国立大学等における基礎科学研究の推進について

東京大学大学院理学系研究科・理学部
平成15年5月2日(文部科学大臣に提出)

基礎科学研究は,人類共通の文化創造の一つであると同時に,将来の産業を支える科学技術の礎となっています.こうした研究は,研究者個人の自由な発想に基づくものですが,優れた成果を挙げ続けるためには,互いに切磋琢磨する「競争」とともに多様な能力を刺激・結集する「共同」の作業が不可欠です.我が国は,経済や工業の面では先進国の一員となりましたが,基礎科学の分野でも他の追随を許さない新しい創造をしなければ,世界から真に尊敬される国にはなりません.国立大学は基礎科学研究に大きな比重を占めており, その国立大学の法人化に関する法案が現在国会で審議されています.しかし,我が国の基礎科学研究の推進体制に関しては未確定な部分が多く,また重要な検討課題が残されています.学術体制の変革期にあたって,我が国の基礎科学研究のさらなる推進のために以下の二つの提言を行いますので, 法案審議のなかで慎重にご検討頂きたいと思います. さらに今後,これらの提言の具体化についての提案もあわせて行っていく所存です.

1. 学術政策に関わる新たな組織の必要性

基礎科学研究は研究者個人の自由な発想に基づいて進められるものですから,その学術政策の企画立案段階においても,研究者の関与が不可欠です.具体的には,行政的センスがあり研究者としての経験を持つ者が中心となった, 学術政策の企画・立案や研究助成を行うための組織が必要と考えます.実際,多くの先進国ではこのような「研究行政官」の組織が確立し,立法府や行政に対して責任を持って,長期の学術政策を企画し,研究費の配分を行っています.こうした活動の前提となる研究評価においても専門家集団の意見を取り入れることが必要です.諸外国の例も参考にしながら,わが国における学術推進体制全般について中核となる組織の構築を早急に検討することが必要です.

2. 大学等を横断する基礎科学研究の推進

国立大学法人法案によると,各国立大学は競争的環境のもと,それぞれ個性を発揮すべきものとされています.事実,研究科・附置研究所など大学の内部組織は国立大学法人法案には明記されないなど,各大学の裁量の幅が広がるものと思われます.その結果,「競争」の側面が改善されるといわれていますが, 一方「共同」して研究を進めるメカニズムの検討が十分になされているか危惧を感じます.実際,大学を中心とするすべての基礎科学研究において,学術交流や共同研究は研究者に刺激を与え新たな視点を生み出して,研究者が所属する各大学における研究・教育活動を活性化してきました.このことは特に大学間や,大学と大学共同利用機関などとの協力が不可欠な大型基礎研究の成功に欠かせない要因でした.最近の傑出した例で言えば,小柴東大名誉教授のノーベル賞受賞につながるニュートリノ関連研究が挙げられます.法人法案によりますと,それぞれの国立大学は定期的に評価され,それが資源配分に反映されると想定されていますが,大学間や大学と大学共同利用機関を横断する共同研究についても正しく評価することが必要です.また,このような共同研究に関しても確実な財源措置が必要です.

「国立大学等における基礎科学研究の推進について」提言賛同者リスト

研究科長・学部長等

  • 北海道大学大学院理学研究科長 岡田尚武
  • 東北大学大学院理学研究科長 鈴木厚人
  • 筑波大学大学院数理物質科学研究科長 細見彰
  • 筑波大学自然学類長 滝川紘治
  • 東京工業大学理学部長 中澤清
  • 東京大学大学院理学系研究科長 岡村定矩(呼びかけ人)
  • 大阪大学大学院理学研究科長 楠本正一
  • 広島大学大学院理学研究科長 吉里勝利
  • 九州大学大学院理学研究院長 小田垣孝
  • 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長 谷山紘太郎

研究所長・センター長等

  • 国文学研究資料館長 松野陽一
  • 国立極地研究所長 渡辺興亜
  • 国立天文台長 海部宣男
  • 核融合科学研究所長 本島 修
  • 国立民族学博物館長 松園万亀雄
  • 国立歴史民俗博物館長 宮地正人
  • 北海道大学低温科学研究所長 本堂武夫
  • 北海道大学スラブ研究センター 家田 修
  • 東北大学電気通信研究所長 中村慶久
  • 筑波大学計算物理学研究センター 宇川 彰
  • 千葉大学真菌医学研究センター長 西村和子
  • 千葉大学環境リモートセンシング研究センター長 高村民雄
  • 東京大学医科学研究所長 山本 雅
  • 東京大学地震研究所長 山下輝夫(呼びかけ人)
  • 東京大学史料編さん所長 石上英一
  • 東京大学分子細胞生物学研究所長 宮島 篤
  • 東京大学宇宙線研究所長 吉村太彦(呼びかけ人)
  • 東京大学物性研究所長 上田和夫(呼びかけ人)
  • 東京大学海洋研究所長 小池勲夫(呼びかけ人)
  • 東京大学先端科学技術研究センター長 南谷 崇
  • 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所長 宮崎恒二
  • 東京工業大学応用セラミックス研究所長 鯉沼秀臣
  • 名古屋大学地球水循環研究センター長 中村健治
  • 京都大学人文科学研究所長 森時彦
  • 京都大学再生医科学研究所長 中辻憲夫
  • 京都大学化学研究所長 高野幹夫
  • 京都大学エネルギー理工学研究所長 吉川 潔
  • 京都大学防災研究所長 入倉孝次郎
  • 京都大学ウイルス研究所長 下遠野邦忠
  • 京都大学原子炉実験所長 代谷誠治
  • 京都大学霊長類研究所長 茂原信生
  • 京都大学宙空電波科学研究センター長 松本 紘
  • 京都大学放射線生物研究センター長 小松賢志
  • 京都大学東南アジア研究センター長 田中耕司
  • 大阪大学蛋白質研究所長 永井克也
  • 大阪大学接合科学研究所長 牛尾誠夫
  • 大阪大学核物理研究センター長 土岐 博
  • 鳥取大学乾燥地研究センター長 稲永 忍
  • 岡山大学固体地球センター長 中村栄三
  • 長崎大学熱帯医学研究所長 青木克己
  • 政策研究大学院大学政策研究プロジェクト・センター所長 西野文雄