2017/05/29

花の発生に重要な役割を担っている遺伝子の機能解明

 

田中 若奈(生物科学専攻 助教)

平野 博之(生物科学専攻 教授)

 

発表のポイント

  • イネの花や花序(穂)の形作りに重要な3つの遺伝子(TOB1TOB2TOB3)の機能を解明しました。
  • 3つのTOB遺伝子は、花器官の正常な発生だけではなく、花メリステム(分裂組織)(注1)の形成にも必須であることが明らかになりました。
  • これらのTOB遺伝子は、近傍の器官から花メリステムへと働きかけるユニークな作用を持っていると考えられます。

発表概要

イネは重要な作物ですが、単子葉植物のモデル生物として、基礎的な研究にも多いに役立っています。イネの花は、小穂(しょうすい)(注2)といわれる特殊な構造の中につくられ、稲穂はこの小穂が集まったもので、植物学的には花序と呼ばれています。花の中で受粉が起こると種子が稔り、お米の原料となります。したがって、花が正常に作られることは、お米の生産にとっても重要なことです。 

東京大学大学院理学系研究科の田中若奈助教や平野博之教授のグループは、このイネの花や花序の形成に重要なはたらきをする3つのTOB遺伝子を見いだし、その機能を解析しました。花の各器官は未分化細胞の集団である花メリステムから分化しますが、この解析の結果から、これらのTOB遺伝子は、花器官を作るだけでなく、花メリステムそのものの形成にも不可欠であることが明らかとなりました。

これまで知られている花の発生に関わる遺伝子は、おもに花メリステムで発現してその場で機能していました。しかし、TOB遺伝子は、花メリステムでは全く発現せず、その近傍の器官で発現していました。したがって、TOB遺伝子は、近傍の器官から花メリステムに働きかけ、その活性を正常に維持するために必要であると推定されます。TOB遺伝子は、花の発生にユニークな作用をする新しいタイプの遺伝子であると考えられます。

発表内容

イネの花序(穂)は、穂軸、ブランチ(花枝)、小穂から構成され、小穂内に花器官が形成されます。植物の発生には、未分化な細胞の集団であるメリステムが非常に重要なはたらきをしており、穂軸、ブランチや花などは、それぞれに対応するメリステムから分化してきます。 花の発生においては、未分化細胞からなる花メリステムの一部の領域で細胞の運命が決定され、雌しべや雄しべなどの花器官が分化します。また、花メリステム自身は、ブランチメリステムから分化します。

田中助教や平野教授のグループは、転写制御に関わる3つのTOB遺伝子に着目してその機能を解析してきました。その結果、1つまたは2つのTOB遺伝子の機能を欠損または低下させると花器官の形や数が異常となること、3つの遺伝子の機能をほとんど喪失させると花の異常に加え花の数が大きく減少することが判明しました。後者の極端な場合には、花が全く形成されなくなり、花序は穂軸とブランチのみになってしまいました(図1)。

図1.イネの花序。
(A)野生型のイネ。 (B) 3つのTOB遺伝子の機能が大きく損なわれたイネ。

 

したがって、3つのTOB遺伝子は互いに類似したはたらきをしており、花器官を作るだけでなく、花メリステムそのものの形成にも不可欠であることが明らかとなりました。

3つのTOB遺伝子は転写制御に関わるタンパク質を作る情報をもっています。その発現場所を調べたところ、メリステムでは全く発現していないこと、花器官や苞葉(注3)など、メリステムの近傍に存在する器官で発現していることが判明しました。また、3つのTOB遺伝子の機能が大きく低下したイネでは、花メリステム自身の形成が阻害されていることが明らかとなりました。これは、ブランチメリステムの機能が損なわれていることが原因であると考えられます。TOB遺伝子は、何らかのシグナルを介して近傍器官からメリステムに作用し、そのはたらきを正常に維持する機能を担っていると考えられます(図2)。

図2.TOB遺伝子のはたらき。
(A)ブランチメリステムから花メリステムの分化。 (B) 花メリステムから花器官原基の分化。ブルーの領域は,3つのTOB遺伝子が発現している領域を示す。

 

これまで知られている花の発生に関わる遺伝子は、主に花メリステムで発現していましたが、TOB遺伝子の発現パターンはこれとは対照的に、ユニークな方法で花の発生を制御していると考えられます。また、TOBタンパク質は、SEUSSという転写抑制にかかわる因子とともに、上述したはたらきをしていることも示されました。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金(若手研究(B)および新学術領域研究「植物発生ロジック」)の研究助成を受けて行われました。

 

発表雑誌

雑誌名 New Phytologist
論文タイトル Three TOB1-related YABBY genes are required to maintain proper function of the spikelet and branch meristems in rice
著者 Wakana Tanaka, Taiyo Toriba, Hiro-Yuki Hirano

 

用語解説

注1 メリステム(分裂組織)

未分化な細胞からなるドーム状の構造で、その頂端部には幹細胞があり、常に未分化細胞を側方や下方に供給している。花メリステムの側生領域では、細胞の運命が決定され、各花器官へと分化する。ブランチメリステムは、側生領域で花メリステムを生成するとともに、下方に供給された細胞からブランチが形成される。

注2 小穂

イネ科植物の特殊な花の構造。雌しべや雄しべなどの花器官と外穎や内穎などからなる。外穎や内穎は種子が稔ったときの籾殻に相当する。

注3 苞葉

特殊な葉の一つで、イネでは苞葉の基部にブランチや花が形成されるが、成熟した穂になると退化する。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―