南部陽一郎先生のノーベル賞受賞によせて

物理学専攻長 大塚 孝治(物理学専攻 教授)

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2005年11月に来日された時に南部先生が用いられたプレゼンテーションの一部

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南部陽一郎先生は東大物理学科のご卒業で,卒業後も物理学教室に助手などとして在籍されていました。私ども物理学教室の大先輩にあたる方で,このたびのご受賞を物理学専攻を代表して心からお祝い申し上げ,また,私どもへの激励とさせていただきたいと存じます。

ここでは,「自発的対称性の破れ」とはどういうことか,考えてみましょう。真空にグニャグニャした物体があったとします。真空は四方八方どこも同等ですから,この物体は球形になるのが基本と考えられます。いっぽう,この物体を構成する要素どうしの間に働く力によっては,外部から何も力を加えなくても,球形ではなく,自発的にアメリカンフットボールのように楕円形になることがあるかもしれません。楕円は球とは違って,ある特定の方向を向いています。元々はすべての方向が同等だったのに,特定の方向が意味をもってしまいます。これを自発的対称性の破れといいます。陽子と中性子が集ってできる原子核がその一例で,自発的対称性の破れの結果,楕円に変形することがあります。いっぽうでは,破れた対称性を回復しようと,細長い原子核は回転を始めます。回転によりいろいろな方向を向くので,空間の対称性が回復するのです。結晶の格子振動も,同様な例です。このような回転や振動は,量子力学では新しい粒子の発生と見ることができ,それを『南部・ゴールドストンボソン』と呼びます。ここに挙げた以外にも,色々なものが当てはまります。3次元空間ではなく,もっと抽象的な空間も同じように扱え,自発的対称性の破れは多くの異なる現象を表す共通の言葉です。先生はそれを素粒子の質量の起源の解明にも当てはめました。

先生が2005年に物理学教室で行った談話会でのスライドから2枚を紹介しましょう(右図)。1枚では「SSB(自発的対称性の破れ)の一般的性質」とあり,特定の場合によらない一般的な性質が示されています。もう1枚には,自発的対称性の破れの発現の一例である超伝導現象が,金属でのものから素粒子のヒッグス機構まで,いかに多くの物理システムで起きているかが示されています。

このように,南部先生の業績は量子論の普遍的,原理的な性質に関わるもので,これまでノーベル賞が授与されてきたさまざまな業績の礎になるものといえます。先生の実際のご業績や現在の最先端の研究との関わりについて,この特集でいくつか紹介されています。