ハワイで履く二足のわらじ

ハワイで履く二足のわらじ

藤原 英明(国立天文台ハワイ観測所 広報担当サイエンティスト)

図1

マウナケア山山頂にて。円筒状のドームがすばる望遠鏡

図2

テレビ番組の撮影で来訪したデヴィ夫人・出川哲朗さんと,すばる望遠鏡を背景に記念撮影

ハワイ・マウナケア山(標高4205 m)の山頂域に設置されている世界最大級の天体望遠鏡「すばる望遠鏡」。私はこのすばる望遠鏡の運用拠点である国立天文台ハワイ観測所に勤務している。高校生の頃から憧れていた観測天文学の前線基地。日本の税金で100%まかなわれている正真正銘の日本の組織ではあるが, 80-90名ほどの職員のうち半数近くは日本以外(おもに地元ハワイ)から来ている。職場での会話の半分は日本語,もう半分は英語という,少し変わった環境だ。

ハワイと聞いてすぐに思い浮かべるのは,ホノルル/ワイキキ(オアフ島)を代表とするような居心地よく開発されたリゾート地だろう。しかし私が住むのはハワイ島という別の島にあるヒロという海辺の田舎町だ。都会的な娯楽が少ないというもどかしさはあるが,いっぽうで自然豊かでのんびりとした空気はとても気に入っている。すばる望遠鏡本体は山の上にあるが,普段多くの観測所職員が過ごすオフィスは空気の濃いヒロにあるため,昼休みに近くの入り江でシュノーケリング,なんてことも…。

ハワイ観測所で私は,広報業務を担う研究スタッフという立場にいる。すばる望遠鏡における観測や研究開発で得られた成果について,公開すべき情報・求められている情報を適切に・効果的に出す,あるいはその手法を研究者の立場から練り,実践する,というのが私に課せられた責務だ。論文を読みプレスリリース用の文章を書き起こす。望遠鏡や観測装置,そこに携わる人々の写真や映像を自分で撮影したりもする。あるいはテレビ番組の撮影,新聞・雑誌の取材に応じることもしばしば。また,ウェブサイトや各種ソーシャルメディアの管理も行うし,遠隔講演も行う。要するになんでもやる。それゆえ果てしなく時間のかかる仕事だ。が,自分の言葉/映像/表情で,第一線の研究成果を世界に向けて発信できるという面白さとやりがいがある。しかもハワイから。そして「普通」の研究者生活ではなかなかできないであろう経験や人との付き合いを楽しんでいる節もある。私がこの職種を選んだ背景には,おもに高校生向けに天文学の授業を出前するという,学部生時代から行ってきた活動がある。「サイエンスコミュニケーション」という言葉がもてはやされる前の話だ。学生時代に行っていた活動と今の広報業務とは似て非なるものではあるが,「伝えたい」という精神は同じだと思う。

ところで職名に「サイエンティスト」とあるとおり,自身の研究を進めて成果を出すことも私の職責のひとつである。特定のプロジェクトに縛られることなく,独立した研究を進めることができるという点では恵まれている。私は惑星形成過程後期に惑星のもととなる微惑星や原始惑星同士が衝突・合体する過程でまき散らされる塵の観測的研究をしている。大学院博士課程から自ら開拓してきたテーマだ。すばる望遠鏡はもちろんのこと,米国のスピッツァー宇宙望遠鏡など最先端の望遠鏡の観測時間を競争的に獲得しながら,インパクトのある成果を出すことができている注)

ハワイに渡って2年以上が経った。仕事に対する考え方について他国の職員と対立することもある(「海外支店」ではありがちだろう)。広報業務と研究活動の両立もそう簡単ではない。少し複雑な立場にいるなと思わないこともないが,憧れの地で仕事ができるという嬉しさを胸に,日々充実した時間を過ごしている。そして私は今日も広報と研究の二足のわらじを履き,ハワイから世界に向けててくてく歩くのである。

PROFILE

藤原 英明(ふじわらひであき)

2005年 東京大学理学部天文学科卒業
2007年 東京大学大学院理学系研究科 天文学専攻修士課程修了
2007年 – 2010年 日本学術振興会 特別研究員 DC1(大学院博士課程在学者)
2010年 東京大学大学院理学系研究科 天文学専攻博士課程修了 博士(理学)
2010年 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 宇宙航空プロジェクト 研究員
国立天文台ハワイ観測所 広報 担当サイエンティスト
注)
理学系研究科2012年4月27日プレスリリース「石英質の塵粒が輝く恒星を発見,惑星形成の途上か」などをご覧いただきたい。