未知との遭遇

未知との遭遇

山崎 雅人(プリンストン大学 博士研究員)

図1

国際会議で講演する筆者

図2

国際会議にて(最上段が筆者)

今これを読んでいる学生,とくに大学院生の皆さん,海外で研究してみたいと思ったことはないだろうか。もしそうならば,今すぐ行動を起こすべきだ。

東大のような素晴らしい環境にいる学生にとっては,在学中あるいは卒業後に海外で研究するための方法やルートはいくつもある。一昔前の学生が海外に行くのはたいへんだったらしいから,今時の学生がいかに恵まれているかを感謝しなければいけない。

学生にとってひとつ心配なのは渡航費用や生活費だろう。しかしながら,所属研究室の科研費,学術振興会の特別研究員の給料や研究費,リーディング大学院や私立財団の援助,もしくは滞在先からの補助などさまざまな可能性があり,インターネットで調べてもたくさん出てくる。私自身,大学院時代にカリフォルニア工科大学に1年間滞在したが,その準備の過程で大学院生にはさまざまな制度が用意されていることを知った。

そもそもなぜ海外に行くのか?時は21世紀,欧米の文物を学びに明治の若者たちが送り込まれた時代とは違い,現在の日本の科学は高い水準にある。東大での研究と世界での研究に必ずしも大きな差があるとは限らないし,海外で研究したからといって成功する保証もない。

それでも世界が私を魅了してやまないのはなぜか。そのひとつの答えは,異なるパラダイムとの邂逅,そして衝突にあるのではないか。私が大学院生以来3年にわたって滞在しているアメリカとは,まさにそれを体現した国であるといえよう。研究の目指すものはあくまで独創であり,それには他者との対話の中で自らの座標軸を不断に見直すことが不可欠である。研究の進め方は人それぞれ千差万別であるし,そもそも何が良い研究であるか,そして何を目指すかは個々の研究者の価値観に深く依存しておりその答えはひとつではない。

私の研究分野(素粒子理論)では,インターネットのプレプリントサーバーから論文をダウンロードして読むのが標準となっており,競争が激しいいっぽうで共同研究も盛んである。日頃の議論,そして共同研究が在外研究の醍醐味であって,他人と意見が異なることを恐れない友人たちに刺激されて切磋琢磨されていく,その経験こそが未来の自分を支えてくれるのではないか。

こうして考えてみると,ここで述べた「世界」とは,もはや海外を意味するとは限らない。自分の専門分野を飛び出て隣接分野の研究者と語り合うこともまた別の「世界」であり,その意味で「世界」に飛び出るための扉はどこにでも転がっているといえよう。しかし,海外で研究することによってそのための強い動機づけが与えられるのもまた確かであり,私自身が身をもって体験してきた。世界を知ることは己を知ること,そんな貴重な体験の前に足踏みは無用である。

PROFILE

山崎 雅人(やまざきまさひと)

2006年 東京大学理学部物理学科卒業
2008年 東京大学理学系研究科物理学専攻修士課程修了
2008年-2009年 カリフォルニア工科大学訪問 学生研究員
2010年 東京大学理学系研究科物理学 専攻博士課程修了 博士(理学)
2010年 東京大学数物連携宇宙研究機構博士研究員
2010年 プリンストン大学博士研究員