第4回 冠詞が必要な時と不必要な時

トム・ガリー (Tom Gally)

日本語を母国語とする人が書いた英文を読むと,次のような誤用がよく目につく。

  • We synthesized compound and measured molecular weight.
  • (私たちは,化合物を合成して,そして分子量を測定した)

何が誤用かというと, compound と molecular weight の前に冠詞がないことだ。

もちろん,すべての名詞の前に冠詞を使わなければならないわけではない。次のセンテンスのように,それぞれの名詞を複数形にしたら無冠詞でも間違いにならない。

  • We synthesized compounds and measured molecular weights.

冒頭の文に冠詞が必要なのは, compound と molecular weight は可算名詞で,単数の可算名詞には普通,冠詞や所有代名詞などが付くからだ。次のように, compound の前に冠詞の a を付けて, molecular weight の前に所有代名詞の its を付けたら文が正しくなる。

  • We synthesized a compound and measured its molecular weight.

「無冠詞の単数形可算名詞」という誤用が日本人の英語に目立つのは,日本語には可算と不可算という分類が存在しないことが一つの理由だ。また,可算名詞と不可算名詞をどのように区別できるか,日本での英語教育でじゅうぶん教えられていないとも言える。受験英語でも英会話学校でも,名詞の意味だけが強調され,その可算分類が軽視されがちだ。

ただし,名詞の意味だけでは可算か不可算かは判断できない。例えば, apparatus と equipment は,意味がほとんど同じで,両方とも「装置」として和訳できる。しかし, apparatus は可算で equipment は不可算だ。そのため, apparatus には複数形(apparatuses)があって,無冠詞の単数形で使えないが, equipment には複数形がなく(equipments は不可),単独で使ってもいいのだ。そのため,次の文のいずれも大丈夫だ。

  • We installed a new apparatus.
  • We installed new apparatuses.
  • We installed new equipment.
  • (私たちは新しい装置を設置した)

しかし,次の二つは間違いだ。

  • We installed new apparatus.
  • We installed new equipments.

前者には無冠詞の単数可算名詞,後者には不可算名詞にはない複数形があるから,両方とも誤用なのだ。

もう一つややこしいのは,多くの英語名詞は文脈によって可算になる場合も不可算になる場合もあることだ。 molecular weight もその一例。冒頭の文のように, molecular weight が「特定物質の分子量」を指すときは可算名詞になるが,「分子量という性質」を意味するときは不可算名詞になる。次のような文では無冠詞で使ってもいいわけだ。

  • Molecular weight is an important property of monomers.
  • (分子量は,モノマーの重要な特性の一つだ)

「無冠詞の単数形可算名詞」という間違いを犯さないためには,それぞれの名詞がそれぞれの意味で可算になるか不可算になるか,覚えなければならない。この区別はまず,辞書で調べられる。学習者用の英和辞書や英英辞書には [C] (countable = 可算)と [U] (uncountable = 不可算)などの記号がそれぞれの語義に付いているから,論文などを書くときに辞書を活用すればいい。しかし,会話のときに辞書を調べる時間がないし,専門用語の多くが学習者用辞書に載っていないから,もう一つの方法も推薦したい。それは,名詞の分類を見分ける技能を習得することだ。

この技能は意外に簡単。次の二つのルールだけを覚えればいい。

  1. 無冠詞の単数形で使われていたら,不可算名詞だ。
  2. a または an が付いたら,または複数形で使われていたら可算名詞だ。

次の文章で不可算名詞を太字で,可算名詞を斜字で示す。

  • Electroluminescence is a phenomenon where an object such as a natural blue diamond emits light when an electric current is passed through it. The light emission is mainly observed in semiconductors.

Electroluminescence と light は無冠詞の単数形なので不可算名詞だとわかる。 phenomenon, object, diamond, current はそれぞれの前に a または an が付いているから可算名詞だ。 semiconductors は複数形だから,これも可算名詞。

残念ながら,下線の emission のように単数形に the や this,that などが付くと可算か不可算かわからない。この意味での emission がどの分類に入るかは,辞書で調べるか,出版物やインターネットなどで同じ意味での用例を探さなければならない。

文脈から名詞の分類を見分けるようになったら,いちいち調べる必要がなくなる。英語のネイティブと同じように,名詞を読んだり聞いたりすると,無意識的に可算か不可算か覚えるようになるだろう。そうなったら,日本人がよくする冠詞ミスは犯さなくなるはずだ。

次回は,冠詞と関係節について考えたい。