2017/09/15

小さなメダカのゲノムから、巨大なトランスポゾンを発見

-メダカに様々な突然変異を引き起こしたのは、ウイルスと一体化した巨大な
トランスポゾンだった-

 

井上 雄介(生物科学専攻 特任研究員)

武田 洋幸(生物科学専攻 教授)

 

発表のポイント

  • 約180kbにものぼる非常に巨大なトランスポゾン(注1)Teratornを、メダカゲノム中から発見した。トランスポゾンとしては史上最大。
  • TeratornはDNAトランスポゾン(注2)とヘルペスウイルスが一体化することで生じた新規の動く遺伝因子(注3)であった。
  • 本研究は動く遺伝因子が宿主にもたらす影響について新たな知見をもたらすだけでなく、動く遺伝因子自体の進化のメカニズムの理解にも繋がる可能性がある。

発表概要

生物の設計図としての役割を持つ私たち生物のゲノムには、利己的に増幅する寄生因子であるトランスポゾンが多く含まれています。この一見有害な因子は、ゲノムに変化をもたらし、時には宿主に有用な機能もたらすことで生物の進化に大きく寄与してきたと考えられています。

これまでの研究で様々なトランスポゾンが同定されてきましたが、その殆どは10 kb以下と小型でした。しかし今回、東京大学大学院理学系研究科の井上雄介研究員、武田洋幸教授らのグループは、東京大学医科学研究所、基礎生物学研究所、京都大学のグループとの共同研究により、メダカにおいて様々な突然変異を引き起こす因子として知られていたトランスポゾンTeratornの全長配列を決定し、これが約180 kbにものぼる非常に巨大なトランスポゾンであることを発見しました。興味深いことに、この因子はDNAトランスポゾンとヘルペスウイルスゲノムが一体化した構造をしていたことから、Teratornはトランスポゾンの獲得により宿主ゲノム内へとその住処を変えたウイルスに由来することが示されました(図1)。なおTeratornの名前は史上最大の鳥類であるテラトルニスコンドル(科名 : Teratornithidae)の名前にちなんでつけられました。巨大なDNA断片がゲノム上を鳥のように飛び回ることを想定しました。

図1. Teratornの構造と生活環のモデル。
(a)Teratornの構造。 TeratornpiggyBac型DNAトランスポゾンの構造を示す(両端に逆向き反復配列TIRを持ち、その内部に転移酵素遺伝子を含む)一方、ヘルペスウイルスゲノム全長を内部に含んでいたことから、両者が一体化することで生じた新規の動く遺伝因子であることが示された。
(b)Teratornの生活環モデル。一般的なヘルペスウイルスにおいては、その生活環のなかでウイルスDNAが宿主染色体に組み込まれることはない(左)。Teratornの場合、piggyBac型トランスポゾンとの一体化により、宿主ゲノム中で転移によってコピー数を増やし、時にはウイルス粒子を産生する生活環を持つようになった可能性が考えられる(右)。しかしTeratornがウイルス粒子として機能するかどうかは現時点では不明である。

 

Teratornの発見は、ゲノム内の動く遺伝因子が宿主にもたらす影響について新たな知見をもたらす可能性を秘めており、さらに動く遺伝因子の進化のメカニズムについて新たな知見を与えるものです。

発表内容

(背景)

ゲノムは生物がもつ全遺伝情報のことを指し、私たち生物の設計図としての役割を持ちます。しかし、今日の種々の生物の全ゲノム解読により、ゲノム中にはそうした機能を持つ領域のみならず、トランスポゾン等の寄生性の遺伝因子も多く含まれていることが明らかとなりました。例えば私たちヒトのゲノムの場合、遺伝子をコードしている領域はわずか1.5%に過ぎないのに対し、トランスポゾンは少なくとも45%以上を占めていることが知られています。トランスポゾンは突然変異を引き起こしうる有害な因子と見做されがちですが、時には宿主にとって有益な機能を提供する場合もあるため (新しい遺伝子を創出するなど。例として哺乳類の胎盤形成に関与する遺伝子群など)、生物進化の原動力の一つとしても注目されています。すなわち、私たち生物のゲノムはこうした“内なる寄生者”によって形作られ、進化してきたと言えます。

トランスポゾンは、DNAのまま移動するDNAトランスポゾンか、RNAへの転写とDNAへの逆転写の過程を経てコピー&ペースト方式で転移するレトロトランスポゾンに大きく分けられます。これまで、様々な生物のゲノムから膨大な数のトランスポゾンが同定されてきましたが、その大半は10 kb以下と小型で、内部に数個の遺伝子しか含まない単純な構造をしていました(図2)。

図2. 真核生物における主なトランスポゾン。
(左) DNAトランスポゾン。DNAトランスポゾンの大部分は転移酵素遺伝子および両端の逆向き反復配列TIRのみからなる単純な構造をしており、DNAのままカット&ペースト方式で転移する。しかし、これとは全く異なるメカニズムで転移するDNAトランスポゾンも近年報告されている。
(右)レトロトランスポゾン。レトロトランスポゾンはRNAへの転写とDNAへの逆転写の段階を経てコピー&ペースト方式で転移するトランスポゾンであり、その転移機構からLTR型レトロトランスポゾンとnon-LTR型レトロトランスポゾンに分類される(図はLTR型レトロトランスポゾンの転移機構を示している)。

 

しかし近年の解析から、こうした傾向に反する因子も存在することが徐々にわかってきました。その一つが近年メダカで発見されたトランスポゾンTeratornです。このトランスポゾンは、背側の外部形態が腹側化した表現系を示すメダカ突然変異体Daをはじめとして、様々な変異体を誘発した因子として発見されました(図3)。

図3. Teratornの挿入が原因で生じた、様々なメダカ突然変異体。
(a)Da変異体。zic1/zic4遺伝子近傍へのTeratornの挿入により、体節特異的にこれらの遺伝子の発現が阻害される。これによって背側アイデンティティーが失われ、背側が腹側化した表現型を示すようになる(Moriyama et al., 2012)。
(b)pc変異体。多発性嚢胞腎を発症する(Hashimoto et al., 2009)。
(c)rs-3変異体。鱗の消失がみられる(Kondo et al., 2001)
(d)abcdef変異体。左右軸形成が正常に起こらず、内臓逆位が起こる。図中の矢印は心臓のループの向きが逆転している様子を示している(Kamura et al., 2011)。
b-dの変異体では、原因遺伝子のイントロンにTeratornが挿入されているため、正常なタンパク質が合成されず発生異常が生じる。なお破線は塩基配列が決定されていない領域を示している。

 

先行研究においてその内部配列が部分的に解読され、この因子が少なくとも41kb以上とトランスポゾンとしては非常に大型であることが分かっていました。しかしその全長配列は決定されていなかったため、Teratornの正確なサイズやその正体は謎に包まれていました。

(結果)

そこでまず本研究ではTeratorn全長の配列決定を行いました。その結果、Teratornは約180 kbとトランスポゾンとしては異例の大きさであることがわかり、さらに遺伝子予測から内部には約90個もの遺伝子が含まれることが示されました(図4)。これらの遺伝子の機能を調べたところ、1個はDNAトランスポゾンの一つであるpiggyBac (注4)の転移酵素と相同性を示し(図4、赤)、この酵素が転移反応を触媒することも実験的に確認されました。

図4. Teratornの詳細な構造。Teratorn内には約90個の遺伝子の存在が予測され、その中にはpiggyBac型トランスポゾンの転移酵素遺伝子および約20個のヘルペスウイルス遺伝子が含まれていた。

 

その一方で、その他の遺伝子に着目してみると、予想外なことにその多くはヘルペスウイルスの遺伝子と相同性を示すことが判明し、この中にはウイルスの増殖に必須な遺伝子群(DNA複製酵素やカプシド(注5)タンパク質、ターミナーゼ(注6)等)も含まれていました(図4、青)。以上から、Teratornはトランスポゾンとヘルペスウイルスゲノムが一体化してできた新規の因子であることがわかりました。

ヘルペスウイルスは、ヒトにも口唇ヘルペスや脳炎、リンパ腫等の病気を引き起こすことでも有名なウイルスで、宿主の細胞内で潜伏感染する特徴を持ちます。しかし一般的なヘルペスウイルスはその生活環のなかで自身のゲノムを宿主細胞の染色体に組み込む段階を持たないため、Teratornはトランスポゾンの転移機構の獲得によりその生活環を変えて動物のゲノムに侵入したヘルペスウイルスという見方もできると考えられます(図1)。

さらに、トランスポゾンとヘルペスウイルスの一体化が、ナイルティラピアやフウセイ等メダカ以外の魚類においても起きていることが明らかとなり、本現象が真骨魚類(いわゆる一般の魚)で普遍的に起きている可能性が示されました。

(将来の展望)

本研究により、DNAトランスポゾンとウイルスが一体化するという現象が新たに見出され、これによってウイルスがゲノム内の寄生因子へと変化した可能性が示されました(図1)。Teratornの存在が宿主にとってどのような意義を持つのかについては現時点では不明ですが、恐らく寄生者としての性質だけでなく、外来ウイルスに対する防御策など宿主にとって何らかのメリットを備えている可能性もあります。このような観点からTeratornについて今後解析していけば、ゲノム内の動く遺伝因子が宿主にもたらすインパクトについて新たな知見が得られることが期待できます。一方で本研究は、これまで宿主ゲノムに組み込まれることは無いと考えられていたウイルスが、トランスポゾンの助けを借りることによってゲノム内の寄生者へと変貌したことを明確に示しており、動く遺伝因子の分類やその進化のメカニズムの理解へ一つの手がかりを与えるものと期待されます。

 

発表雑誌

雑誌名 Nature Communications
論文タイトル Complete fusion of a transposon and herpesvirus created the Teratorn mobile element in medaka fish.
著者 Yusuke Inoue*, Tomonori Saga, Takumi Aikawa, Masahiko Kumagai, Atsuko Shimada, Yasushi Kawaguchi, Kiyoshi Naruse, Shinichi Morishita, Akihiko Koga, Hiroyuki Takeda*
DOI番号 10.1038/s41467-017-00527-2
論文URL https://www.nature.com/articles/s41467-017-00527-2

 

 

用語解説

注1 トランスポゾン

細胞内においてゲノム上の位置を移動することが可能な塩基配列。DNAのまま転移を行うDNAトランスポゾンと、転写と逆転写の過程を経るレトロトランスポゾンに分けられる。

注2 DNAトランスポゾン

DNAのまま転移を行うトランスポゾンの総称。大部分の因子は転移酵素を介してカット&ペースト方式で転移するが、コピー&ペースト方式で転移する因子も知られている。

注3 動く遺伝因子

細胞生物のゲノム中・ゲノム間を移動することが可能な塩基配列と一般的には定義される。本文では「ゲノム内または細胞間を移動可能であり、コピー数を増やすことが可能な塩基配列」とする。トランスポゾン、ウイルス、プラスミド等が含まれる。

注4 piggyBac

DNAトランスポゾンの一種であり、カット&ペースト方式で転移する。動物を中心に真核生物のゲノム中に広く存在している。蛾の一種であるイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)から単離された因子は遺伝子導入のツールとして広く用いられている。

注5 カプシド

ウイルスのゲノムを取り囲む、タンパク質でできた殻のこと。

注6 ターミナーゼ

ウイルスDNAをカプシド内へ注入する酵素のこと。ヘルペスウイルスのほか、多くのバクテリオファージにおいて見られる。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―