2017/07/06

筋肉のタンパク質、ミオシンの協同的な力発生を発見

〜時には綱引きチームのように〜

 

茅 元司(物理学専攻 助教)

樋口 秀男(物理学専攻 教授)

 

発表のポイント

  • 骨格筋が大きな負荷に対して、より効率的に力を出せる分子メカニズムを、高時空間分解能の顕微鏡を用いて発見した。
  • ミオシン分子は負荷の大きさを感じ、高負荷の時には綱引きチームのように分子間の力発生のタイミングを合わせる協同性を持っていることを1分子レベルで初めて示した。
  • 元来、勝手気ままにランダムに振る舞うタンパク質分子同士が、協同的に機能する原理の発見であり、効率的なマイクロマシンや人工筋肉創製につながることが期待される。

発表概要

骨格筋は身体運動から眼球や舌の動きまで様々な機能に深く関わっています。この筋肉の収縮は、ミオシンと呼ばれるタンパク質が約300分子程度集合したフィラメントを形成し、アクチンと相互作用して力を出すことで達成されます(図1)。

図1:筋肉の構造。ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントの相互作用により筋肉は収縮する。

そこで、「分子集団として力を出すことに特化した特性があるのでは?」という疑問のもと、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の茅助教らは、ミオシン約20分子程度がアクチン1本と相互作用できるミニフィラメントを合成し、相互作用するアクチンにビーズを固定し、その動きからミオシンの力と分子の動きを測りました(図2)。

図2:ミオシンフィラメントの力計測の概念図。アクチンフィラメントと相互作用中のミオシンの力は、光ピンセットで補足したビーズの変位波形から見積る。計測したビーズの変位波形(右)。ビーズの変位に光ピンセットのばね定数(0.16pN/nm)をかけて負荷に換算する。

その結果、生理的条件のATP濃度でアクチンが5nm前後の幅でステップ状に変化している様子を捉えることに初めて成功し、特に高負荷におけるステップは、エネルギー効率の観点から複数のミオシン分子がほぼ同調して力を出さないと起こり得ないものでした。この現象を説明するシミュレーションを構築した結果、元来ランダムに機能しているミオシンは、負荷の増加に伴ってATP加水分解サイクル(注1)が遅くなり、その結果、綱引きチームのように各分子間の力発生が同調する現象が判明しました。こうした結果が、効率的に機能するマイクロマシンや人工筋肉の開発に繋がることを期待しています。

発表内容

背景

骨格筋は身体の動きだけでなく、眼球の動きや目のピント調節、言葉の滑舌に関わる舌の動きまで様々な機能に深く関わっています。この筋肉の収縮は、ミオシンと呼ばれるタンパク質が約300分子程度集合したフィラメントを形成し、アクチンと相互作用して力を出すことで達成されます。このような数百分子の集合体を形成して力を出す分子モーターは、筋肉や心臓収縮を担うミオシン以外には存在しません。そこで、「分子集団として力を出すことに特化した特性がミオシンにはあるのでは?」という疑問のもと、半世紀以上に渡って、筋線維を使った研究から1分子計測まで様々な階層レベルでの研究がされてきました。しかしながら、筋線維レベルの研究では分子の平均像しか見えず、一方で1分子計測では単離したミオシン1分子の特性は見えても、集合体としての力発生にどのように寄与してくるのかは不明瞭でした。

研究内容

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の茅助教らは、ミオシン約20分子程度がアクチン1本と相互作用できるミニフィラメントを合成し、少数分子が力を出すフィラメント中におけるミオシン1分子の機能を見出す方法を用いて検証しました。実験では、ミオシンと相互作用するアクチン片端に直径400nmのビーズを固定し、レーザーを集光させる光ピンセット法でビーズを捕捉し、その動きから力を見積もりました(図2)。ビーズの動きからミオシンの力と分子の動きを測った結果、生理的条件に近いATP濃度 1mMにおいて、アクチンが1ms前後の短い時間間隔で5nm前後の幅でステップ状に変化している様子を捉えることに初めて成功しました(図3)。

図3:ステップ状に変化したアクチン変位波形。ステップ幅は5nm前後で、ステップ-ステップ間の時間間隔はわずか1ms前後で、高速に変化している(左)。高負荷になるとステップ間の時間間隔はやや大きくなる(右)。赤矢印で示した場所では、30pNの負荷に対して4nmのステップ変位があり、仕事量は120 (=30×4) pNnmとなってATP1分子の加水分解エネルギー(用語解説(1)参照)より高いため、このステップはミオシン1分子では達成できない。従って、複数の分子が同調して力を出したと考えられる。

特に高負荷におけるステップにおいては、ステップの幅と負荷から見積もった仕事量をミオシン1分子が単独で発生したと仮定すると、ミオシン1分子が消費するATP加水分解エネルギー(用語解説(1)参照)の1.5倍ほど高いため、ミオシン1分子が単独で達成できる仕事量とは考えられません。即ち、複数の分子が協同的に力を出したことを示唆しています。そこで、複数の分子がどのように同調して力を出せるのか検証するために、シミュレーションモデルを構築しました。負荷が増加した場合、ミオシンが力を発生せずにアクチンに結合したままの状態にいる特性を仮定すると、結合状態に留まる分子が増えてきます。ここで、ある分子が結合し偶発的に力を発生させると、ミオシンの発生する力の総和と外部負荷との力の均衡が破れ、アクチンが動き始めます。すると、結合状態に留まっていた分子頭部の歪みがリリースされ、各分子が一斉に力発生の状態へ移ります。こうした歪みに依存したミオシンの状態遷移率変化を仮定することで、負荷の上昇に伴う分子間の力発生のタイミングが同調する確率が上がり、その結果、協同的な力発生が起きることを解明しました(図4)。

図4:ミオシン分子間の力発生が協同的になる分子モデルの図。低負荷では分子間の力発生はランダムだが(上)、高負荷になるとアクチンに結合して力を出さずに待機する分子が多くなる(中)。こうした状態の分子が増えてくると、ミオシンと外部負荷との間の力の均衡が崩れ、アクチンが滑り出し、待機している分子の歪みがリリースされる。これを機にミオシンが一斉に力を出すことで協同的な力発生が達成される(下)。

こうした結果から、元来はコミュニケーション機能もなくランダムに機能しているミオシンですが、負荷の増加を感知する分子特性をもつことで、分子間の力発生が同調し、“熟練した綱引きチームのように”効率的に力が発生する原理が見えてきました。

将来の展望

ランダムに機能する分子が協同的に機能する現象は生命機能において本質的なものであり、その一例として大変興味深い発見だと考えています。実験では、数十分子のミオシンの協同的な力発生を検証しましたが、筋肉1つには何千兆分子ものミオシンが機能しています。こうした膨大な分子数を持つ筋肉では、二次、三次的な協同現象が起き、最先端の人工アクチュエータでは到底達成できない収縮機能を持っているのかもしれません。今後は、こうしたマクロな構造レベルにおける協同性の解明に繋がる研究へ進めていきたいと考えています。さらに将来的には、こうした研究成果が効率的に機能するマイクロマシンや人工筋肉の開発に反映されることが期待されます。

 

発表雑誌

雑誌名 Nature Communications
論文タイトル Coordinated Force Generation of Skeletal Myosins in Myofilaments Through Motor Coupling
著者 Motoshi Kaya, Yoshiaki Tani, Takumi Washio, Toshiaki Hisada and Hideo Higuchi
DOI番号 10.1038/NCOMMS16036
論文URL https://www.nature.com/articles/ncomms16036

 

 

用語解説

注1 ATP加水分解エネルギー

ミオシン1分子はATP1分子と結合し、ATP加水分解を介して得られる化学エネルギー(80~120×10-21 Nm)の一部を力学エネルギー(仕事=力×変位)に変換する。従って、入力エネルギーであるATP加水分解エネルギーを超えた仕事量を出力することは熱力学第一法則に反し、不可能である。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―