表面での爆発から星の死への旅立ち
姜 継安(天文学専攻 博士課程2年生)
土居 守(附属天文学教育研究センター 教授)
茂山 俊和(附属ビッグバン宇宙国際研究センター 准教授)
前田 啓一(京都大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻 准教授)
MUSSESチーム
発表のポイント
- 超新星爆発の引き金に相当する現象を発見した。
- 世界で最も優れた広視野カメラを用いた観測で多数の超新星を検出し、爆発直後の超新星を探し当てた。
- 宇宙の研究で最も強力な標準光源である超新星の爆発機構の解明に向けて、さらなる観測を続ける。
発表概要
東京大学大学院理学系研究科の大学院生 姜 継安と、指導教員である土居 守教授とが率いる研究グループ(京都大学、国立天文台、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構)は、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Camを用いた観測により、爆発後1日以内のIa型超新星(注1)をとらえることに成功しました。この超新星の観測的特徴を解明するために、理学系研究科の茂山 俊和准教授、京都大学理学研究科の前田 啓一准教授、国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構の野本 憲一上級科学研究員らを交えて理論解析した結果、この特徴は、白色矮星の外層部にあるヘリウムが核融合反応を起こすことを引き金に衝撃波が中心に伝わって星全体が爆発したと考えると説明できることがわかりました。この機構は数十年来提案されていましたが、その確たる証拠がとらえられたのは初めてです。本研究はIa型超新星の爆発機構を解明する第一歩であり、Ia型超新星を宇宙論的距離測定の標準光源として用いる精度を高めることにも役立つと期待されます。
発表内容
星にはその生涯の最後に大爆発を起こすものがあります。重い星の爆発はよく言及されますが、太陽のようなそれほど重くない星が進化した結果残される、炭素と酸素からなる高密度の星(白色矮星、 (注2))も、爆発に転じることがあります。白色矮星が連星をなしている場合、相手の星(伴星)から物質を受け取って質量を増やすことで、中心部で激しい核融合が始まる可能性があるのです。この激しい核融合により、星全体が吹き飛ぶIa型超新星爆発が引き起こされると考えられています。Ia型超新星は、非常に明るくどれも似たような最大光度を持つことから宇宙論的な距離指標に使われています。この性質を利用して宇宙の加速膨張が発見され、2011年にはこの成果に対してノーベル物理学賞が授与されました。しかし、その爆発がどのように始まるかは諸説あり、わかっていません。それを解明するためには爆発初期から超新星を観測する必要がありますが、Ia型超新星の爆発が起きる頻度自体が銀河1個あたり100年に1度と極めて稀なため、従来の観測では爆発初期のIa型超新星を探すことは困難でした。
すばる望遠鏡に搭載された世界で最も優れた超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam (注3)を使うことによって、多くの銀河を一度に撮像することができ、そこで起きる多くの超新星を見つけることで爆発後1日以内の超新星を捉えることができるようになりました。東京大学大学院理学系研究科の姜 継安大学院生、土居 守教授らが率いる研究グループは、2016年にそのような観測を始め、同年4月には検出された100以上の超新星の中から爆発から数日しか経っていない超新星を見つけました。発見後に世界各地の望遠鏡で追観測を行うことで、この超新星の爆発がどのように始まったかを初めて突き止めました。観測結果から、この超新星は、これまでに観測されてきたIa型超新星の変化から推測されていたよりもずっと早い時期に明るくなっていたことがわかりました(図1)。
図1
上のパネル: 明るさの時間変化を等級で表した図。差し込まれた図は最初の5日ほどを拡大したもの。点が観測値。gはおよそ緑色の光のみを通すフィルターを用いた観測値で、rは赤色の光のみを通すフィルターを用いた観測値。線は過去のIa型超新星の平均的な観測値から得た等級の時間変化。下のパネル:矢印の先が超新星。左から爆発後0.5日、1.5日にすばる望遠鏡Hyper Suprime- Cameraで撮った画像。一番右の図はGemini-North望遠鏡 GMOSで爆発後30日目に撮った画像。Jiang et al. (2017) Nature…からの転載(一部改変)。
この原因として、爆発で飛び散った物質と伴星とが衝突し、高温になった部分を見ているとも考えられますが、理学系研究科 茂山 俊和准教授らによるこの仮説に基づく数値シミューションからは青白い光が予想されるのに対し、今回すばる望遠鏡で観測された色は赤く、このモデルでは説明できません。そこで、京都大学 前田 啓一准教授を中心に、初期に起こりうる他の仮説として伴星から白色矮星に降り積もってきたヘリウムが核融合反応(注4)を起こしてヘリウム層が爆発した場合を考えて、その明るさと色の変化を計算したところ、これが観測された最初期の急激な増光と色を説明できることがわかりました。ヘリウム層の爆発がどのように観測に現れるのかを理論的に示したのも今回が初めてです。この核融合反応の結果、カルシウムやチタンが合成されることが期待されますが、この超新星が最大光度に達したときに撮られたスペクトル(注5)にはチタンイオンによる吸収線が強く見られたことからも、初期の増光がヘリウム核融合反応であることが裏付けられました。その後、この超新星はIa型超新星としては平均的な明るさの時間変化を示しました。つまり、ヘリウムの核融合反応がきっかけで白色矮星を圧縮し、その中心部で炭素の核融合反応を起こさせ、星全体を爆発させたと考えられます(図2)。
図2
白色矮星に降り積もったヘリウムが星の表面で爆発し、白色矮星の中心の核融合反応に点火した模様を表す想像図。
今回の観測から爆発を起こした白色矮星の伴星はヘリウムを大量に含んだ星であったことが示されました。しかし、伴星が白色矮星だったのか、あるいは太陽のような通常の星であったのかについては分かりませんでした。 本研究成果により、Ia型超新星の爆発がどのように始まったのかという謎に迫る第一歩を踏み出したと言えます。研究グループは、今後更に観測を進めることで多くの超新星を検出し、その中からより初期段階の超新星を探し出す予定です。宇宙全体の歴史や構造を理解する有用な道具になっているIa型超新星の爆発機構の解明を進めれば、異なる爆発機構ごとに最大光度が違うのかどうかを確認するなどして、宇宙論的な観測の精度を高めることにも役立つと期待されます。
発表雑誌
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雑誌名 Nature 論文タイトル A hybrid type la supernova with an early flash triggered by helium-shell detonation 著者 Ji-an Jiang*, Mamoru Doi, Keiichi Maeda, Toshikazu Shigeyama, Ken’ichi Nomoto et al. DOI番号 10.1038/nature23908 論文URL http://www.nature.com/nature/journal/v550/n7674/full/nature23908.html?foxtrotcallback=true
用語解説
注1 Ia型超新星
超新星のうちそのスペクトルに水素によるスペクトル線が見られないものをI型と分類し、I型のうちケイ素のスペクトル線が強いものをIa型と分類する。白色矮星が核融合反応によって爆発するとその外側では大量のケイ素が合成されることが期待されるので、Ia型超新星は白色矮星の爆発と考えられている。↑
注2 白色矮星
核融合反応が終わった星の中心核。外層は核融合反応が最後に激しく起こったときに剥がされて、中心核のみが残り白色矮星となる。非常に高密度で、質量は太陽と同じくらいあるが大きさは地球ほどしかない。白色矮星には自重を支えられる限界の質量があることが知られている。その質量は太陽質量のおよそ1.4倍で、発見者の名にちなんでチャンドラセカール限界質量と呼ばれる。↑
注3 すばる/Hyper Suprime-Cam
すばる望遠鏡はハワイのマウナケア山山頂に設置された口径8.2 mの国立天文台の主力光学望遠鏡である。 Hyper Suprime-Cam (HSC) はすばる望遠鏡の主焦点に据えられた超広視野主焦点カメラ。国立天文台が中心となり国際的な研究協力によって作られた。↑
注4 ヘリウムの核融合反応
二つのヘリウム原子核が衝突し、くっついて不安定なベリリウム原子核ができる。この不安定な原子核が再びヘリウム原子核に壊れる前にもう一つのヘリウム原子核が衝突して炭素原子核になる三体反応。この反応により大量のエネルギーが放出されるので、白色矮星の表面でこの反応が起こると、温度が高くなり他の核融合反応も進みさらに重い原子核であるチタンやカルシウムなども合成される。↑
注5 スペクトル
光の強度を波長の関数として表したグラフ。スペクトル線を観測すると、その波長と強度から光を発する物質に含まれる元素の種類と量の他に温度や密度が推測できる。↑
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―