空飛ぶ天文台に乗って

空飛ぶ天文台に乗って

岡田 陽子(ケルン大学 博士研究員)

図1

SOFIAを背景に,GREATチーム(ニュージーランドにて )

図2

ときには SOFIA から景色が楽しめる

天文学での「観測」と聞くと,皆さんはどのようなものを思い浮かべるだろう か。ハワイやチリの高山での観測,衛星を使った観測などさまざまな目的に応じた天文台があるが,私が現在深く関わっているSOFIA (Stratospheric Observatory For Infrared Astronomy) は,アメリカとドイツの共同プロジェクトで,飛行機に望遠鏡を乗せて飛びながら観測するというものだ。望遠鏡の直径は2.7m,飛行高度は12km から14km である。この高度まで上昇することにより,5000mの高山の上でも大気の吸収が強くて観測ができないような波長帯での観測が可能となる。いっぽう,いったん打ち上げたらほぼ変更ができない衛星と違って,常に最新の技術を使って装置の改良が可能であり,10年20年にわたる運用ができるというのも飛行機天文台の利点である。私はこのSOFIAの観測装置のひとつである GREAT (German REceiver for Astronomy at Terahertz frequencies) チームの一員として,いくつかのサイエンスプロジェクトを遂行するとともに,観測サポートにも関わっている。フライトは,日没頃に離陸し,その晩にねらう天体の方向に応じてあらかじめ計画された飛行経路を一晩飛んで,明け方に同じ場所に戻ってくるということをくりかえす。普段はアメリカのカリフォルニア州を拠点にするが,去年の7月にはSOFIA の初めての南天遠征に参加し,ニュージーランドから南天の天体の観測を行った。現在はそのデータの解析に忙しい毎日である。

私がケルン大学にポスドク研究員として来たのは5年前。そもそもは,「一度くらい海外でポスドクを経験しておいたほうがいいだろうなあ」という程度の動機で,自分の研究分野に合った公募を探し,採用されたのがケルン大学だった。幸運なことにここでの研究環境が気に入り,月並みなコメントになってしまうが,研究に関しても文化や人間に関しても気づいたことや学んだことは本当に多く,来てみてよかったと思っている。

海外の公募に出す際に一番躊躇したのは実は英語力である。私は英語が得意なほうではなく,日本にいたときには国際会議に出席するたびにコミュニケーションが大変で,「このような状態が毎日続く,海外ポスドクなんて無理」と正直思っていた。しかしやってみたらなんとかなるし慣れるものである。ヨーロッパでは英語がネイティブではない人が多数派であり,英語が非常に流暢な人もいれば母語の訛りが強い人もおり,ときには一単語だけ別の言語が混じっていたりもするが,それでも何の問題もなく議論が進む。文章についても,書いた人の母語にひきずられた典型的な間違いが存在するというのが当たり前であり,大陸ヨーロッパをベースにした論文誌には最終段階で英語校正がある。

英語が不自由なく使えるにこしたことはないのだろうが,もし英語が理由で海外に出ることを躊躇している人がいたら,ともかくやってみたらと勧めたい。私は,海外生活が合うかどうかは,人により,また滞在国により違うと思っている。海外で研究員をやったが楽しめなかった,合わなかったという人ももちろんいる。しかしそれは実際にやってみないとわからない。私は,国際化を語るような視点から海外に出ることを勧めるのはあまり好きではないが,自分自身の経験を深め,別の視点を学んで考えを深めることができるという点では,海外で研究員生活をして得るものは大きいと思っている。

PROFILE

岡田 陽子(おかだ ようこ)

2006年 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了 博士(理学)
2006-2009年 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA/ISAS) プロジェクト研究員
2009年 ケルン大学 (Universität zu Köln) 博士研究員