「集合と位相」

「集合と位相」

斎藤 毅(数理科学研究科 教授)

図1

斎藤毅 著「集合と位相」東京大学出版会 (2009年9月出版)
ISBN 978-4-13-062958-4

アインシュタインが20世紀に一般相対性理論を作ったときに,そのために必要な曲がった空間の幾何学は19世紀にすでにリーマンが準備していた,という話を聞いたことがあるだろうか?曲がった空間とは何だろう?曲がった曲面なら, 3次元空間の中の曲面をいくらでも思いうかべられるに違いない。しかし空間自体が曲がっているとは,どうとらえたらよいのか?

こうした曲がった空間を扱うための数学のことばは,リーマンの時代には実はまだできあがっていなかった。単純化していえば,彼の考えを定式化するために生み出されたのが,集合のことばであり,位相空間のことばである。これは,定義を読んでもすぐには意味がつかめないほどの抽象的なものだが,適用範囲の広い柔軟なことばとして,現在の数学の基盤となっている。

物理学者は宇宙の神秘を探るために,高い山の頂上に望遠鏡を建てて夜空をのぞいたり,地中深くに巨大な水槽をすえつけて痕跡を探したりするそうだ。数学者が曲がった空間の性質を調べるためには,ただの点で集合を構成し,そこに位相を入れさえすればもう準備はできている。

集合や位相は,幾何学でだけ使われるのではない。数学の理解が進むにつれ,1つ1つの数や関数よりもそれらの有機的な総体としてのふるまいこそが基本的である,ということが明らかになってきた。代数学でも解析学でも,こうして現代の数学を支えているのが集合と位相のことばである。

進学振り分け後に数学科へ進むと最初の講義で学ぶのがこの「集合と位相」である。本格的な数学を使いたければ,数学科でなくてもこれは外せない。『集合と位相』は,こうした現代数学の共通言語としての集合と位相のことばを習得しようという人のために書いた。この言語を身につけて数学の世界の探索に出発して欲しい。