南洋理工大学での研究と教育,そして大学運営

南洋理工大学での研究と教育,そして大学運営

千葉 俊介(南洋理工大学理学院化学生物化学科 准教授)

図1

オフィスにて

図2

研究室のメンバーと(左端が筆者)

2005年4月に化学専攻の博士課程を中退し,指導教官であった奈良坂紘一先生(現在,南洋理工大学教授)のもとで助手として採用していただいたのが,アカデミックの世界に入ったきっかけである。奈良坂先生が,2007年3月の定年退職後にシンガポールの南洋理工大学へ異動されるにあたり,私も同大学のテニュアトラック助教(Assistant Professor)に応募し,研究発表と面接試験を経て採用していただいた。2007年4月よりシンガポールに研究の場を移し, 独立した研究室を構えることになった。

学部の卒業研究以来,一貫して有機合成化学を基盤とする研究に従事してきた。有機合成化学とは,標的とする有機物質を入手するために,それらの合成法(反応)を探索し,新しく開拓する研究分野である。優れた合成方法論の開発は,新しい機能をもつ物質創製に直結する。それと同時に,新しい化学種の発見や予想もしなかった化学現象に出会う機会も多い。こうした視点から,私の研究室では,従来に無い,効率的かつ実用性に富む有機合成反応の開発を目指している。

現在,博士研究員2名,博士課程大学院生8名,卒業研究生4名のグループで研究を行っている(本学に修士課程はない)。シンガポールの大学とはいえ,本学大学院にはさまざまな国籍をもつ外国人学生の割合が全体の60%を占めている。博士研究員は,100%外国人である。私の研究室にも,シンガポール人の大学院生は2名しかおらず,4名の中国人,そのほかマレーシア,インドネシア,フランスから来た大学院生および博士研究員が集まっている(卒研生4名は,皆シンガポール人)。さまざまなバックグラウンドをもつ人間が集まった研究環境で,英語を共通語として,日々議論を交わしている。ところが,ここまでメンバーの国籍が多様化すると,日本にいた頃のように研究室生活を統一的にコントロールすることは不可能であり,最初は苦労することが多かった。たとえば,習慣,宗教もそれぞれ学生によって異なるため,研究室で食事会(忘年会や新年会など)を催すことはなかなか難しい("飲み会"は論外)。また,本学大学院生,博士研究員には,1年に22日間の休暇を大学から与えられている。指導教官の許可に基づき,それぞれ研究の進行具合,家族事情などに合わせて休暇を取るので,日本のように夏休みや正月休みなどを皆一斉にとり,休み明けに皆そろって顔合わせをするというようなセンスは皆無である。

博士課程の大学院生のほぼ全員が,指導教官の研究費,あるいは大学から奨学金のサポート(4年間)を受けており,研究,生活環境は申し分ない。その分,指導教官と学生の間にある一定の緊張感を保ったシビアな関係を常に保つことができる。つまり,学生のパフォーマンスが悪ければ,研究を始めて18か月の時点で受ける中間審査で,奨学金の支給を止めることができるからだ。

このような環境の中,学生達のたゆまぬ努力や,同僚達の協力,支援もあり,徐々にではあるが研究室を軌道に乗せることができた。そのおかげで本年3月,研究面,教育面での評価に基づき,無事テニュア(終身雇用資格)を獲得し, 准教授(Associate Professor)に昇進することができた。それとほぼ同時に,学科主任の重責を担うことになった。現在,不慣れな大学運営に右往左往しながら,少ない空き時間と夜を利用して,研究室の学生達との議論に努めている。

PROFILE

千葉 俊介(ちばしゅんすけ)

2001年 早稲田大学理工学部応用化学科卒業
2003年 東京大学大学院理学系研究科 化学専攻修士課程修了
2005年 東京大学大学院理学系研究科 化学専攻博士課程中退
2005年 東京大学大学院理学系研究科 化学専攻COE特任助手
2006年 博士(理学)取得
2007年 南洋理工大学理学院化学生物 化学科助教
2012年 南洋理工大学理学院化学生物 化学科准教授