常夏の島での研究生活

尾形 友道(ハワイ大学国際太平洋研究センター ポスドク研究員)

図1

勤務先であるIPRCの建物を背に立つ筆者

図2

日本語に堪能な謝尚平教授(左)と筆者

私は地球惑星科学科の大気海洋専攻において2009年10月に学位を取得した後,2009年11月からハワイ大学にある国際太平洋研究センター(IPRC)でポスドク研究員として働いています。働き始めた経緯は,指導教官である升本順夫先生(現:海洋研究開発機構プログラムディレクター)との話の中で「IPRCで日米の共同プログラムという形で働けるみたいだから,どう?」ということから履歴書や研究計画書を書いて,結果採用されることになりました。私の頭の中では何箇所か国内の研究所に応募書類を出して受かれば良いなぁ…という考えだったので,このような形で海外の研究生活が始まるとは意外でした。升本先生と話している中で,当時はオーストラリアも私の関係する気候変動分野の研究に力を入れ,研究員の応募が活発になりつつあるということを伺ったので,この時はむしろ,日本よりも欧米が身近な就職先に感じる程の錯覚(?)を受けました。この2年間を通してみると,やはり各国の政治や財政状況,とくに科学技術分野への理解によって就職の選択肢というのは大きく変化すると思います。また,指導教官の方々の海外の研究者との国際的な交流の豊かさにもこの機会は支えられていたとも感じており,この点ではとくに東京大学の研究環境に感謝しています。このように意外な形で海外の研究生活が決まったこともあり,慣れない英語での書類作成やビザ取得に学位取得後もたいへんだった記憶があります。

さて,IPRCでの研究生活ですが, IPRCが日米の共同プログラムとして設立された経緯,またハワイという東アジア域とアメリカ大陸の中間に位置する地理的環境,および「常夏の島」というリゾートでの研究生活への憧れ(?)からか,常駐する教授以下のスタッフ陣の層も厚く,その分野で著名な研究者も数多く在籍することから,研究環境としてはひじょうに恵まれていると思います。著名な研究者がアロハシャツに半ズボン,サンダル姿でセミナーを行っている様子はハワイならではの光景です。また,日本や海外からも第一線の研究者が訪れる機会が頻繁にあり,この点も魅力的です。同じ分野を複数のグループが研究しているということも多いので,競合という部分も出てくることがありますが,それも研究環境の層の厚さを象徴しているのではないでしょうか。とくにひとつの分野について何人かの著名な研究者のアプローチや概念を,論文には載っていない形で伺うことができるのは大きな魅力だと思います。私の研究グループのリーダーを務めている謝尚平教授も熱帯域での気候形成のメカニズム,中緯度域での海洋変動の大気へのインパクトなどといった,気候変動に関わるさまざまな分野で顕著な業績を挙げており,彼との議論で垣間見える視点やリーダーシップはひじょうに参考になります。ちなみに謝先生は東北大学で学位を取得し,北大でも教鞭を取られていた経験もあることから日本語に堪能で,最近の日本の情勢や話題にも気さくに応じてくれます。この点は日本人にとって精神的な安定が享受できる,意外と重要な要素だと思います。

このように,私の文章を眺めてみますと「常夏の島で,日本語の分かる上司のもとで海外研究生活」という訳の分からない結論になってしまうかと思います。しかしながら,これからは国内でかかわるよりも海外にも目を向けた方が博士取得後の研究生活は活路が見えてくるかもしれません。国内でも第一線の研究ができるほどに日本は発展しました。それでも海外での研究生活は「下手でも英語を喋れば何とかなる」という度胸さえあれば,皆さんの今後の研究の可能性を充分広げ,そこで培われた人脈は後々まで日本と海外の橋渡し役として重要な役割を担い続けるでしょう。

PROFILE

尾形 友道(おがたともみち)

2004年 大阪大学基礎工学部卒業
2004年 東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻入学
2009年 学位取得(理学)
2009年 ハワイ大学国際太平洋研究 センターポスドク研究員