後輩の皆さん,シアトルからこんにちは

後輩の皆さん,シアトルからこんにちは

高雄 さとみ(ワシントン大学機械工学科CIMS 研究員/Acting Instructor)

図1

材料が酸素に触れないよう作業はAr充填下で

図2

研究室メンバーとHurricane Ridgeで雪山歩き

私が所属する米国ワシントン大学機械工学科Center for Intelligent Materials and Systems (CIMS) は大きく2つのグループに分かれ,1つは新たな形状記憶合金の開発とその応用研究(航空機や宇宙空間で使用するデバイスなど)を,もう1つのグループは導電性高分子を使用した調光窓ガラスやそれらと色素増感太陽電池を組み合わせた調光太陽電池デバイスの研究をおこなっている。最近では合成ナノマテリアルの応用範囲を医療分野にも広げることになり,基礎医学系の研究者を探していらした タヤ教授(Minoru Taya) からの申し出を受けて,メリーランド州ベセスダにある国立衛生研究所 (NIH) から,ここシアトルでの生活がはじまった。

「研究とは学術的な意義があることに加えて,人々やその生活に恩恵をもたらす革新的なものでなければならない」というタヤ教授の理念のもと,時には奇想天外なアイディアを出し合い皆で議論しているとSF映画を見ているような感覚になることがあるし,ナノスケールで物を考えるときは想像力も試され,とにかく面白い。プロジェクトにはまだバイオ専用の実験室がないので,日々の実験の傍ら,バイオセーフティレベル2の要件を満たす実験室を準備中である。共焦点レーザー顕微鏡などの大型機器の選定や,各機関のバイオセーフティ指針に則った実験室フロアプラン・実験計画・安全対策の立案など,どれもたいへんだが,とてもやり甲斐のある業務を任されている。私はもともと,生物とも非生物とも言い切れない微小な存在でありながら,ヒトに多大な影響を及ぼすウイルスに興味をもっていた。実際の現場を自分の目を確かめられるフィールドワークや,各国の研究者との交流が活発だった石田貴文准教授の研究室に大学院では進んだ。タイ国の末梢T細胞増加症/リンパ腫に関する研究をおこない,疾患とEBウイルスとの関連を突き止めた。共同研究先であったソンクラ王子大学医学部病理の研究室には細胞培養のノウハウがなかったので,現地の実情を踏まえ改良を重ねながら病理スタッフとともに実験環境を整えていった。このときの経験が今とても役に立っている。

Evergreen State(「常緑の州」)の愛称をもつワシントン州は,美しい自然の宝庫。都市部のシアトルも緑と湖に囲まれた素敵な町で,周囲よりも10℃以上涼しい夏は過ごしやすいし,冬の霧雨は天然の空気清浄機だ。人生初のサケ釣りや雪山歩きも体験したが,これもシアトルならではの醍醐味だろう。

最後に,「外」に出ることを迷っている皆さんへ。NIHでの研修期間中に次のような助言をよく耳にした。「ポスドクや学生としてここにいるこの時間を活かしてネットワークを構築しなさい。将来必ずあなた方の助けとなるはず。」日本から出なくてもそれなりのネットワークは作れるだろうが,世界に向けて成果を発信する以上,よきライバルを直に肌で感じ,さまざまな考え方に触れることは大事なことだと思う。これまでの海外生活は日本のいいところを再認識する機会も与えてくれた。ぜひ短期間でもこうした経験をなさっては?

PROFILE

高雄 さとみ(たかお さとみ)

2007年 東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻博士課程修了 博士(理学)
2007年 同大学院総合文化研究科 COE研究員
2009年 米国国立衛生研究所(NIH) 国立がん研究所 Visiting Fellow
2012年 ワシントン大学機械工学科 CIMS 研究員/ Acting Instructor