もっと良い研究を。ただそれだけを求める。

もっと良い研究を。ただそれだけを求める。

竹本 典生(ヴァイツマン科学研究所 Weizmann Institute of Science 博士研究員 Postdoctoral Fellow)

図1

研究中の筆者

図2

タナー グループのメンバー

子供のころから,科学者になりたかった。実際の科学者には会ったこともなかったが,漠然としたイメージとして,毎日何かについて考えつづけ,ある日突然,素晴らしいアイデアを思いついて,人々のものの見方や生活をがらりと変えてしまう,そういうことを成し遂げたいと思った。その目標をまだ追いかけていられることを幸せに思う。ここで,これまでの道のりを振り返り,決意をあらたにしたい。

私は,原子や分子の内部でいくつもの電子が動き回る様子を,レーザーを使って観測したり制御したりするにはどうしたら良いか,という理論を研究している。日々,数式を変形しては喜んだり落胆したりし,そして,英語を使って共同研究者と議論したり論文を書いたりできるのは,まず郷里の赤穂の塾で数学と英語をきっちり教えてもらったからだと,つねづね感謝している。

私は大学の講義についていけなかった。田舎から東京に出てきて一人暮らしを始め,サークルに入り,勉強以外のことに多くのエネルギーを使った。科学者になるのは夢で終わるかと思ったが,諦めきれず,同級生が一年前,二年前に勉強したであろう科目の教科書をマイペースに読んで勉強した。高校の先生の「もうだめやと思うまで頑張るのは,誰にでもできる。もうだめやと思ってから,どれだけ頑張れるかが,そいつのホンマの実力や。」という言葉をよく思い出した。

私は,自分が優秀ではないことを思い知った。でも研究者になりたい。だから,多くの幸せを求めない覚悟をした。良い研究成果を残す,ということだけを大切にすることにした。世界中からポジションを探すのは,その帰結のひとつである。外国人として生活する苦労(と時に喜び)はあるが,本質的ではない。

学部4年で研究生活に入ってから現在までに,日本では山内 薫先生,ドイツとアメリカではアンドレアス・ベッカー (Andreas Becker) 先生,イスラエルではデイヴィッド・タナー (David J. Tannor) 先生と3人の指導教授にお世話になった。3つの研究室で,それぞれ,指導の仕方は違ったが,それは国の違いというよりも,各先生の考え方によるものだろう。私にとって重要なことは,どの先生も私の自主性を尊重してくれ,いつも私にチャンスを与えてくれたことである。

2013年1月から,マックス・プランク アト秒科学センター (Max Planck Center for Attosecond Science) (韓国)のジュニア リサーチ グループ (Junior Research Group) リーダーになる。学生やポスドクの方々が本当にやりたいと思う研究に取り組めるように,グループを運営していきたい。そして,まだまだこれから,人々のものの見方を変えるような発見ができるよう,研究を続けていきたい。

PROFILE

竹本 典生(たけもと のりお)

2008年 東京大学大学院理学系研究科 化学専攻博士課程修了 博士(理学)
2008年 マックス・プランク複雑系物理学研究所 (Max Planck Institute for the Physics of Complex Systems) (ドイツ) 客員研究員(Guest Scientist)
2008年 コロラド大学ボルダー校ジラ(JILA,University of Colorado at Boulder) (アメリカ) 博士研究員(Postdoctoral Research Associate)
2011年 ヴァイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)(イスラエル) 博士研究員(Postdoctoral Fellow)