2017/09/07

細胞を形状ごとに分離するマイクロ流体チップを開発

~藻類バイオ燃料開発などに有望な新技術~

 

Ming Li(カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部
バイオエンジニアリング科 博士研究員)

Hector Enrique Muñoz(カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部
バイオエンジニアリング科 大学院生)

Dino Di Carlo(カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロサンゼルス校工学部
バイオエンジニアリング科 教授/化学専攻 客員教授)

合田圭介(化学専攻 教授/科学技術振興機構/
カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部電気工学科)

 

発表のポイント

  • マイクロ流体中における粒子の挙動を利用して、単純な構造の流路に細胞サンプルを通過させるだけで自発的に、細胞を形状ごとに分離させる技術の確立に成功した。
  • 本技術を用いて藻類の一種であるミドリムシを、アスペクト比(長軸と短軸の比率で、形状の長細さを示す)ごとに分類することが可能であることを示した。
  • 本成果は構造が単純なため低コスト化やスケールアップが容易であり、これを応用することにより、バイオ燃料生産に適した藻類細胞の探索や研究が加速すると期待される。

発表概要

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMing Li博士研究員、Dino Di Carlo教授(ImPACTチームリーダー)、東京大学大学院理学系研究科化学専攻の合田圭介教授らは、マイクロ流体中の慣性力を利用することにより、細胞を形状ごとに自律的に分類するマイクロ流体デバイスの開発に成功しました。この技術により、藻類細胞など形状が複雑・不均一な微生物や細胞を形状ごとに分離することで、より均一な条件下で実験を行うことが可能となり、研究の質や効率の向上が期待されます。

本研究は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のうち、合田圭介プログラム・マネージャーの研究開発プログラム「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」の一環として実施されました。

本研究成果は、2017年9月7日(木)に科学誌「Scientific Reports」のオンライン版で公開されました。

発表内容

(1)研究の背景と経緯

ミドリムシ(学名:Euglena gracilis)などの藻類はバイオ燃料生産への応用が期待されています。このような藻類は、円形に近いものから円筒状に長細く伸びたものまで、様々な形を取ることが知られており、形状は細胞周期の状態や光合成能力、細胞周辺環境などの影響を受けることから、細胞形状そのものが一つの重要なバイオマーカー(注1)といえます。均一な形状を持った細胞集団を分離できれば、細胞や細胞内の分子メカニズムについての理解向上に役立てることができます。また藻類に工学的な手を加えて、オイルなどの物質生産に応用する研究においても、より均質な条件の細胞を用いて遺伝子改変(注2)などの操作を行うことで開発の効率や安定性が向上することが期待されます。しかしながら従来のフィルター技術などでは、細胞をサイズや密度ごとに分離することは可能でしたが、形状を指標にした分離技術は実現されていませんでした。

(2)研究の内容

本研究チームは慣性力を利用したマイクロ流体技術を応用して、連続的にミドリムシを細胞外形のアスペクト比ごとに分離する技術を確立しました(図1)。

図1. (a)マイクロ流路チップの概要。マイクロ流路チップに導入されたミドリムシは、最初は流路中にランダムに分布しているが(断面図(i))、流路を通過するにしたがって、アスペクト比の高い(細長い)形状のミドリムシは流路中央付近に、アスペクトの低い形状のミドリムシは流路端部付近に徐々に移動する(断面図(ii))。その下流の漏斗状流路で各々の形状のミドリムシが徐々に離れ(断面図(iii))、各々異なる出口流路へと誘導される。 (b)マイクロ流路チップの写真。写真左上の流路からミドリムシを導入すると、形状に応じて右手にある5つの流路に振り分けられる。

 

本研究では、精密加工された流路に細胞を流すと、アスペクト比が高い(細胞の幅に対する長さの割合が大きい)細胞はアスペクト比が低い細胞と比較してより流路中央に近い位置を流れることを発見しました。この現象を利用して、流路の位置ごとに異なる流路に誘導する分岐流路を組み合わせることで、細胞をアスペクト比ごとに分離することが可能となりました(図2a)。ここで開発したマイクロ流体チップは、直線上の流路および断面が徐々に広がった形状の流路および出口流路で構成されており、このチップを用いることで低アスペクト比のミドリムシ(アスペクト比1および2)は92.6%、高アスペクト比のミドリムシ(アスペクト比6および7)は82.4%の純度で分離されました(図2b)。

図2. (a)マイクロ流路チップの構造および各部位で観察されたミドリムシの写真。チップには出口1, 出口2, 出口3, 出口4, および出口5の5つの出口流路があり、各々に流量を加減するための蛇腹状の流路が組み込まれている。図中上部の写真から、 細胞導入部では様々な形状のミドリムシが見られるが、出口1では球状のもの、出口3では長細いものが多くみられることが分かる。図中下部の写真はミドリムシが形状ごとに異なる出口流路に振り分けられる様子を示すコマ送り画像。スケールバーは40㎛を示す。(b)細胞アスペクト比(Cell aspect ratio)1~7の7段階にミドリムシを分類し、各々の集団が細胞導入口および出口1~出口5におけるミドリムシ集団での分布を示したヒストグラム。ここでは出口1および出口2ではアスペクト比1及び2の細胞が純度92.6%および96.8%で、出口3ではアスペクト比6及び7の細胞が純度82.4%で回収された。

 

(3)今後の展開

本研究成果は、ミドリムシなどの藻類を用いた生物学的研究や産業応用などに対して大きなインパクトを与えるものです。ミドリムシにおけるアスペクト比などの形状は、概日リズム(注3)や細胞周期などの生物学的要因、光合成や呼吸など代謝活動の要因、温度や光、pH、イオン濃度など外部環境要因などに作用される、生物学的に重要なバイオマーカーです。これを指標としてより均一な細胞集団を分離することができる本技術は、培養条件の制御や育種、遺伝子改変などの技術を組み合わせることで、オイル生産性が高い藻類の開発などに役立つことが期待されます(図3)。

図3. 本研究成果の応用展開の展望。

 

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)  http://www.jst.go.jp/impact/#index1

プログラム・マネージャー:合田 圭介
研究開発プログラム:セレンディピティの計画的創出による新価値創造
研究開発課題:Development of a microfluidic technology that focuses and orders single cells in a microchannel with high throughput
開発研究開発責任者:ディカルロ ディノ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 教授)
研究期間:平成27年4月~平成29年3月

本プログラムでは、膨大な細胞集団から単一の目的細胞を発見する細胞検索エンジン「セレンディピター」の開発に取り組んでいます。その一環として、ディカルロ・チームは、マイクロ流体技術を用いて高速流体中の細胞の挙動を高度に制御する技術の開発に取り組んでいます。

■合田圭介プログラム・マネージャーのコメント■

本成果は、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「セレンディピティの計画的創出による新価値創造」に参画するDi Carloチームによるものです。今回開発したマイクロ流体チップは、細胞を形状に応じて高速に連続分離する事が可能で、ミドリムシのみならず様々な微細藻類細胞に応用できます。本プログラムでは、最先端の異分野技術を組み合わせて、膨大な数の多種多様な細胞集団の細胞一つ一つを網羅的に調べ上げる細胞分析装置「セレンディピター」を開発しており、本研究成果は、セレンディピターの実現とグリーンイノベーション領域への展開に向けた大きな一歩であると考えています。

 

発表雑誌

雑誌名 Scientific Reports
論文タイトル Shape-based separation of microalga Euglena gracilis using inertial microfluidics
著者 Ming Li, Hector Enrique Muñoz, Keisuke Goda, Dino Di Carlo
DOI番号 10.1038/s41598-017-10452-5
論文URL http://www.nature.com/articles/s41598-017-10452-5

 

 

用語解説

注1 バイオマーカー

生体内の生物学的変化を定量的に把握するため、生体情報を数値化・定量化した指標のことである。

注2 遺伝子改変

遺伝子工学を用いて、人為的に個体の遺伝情報を変化させることである。

注3 概日リズム

一般的に、生体時計(体内時計)と呼ばれている、約24時間の周期で変動し、そのリズムの周期が光パルスや暗パルスによってリセットされる生理現象のことである。人間などでは睡眠や摂食のパターンを決定する点において重要であるが、ミドリムシにおいても光合成によるエネルギー生成や細胞分裂、代謝などに影響を及ぼしていることが知られている。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―