ハイジの国でポスドク生活

ハイジの国でポスドク生活

小薮 大輔(総合研究博物館 特任助教)

図1

古生物学博物館の展示を背に立つ筆者

2013年の春から本学総合研究博物館に特任助教として東大に戻ってきた筆者だが,東大に戻ってくるまではスイスでポスドク研究員をしていた。今はもう過去の話になってしまったが,当時のポスドク生活をご紹介できればと思う。

筆者は哺乳類の頭部進化について比較解剖学と進化発生学の立場から研究してきたが,共同研究を進めてきたスイス連邦チューリッヒ大学のマルセロ=サンチェス (Marcelo Sánchez) 博士を頼って学位取得後にスイスにわたり,氏の勤務する大学附属古生物学博物館でポスドク生活を始めた。スイスは九州ほどの面積でわずか800万人程度の小さな国だが,100万人あたりの2008~2010年の平均出版論文数がアメリカ(1000本)の2倍,日本(500本)の約5倍の世界ダントツの1位(2500本)という驚異的な研究力を誇っている国だ。筆者が所属していた大学内はきわめて国際的で,古生物学博物館にも10カ国近い国々の出身者が居た。チューリッヒ州はドイツ語が公用語なのだが,チューリッヒ大学の大学院以上では英語が学内の原則的な公用語で,講義もセミナーもすべて英語で行われていた。そのため,ドイツ語が全くできない筆者もほとんど不自由を感じることなく研究生活を送ることができた。

いっぽうで,欧州の労働習慣は日本のそれと違っていてたいへんに驚いた。日本では深夜までラボの明かりが灯っていることが当たり前だったりするが,欧州では5時を過ぎる頃には大半の人が帰宅してしまう。どちらの労働習慣が良いのか分からないが,筆者もつられて自然と夕方には帰宅するようになってしまった。また,ワークライフバランスを重視して,休暇も定期的にしっかり取る方が多いように感じた。筆者を含め日本人は根を詰めて年がら年中研究するタイプが多いが,働くときは働き,遊ぶときは遊ぶ,というメリハリのある労働習慣のほうが,生産性が上がるのかもしれないと反省させられた。そのため,筆者も二ヶ月に一度くらいで旅行に出掛けてリフレッシュすることを心掛けていた。欧州内は航空券がきわめて安く,また鉄道網も発達しているため,思い立ったらすぐ他国へゆくことができる。そのおかげで,そんなにお金を使うことなく,10以上の欧州の国々を訪れることができた。

確かに欧州は日本と違ってお店が7時には閉まってしまったり,日本食が手に入りにくかったりともちろん生活面で不便な点もあるいっぽうで,研究面では基礎研究分野の研究費もまだまだ潤沢で,日本ではポスドクの職が見つけにくい分野でも欧州では募集が無数にあったりする。たとえば,進化生物学関係では Evolution Directory というサイトが欧州の沢山のポスドク公募情報を載せている。また,欧州は研究者人口が多く,各国間の行き来の垣根も低いためさまざまな国の研究者と自然と人脈を広げることができる。修了を控え,ポスドク先について悩んでいる人がいたら,ポスドク先を日本だけに絞らず欧州もポスドク修行の候補地として考えてみてほしいと思う。

PROFILE

小薮 大輔(こやぶ だいすけ)

2006年 京都大学総合人間学部生物科学専攻卒業
2008年 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻修士課程修了
2008年 日本学術振興会 特別研究員
2011年 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了 博士(理学)
2011年 京都大学総合博物館 日本学術振興会 特別研究員
2011年 スイス連邦チューリッヒ大学 古生物学博物館 日本学術振興会 特別研究員
2013年 東京大学総合研究博物館 特任助教
趣味 カヌー