「エンジニアのための化学」

「エンジニアのための化学」

長谷川 哲也(化学専攻 教授)

図1

M.J.Shultz著(長谷川哲也 訳)「エンジニアのための化学」東京化学同人 (2012年3月出版)
ISBN 978-4-80-790774-8

本書「エンジニアのための化学」は, メリー・ジェーン・シュルツ (Mary Jane Shultz) 著による「Chemistry for Engineers」の和訳で,大学教養課程向けの化学の教科書である。

数ある化学の教科書の中でも,本書は非常にユニークである。教科書というと,どうしても無味乾燥になりがちで,それが学生を化学から遠ざける結果になっているのは否めない。とくに,将来化学を専門としない学生にとってはなおさらである。著者のシュルツはそれを憂い,何とか化学の面白さを学生に伝えたいと考えた結果生まれたのが本書である。

本書では,化学が社会といかに深く関わっているか,化学が社会にいかに役に立っているかについて,具体的な例を通してくりかえし述べられている。その例には,かなり最先端の話題が含まれており,たとえば,カーボン材料を使ったエンジンの失敗で航空機メーカーがつぶれかけた話や,失われたダマスカス鋼の作製技術を復活させた話など,読み物としても面白い。ただし,本書は決して基礎をおろそかにしているわけではない。原子の基本的な性質に始まり,化学結合を導入して分子や合金,結晶の説明へと至っており,内容としては非常にオーソドックスである。また,後半では化学熱力学や電気化学,配位化学まで扱っており,化学の基礎として学んでほしい分野を網羅している。

なお,本書は教養課程向きの教科書ではるが,一部で少し高度な内容も含んでいる。たとえば,エレクトロニクスに関係する章でエネルギーバンドの考え方を解説しているが,これは少し難しいので通常の入門書では扱わない。理学部化学科に進学すると,「固体化学」の講義でエネルギーバンドについて学ぶが,その導入部に本書を利用している。