという関係節で「制限」されているわけだ。

次の例は,非制限用法だ。

  • We took a sample of the substance. Later, we analyzed the sample, which had a reddish color.
  • (物質のサンプルを採った。その後,赤みを帯びていたそのサンプルを分析した。)

ここでは,サンプルが一つしかないから,which had a reddish color という関係節はその意味を制限しているのではない。そのサンプルについての情報を付け加えているだけなのだ。

一方,制限用法では名詞と関係節の間にカンマを使わないで,関係詞はthat または which にする。非制限用法では, that が不可で,カンマと which を使う(関係節の文法はもっと複雑だが,ここでは詳細を省略する)。

さて,ここで興味深いのは,関係節で修飾されている名詞は読者に知られているかどうかという問題だ。最初の例では,読者が制限的な the sample that had the highest density を読むときに,「密度の最も高いサンプル」の存在を初めて知る。そのサンプルのことは新しい情報で,今まで読者に知られていなかったのだ。一方,非制限的な the sample, which had a reddish color では,そのサンプルが前のセンテンスでも言及されているから既に読者に知られている古い情報なわけだ。

このように,「制限用法=相手に知られていない」と「非制限用法=相手に知られている」という傾向が強い。このシリーズを読んできた人はもう気がついていると思うが,この関係節の用法は冠詞の用法とかなり近い。というのは, the sample that had the highest density は不定冠詞の a sample と同じように,読者がどのサンプルなのかわからないことを指している。一方, the sample, which had a reddish color は定冠詞の the sample のように,読者に既に知られている,という意味だ。

「相手に知られているか」,「相手に知られていないか」という違いは,冠詞だけでなく関係節にも深い関わりがあるわけだ。それだけではない。「相手に知られている」という分類には, my book などの所有格も,Japan,Ms. Suzuki などの固有名詞も入っている。これらは,定冠詞が付いている the book や the country, the woman と同じように機能する。例えば, 次の例のように, Japan が関係節で修飾されているときには,非限定用法を用いるのが普通である。

  • I visited Japan, which is an Asian country.
  • (私はアジアの国である日本を訪れた。)

これを限定用法にすると,次のようになる。

  • I visited the Japan that is an Asian country.
  • (私は,(複数の日本の中から)アジアの国である日本を訪れた。)

このように,「相手に知られている」固有名詞を制限的関係節で修飾すると,妙な意味になってしまうことが多いので,用心しなければならない。

英語を母国語とする人は小さいときから「相手に知られているか」,「相手に知られていないか」の文法的な違いを無意識的に習得する。the と a の違いは,英米の学校ではまったく教えられていないし,大人になってもその違いを説明できないネイティブも多いと思う。でも,説明できなくても冠詞などの間違いをしない。一方,「相手に知られているか」、「相手に知られていないか」の違いは日本語の文法には重要ではないから,日本人にとっては冠詞や関係節の使用が難しい。そのため,冠詞用法の説明や練習がもっと積極的に日本の英語教育に導入されることが望ましい。(私のような,大人になってから日本語を習い始めた人にとっては,日本語の「は」と「が」の違いがとても難しい。このシリーズを日本語で書いているが,「は」を使うべきか「が」を使うべきかいつも悩んでいる。)

上で「古い情報」と「新しい情報」という概念にちょっと触れたが,これも英文の執筆に大切な区別だ。次回,詳しく説明したい。