世界で活躍できる日本人へ

世界で活躍できる日本人へ

中村 優希(教養学部附属教養教育高度化機構 特任助教)

図1

グループメンバーと。前列右から2番目に岸義人先生,左から3番目に筆者。

私は,中学から大学まで米国で育ってきたことから,逆に人一倍,日本への愛着が強かった。そのため,科学者として将来日本の役に立つ研究がしたいというおもいから,化学専攻の中村栄一教授のご指導のもと,新しい化学反応の開発や電子顕微鏡で観察した単一有機分子の構造解析など,有機化学の中でも多岐に渡る分野で研究を行ってきた。そして,2012年3月に晴れて理学博士を取得し,卒業した翌月の4月下旬よりハーバード大学 (Harvard University) の岸義人名誉教授のご指導のもと,米国で博士研究員として1年半に渡る研究生活を送ってきた。

博士課程時に進路について悩んでいた際,恩師である中村先生には,海外でポスドクをし,視野を広げてスキルアップすることを強く勧められた。実力社会である米国で実りのあるポスドク生活を送る事ができるか不安もあったが,自身の化学者としての力量を測り,さらに将来有能な研究者になるために修行したいという決意のもとに渡米した。私が,岸研究室をポスドク先として選んだ理由は,世界でご活躍されている大先生の厳しいご指導のもとに,有機合成という自分にとって未知の分野に挑戦してみたかったためである。

岸研究室では,複雑な構造をもち,かつ毒性のある,薬剤に応用可能な天然化合物の全合成を中心に研究が行われている。なかでも,私は天然物ハリコンドリン類に共通する中間体の合成法を研究していた。大学院時に反応開発を行っていたため,その経験を合成でも活かす事ができ,同僚とのディスカッションにもたいへん役立った。岸先生は,有機化学に対する情熱と探究心を76歳というご年齢になられてもなお持ち続けておられ,毎日研究室に見回りにいらしては,研究員の一人一人と研究の進行具合について議論されていた。私は,先生の研究への熱意や教育熱心な姿勢にとても感銘を受け,また,研究や人生における哲学についてもいろいろと享受させていただいた。

また,結婚し家族をもちながらもポスドク研究員として働いている女性の同僚の存在にも励まされた。大学院の頃は,そもそも女性の同僚が少なかったが,子育てをしながらポスドク研究員としてバリバリ研究している同僚を目の当たりにし,プライベートを犠牲にしなくとも,研究者として働いて行ける道もあるのだと勇気づけられた。

留学してみてひとつ残念に思った事が,日本人学生やポスドクの少なさだ。学内には,他のアジア人留学生が多い中,日本人学生は指で数えるほどだ。岸研究室に至っても,12~13名のポスドク研究員のうち,日本人は私を含めたったの3名だった。有機化学界の大御所でもある岸先生を含め,世界で活躍する先生方から研究の指導を頂くチャンスを多くの日本人が逃しており,ひじょうに残念だ。一般的にポスドク=アカデミック志望という感覚があると思うが,実際は,米国でポスドク活動をする事で,日本の大手製薬会社や化学メーカーへの就職の道も充分にあるのだ。米国にはいろいろな国からさまざまなバックグラウンドをもった人材が集まってくるため,そういった環境に順応でき研究成果を出せる人は引く手あまたなことは言うまでもない。その証拠に,毎年ボストンでは多くの日本の大手企業が,米国で活躍している有能な日本人学生やポスドクをリクルートしている。文系の人材だけでなく理系科学者の需要もひじょうに高い。アカデミックや企業を問わず世界で活躍するサイエンティストになるためには,自分にとって居心地のいいコンフォートゾーンから一歩踏み出し,視野を広げる事がきわめて重要になってくる。海外で研究に励む事は,研究者としてのみならず人として成長できる絶好の機会だ。くわえて,日本には優秀な人材が山ほどいることを世界中の人に知ってもらいたい。異国の地で思う存分大好きな学問を追求し,少しでも自分の力を試してみたい!という気持ちがあるならば,ぜひ世界に羽ばたき海外で学び,将来,日本のために役立ててもらいたい。

現在私は,東京大学駒場キャンパスで, 外国で勉学に励んできた学生達のために英語で教育をするというPEAKプログラムの化学実験講義担当の特任助教として 11 月より着任している。職務内容は,教育がメインだが,今後も研究は続けていきたい。大学院とポスドク生活を経て,反応開発を追求していきたいと再確認できたため,今後は,駒場でお世話になっている尾中篤先生の研究室のスペースをお借りし,研究を続けて行こうと思う。研究を続けつつ,進路に悩んでいる学生達に少しでもいいアドバイスができるよう尽力し,今後の日本を担う学生の教育に力を入れていきたい。

PROFILE

中村 優希(なかむら ゆき)

1998年 中学よりカリフォルニア州に渡米
2003年 ユニバーシティハイスクール卒業
2006年 カリフォルニア大学バークレー校 化学科卒業
2012年 東京大学理学系研究科化学専攻博士課程修了 博士(理学)
2009-2012年 日本学術振興会 特別研究員-DC1
2012年 ハーバード大学化学科 博士研究員
2013年 東京大学教養学部 特任助教