メルボルンの魅力的な生き物たち

メルボルンの魅力的な生き物たち

平川 有宇樹(モナシュ大学 博士研究員・HFSPフェロー)

図1

食事に夢中のクオッカと

図2

研究室の風景(左から筆者,ボウマン教授,大学院生のエディ)

9月のメルボルンでは,春の陽気に誘われて多くの草木が花を咲かせ,目にも楽しい季節が訪れている。私が2011年4月からポスドクとして働くモナシュ大学は,メルボルンの郊外クレイトンにある1958年創立の比較的新しい大学である。クレイトンキャンパスには大学全体の約半数,3万人の学生が学び,そのうち2割が留学生と国際色豊かな環境である。私の所属するジョン・ボウマン(John Bowman)研も,10人ほどの小規模な研究室であるが,世界各国からポスドクや学生が集まっている。ボウマン教授の人柄のためか研究室は自由な雰囲気が流れており,他の研究室からも雑談をしによく人がやってくる。英語だけでなく,スペイン語やドイツ語,日本語など自分たちの得意な言葉で話し合うこともよくある。また,YouTubeなどで流行っている歌を歌ったり,古くなったプラスチックタンクを使って即興のドラム演奏をすることもあって,文化の違いを感じることもある。

ボウマン研では,植物発生進化の遺伝的基盤を理解するため,代表的なモデル植物シロイヌナズナに加え,基部陸上植物である苔類ゼニゴケを用いた研究に注力している。私自身はおもに裸子植物やシダ植物などの下等維管束植物を用い,維管束の発生進化を研究している。詳しい内容については論文などにまかせるとして,ここではメルボルンの土地やそこで出会った生き物について紹介したい。

メルボルンはオーストラリア大陸の南東部,ビクトリア州の州都であり,ポートフィリップ湾に注ぐヤラ川の河口に位置する。オーストラリア大陸の主要都市の中ではもっとも冷涼な地域にあるが,真冬でも雪は降らないほどの寒さであり,夏の蒸し暑さもなく比較的穏やかな気候である。現代的なシドニーと比べ,19世紀ビクトリア朝様式の建物が多く残された歴史的な街並みをもつ。別名ガーデンシティとよばれるほど都市部においても多くの庭園や公園があり,市民に憩いの場を提供するとともに鳥や小動物のすみかにもなっている。大学のキャンパスにもユーカリ,アカシア(ワトル),バンクシア,グレビレア,コレア,カンガルーポーなどオーストラリアに特有の植物が数多く植えられ,日本で見慣れていた景色とは大きく異なる。オーストラリアでは鳥類や哺乳類も固有のものが多い。身近に見られる鳥はゴシキセイガイインコ,カササギフエガラス,ギンカモメ,クロガオミツスイ,キバタン,オーストラリアガマグチヨタカ,アカミミダレミツスイなど,哺乳類はポッサムやオオコウモリなどが挙げられる。

周囲を海に囲まれたオーストラリアでは,固有の自然環境や農畜産物を守るため,海外から持ち込まれる動植物の検疫がひじょうに厳しい。一般的には生きた動植物を持ち込むことはできない。しかしすでに持ち込まれた動植物もたいへん多く,街中でも鳩やインドハッカのような移入種が多く見られるし,野生化したウサギ,キツネ,ネコなどによる在来生物の捕殺・食害は依然として大きな問題となっている。農畜産業はオーストラリアの主要産業のひとつであり,郊外にはウシやヒツジを飼う牧草地が広がっている。そのため,自然豊かな環境といっても,野生の動植物が自然のままに残されているのは,主として国立公園や保護区などである。このような場所では動植物の採取は禁止され,野生のカンガルー,ワラビー,エミュー,ウォンバット,コアラ,ハリモグラなどが人をあまり恐れず,間近で見ることができる。オーストラリア大陸全体ではより多様な地理・動植物相があり,国内旅行をすればまた違った生物に出会うことができる。

このような体験は,当初はあまり想像していなかったことであるが,今思えば海外留学の醍醐味といえるものであろう。また,海外での研究生活では新たな人との出会いも大きな財産である。研究室のメンバーもほとんどが外国人でライフスタイルなどもばらばらである中で,現地の自然や文化を共通の興味の対象としてもつことは,共同で研究を進める上でもプラスになっている。

PROFILE

平川 有宇樹(ひらかわゆうき)

2006年 東京大学理学部生物学科卒業
2011年 東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻博士課程修了 博士(理学)
2011年 モナシュ大学 博士研究員・HFSPフェロー