南ドイツ・バイエルンから

磯野 江利香(ミュンヘン工科大学 グループリーダー)

図1

研究室にて研究室のメンバーと(左から三人目が筆者)

図2

休みにはドイツ近隣に気軽に旅行に行ける。ザルツブルグにて友人と筆者(左)。

学位を取得後,ドイツ南西にあるチュービンゲン大学にポスドクとしてやって来てからはや5年半の年月が過ぎた。南ドイツ特有の強い方言にもようやく少し慣れた。ポスドク期間を経て現在はミュンヘン工科大学にて,研究グループをもち実験を行っている。私のグルーブでは,モデル植物のシロイヌナズナを実験材料とし,翻訳後修飾のひとつであるユビキチン修飾とその機能に着目して研究を進めている。最近,脱ユビキチン化に関わる酵素AMSHが植物の生育に必須であり,液胞の形成や細胞内輸送に関わっていることを示した。ひじょうに小さなタンパク質であるユビキチンがほかのタンパク質に結合・解離することで多様な経路の運命を決定する過程はとても複雑で奥が深いが,その制御の一端を明らかにすることを目指している。

大学院時代は理学部二号館の地下にあった遺伝学研究室で東江昭夫先生(東京大学名誉教授)のご指導のもと,出芽酵母におけるユビキチン・プロテアソーム分解系の生化学的,遺伝学的解析を行った。東江先生は本当に自由に実験をさせてくださった。そして細胞周期の研究がしたくて遺伝学研究室に入ったのに違うテーマを与えられて,かなりの間やや行き先を見失い迷っていた私を,実に寛大に,実に辛抱強く見守ってくださった。転機となったのは修士1年生の終わり頃,鍵となる実験が成功したことだった。暗室の中でX線フィルムを現像しながら予想した位置にバンドが見えた瞬間の興奮を今でも覚えている。こうして研究の楽しさに気づき,大学院時代を通じて多くの実験手法,論文の書き方,また国内外の学会発表でいかに自分の研究内容をほかの人に伝えるかということを学んだ。時には夜中になっても実験を続け,話し明かし,毎日大学に来るのが楽しみで仕方のない素晴らしい時間だった。二号館ではまたひじょうに優秀な先輩方や仲間達にも恵まれた。彼らは今でも私の届きそうでまだまだ届かない目標である。同期生の所属するほかの研究室にもよく遊びに行った。そうしたいろいろな機会を通じてさまざまな人と知り合えたことも貴重な財産となっている。

私が留学を決めたのは,博士号取得をひとつの区切りとして,育った環境から離れ,研究材料を変えて,新しいことに挑戦してみたかったからだ。研究テーマだけはその面白さに目覚めたユビキチン修飾に関連したものを続けたいと研究室を探し,ドイツに来ることを決めた。ポスドクとして来独して4年が経つ頃,今度はグループリーダーとして独立して研究を進めていくチャンスに恵まれた。研究の自由度は高くなったが,ドイツでは博士過程の大学院生は給与をもらうため,研究費がないと大学院生を雇うことができない。そのため,自分の実験に集中できたポスドク時代と違い,研究費の申請書書きをはじめ書類仕事に割く時間が大幅に増えて戸惑った。異国の地で,言葉や文化の壁にぶつかり悔しい思いをすることも時にはある。実験技術や設備の観点から言えば留学することが必須な時代でもない。それでも陸続きのヨーロッパでドイツだけでなくさまざまな国の研究者と話し合える機会を持てたこと,母国語ではない環境にあっても真摯に取り組めば道は開けることを学べたことはかけがえのない体験である。今は学生達が毎日大学に来て実験の続きをするのが楽しみだと思えるように,研究の面白さを伝えて行きたいと願いつつ,書類書きの合間に実験ベンチに向かっている。

PROFILE

磯野 江利香(いそのえりか)

2001年 東京大学理学部生物学科卒業
2006年 東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻博士課程修了 博士(理学)
2006年 チュービンゲン大学 植物分子生物学センター 研究員
2008年 ミュンヘン工科大学 研究員
2010年 ミュンヘン工科大学 グループリーダー