「植物の生態 − 生理機能を中心に−」

「植物の生態 − 生理機能を中心に−」

寺島 一郎(生物科学専攻 教授)

寺島一郎「植物の生態-生理機能を中心に-」

寺島一郎「植物の生態-生理機能を中心に-」
裳華房(2013年)
ISBN 978-4-7853-5855-6

前任地の大阪大学では一般教養(東大の教養学部にあたる)の理科科目のほぼすべてを理学部の教員が担っていた。どうせ教養教育をやるのなら,理学部に入学した1,2年生に対して,「究極の理学教育」をしようということになった。そのカリキュラムを作成する際,数学の教員は誰でも解析学と線形代数を担当でき,物理の教員は誰でも力学,電磁気学,熱力学に加え,現代物理学も担当できることを知った。古典的物理学の知見は要領よく整理され,物理学の発展のための基礎として共有されている。いっぽう,生物学の教育では,現時点の知見を性急に教えすぎていないだろうか。自身の学問・研究を振り返っても,学問の「個体発生は系統発生をくりかえす」ようで,古典的知見から展開した研究だけが,高いレベルに到達しているように思える。きちんと基礎を理解して次の展開を担う研究者が育つような教育をしなければならない,と強く思うようになった。

本を書いてみないかと言われて, YESといったのも,そういう思いがあったからである。怠け者には荷が重く4年もかかったが,編集者の絶大な協力により,2013年夏,なんとか発行に漕ぎ着けた。 細分化された分野の最先端の知見を網羅するのではなく,基礎を中心に据えて,植物個体のふるまいを丁寧に書いた。光合成,呼吸,水分生理学,栄養塩の吸収と利用,個体成長などがおもな内容である。学生が忌み嫌う数式もたくさん並べ,練習問題も自作した。紙数の関係で省略した箇所は,出版社のホームページ (HP) からダウンロードできるようにした。間違いも発見次第出版社のHPに載せている。植物に関心のある学生に時間をかけて読んでほしい。若い人には古色蒼然とした本に見えるかもしれないけれども,温故知新の「こころ」をくみ取ってくれることに期待したい。