2017/05/11

元禄型関東地震の再来間隔、最短2000年ではなく500年

 

安藤 亮輔(地球惑星科学専攻 准教授)

宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門 研究グループ長/
地球惑星科学専攻 兼任教授)

横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター/
地球惑星科学専攻 教授)

 

発表のポイント

  • 房総半島南部千倉地域でちゅう密な地質・地形調査を行い、元禄型関東地震(マグニチュード 8クラス)による隆起運動が、過去約6300年で少なくとも5回、最短で500年の間隔で起こっていたことを発見。
  • 元禄型関東地震の繰り返し間隔は、従来では平均約2300年間隔とされていたが、今回の調査でより短くばらつきが大きいという結果が得られた。
  • 国が実施する地震活動の長期評価で参照した地震履歴を更新し、将来の発生予測の見直しを迫る成果。今後、より広範囲での調査から首都圏に影響する巨大地震の過去の発生パターンを解明する。

発表概要

東京大学大学院理学系研究科の小森純希氏(修士課程2年生)と安藤亮輔准教授、産業技術総合研究所の宍倉正展研究グループ長(理学系研究科兼任教授)、および東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授、宮入陽介特任研究員らの研究チームは、相模トラフ沈み込み帯では1703年に発生した元禄関東地震と似たタイプの地震(元禄型関東地震)が、過去約6300年間に少なくとも5回、500-2800年の間隔で起こっていたことを明らかにしました。

沿岸の地下で巨大地震が発生すると地面が隆起するため、過去の巨大地震は海岸段丘という地形とそれを構成する地層中の化石の年代として記録されます。従来、海岸段丘の年代は、試料採取が比較的容易な自然の崖面から得られる化石を用いて推定されてきましたが、その正確性はよく分かっていませんでした。本研究チームは、50cm解像度のデジタル地形情報の取得、解析から段丘地形を正確に把握した上で、従来にないちゅう密なボーリング(掘削)調査を行い、段丘の地下構造を正確に把握しました。また地中から大量の貝化石を採取し、隆起が生じた時期をより的確に示す試料を選別しました。さらにそれらを最新の加速器質量分析装置で年代測定を行うことで、各段に高い精度で段丘年代を明らかにしました。

従来の年代値に基づいて平均約2300年間隔とした国の長期評価は、再評価が必要となると考えられます。

発表内容

関東地方に沈み込むプレートの境界では、神奈川県から千葉県の房総半島付近を震源とする1923年大正関東地震(マグニチュード7.9)と、さらに房総半島南東沖まで震源域が及んだ一回り大きな1703年元禄関東地震(マグニチュード8.2)が発生しています(図1)。

図1.1923年大正関東地震(緑枠)と1703年元禄関東地震(赤枠)の震源域の概要。矢印は今回の調査地域。

 

沿岸の地形や地質に残る巨大地震の痕跡に基づけば、過去にはそれら2つと似たタイプの地震(大正型と元禄型)が繰り返し発生していたと考えられています。政府の地震調査推進本部は、これらのうち元禄型の関東地震については約2000 – 2700年間隔(平均2300年間隔)で発生すると評価してきました。

巨大地震が発生して地面が隆起すると、波打ち際の海底が陸上に現れ、階段状の地形である海岸段丘が形成されます(図2)。

図2.堆積性の海岸段丘のできかた。波打ち際に貝などの生息する地層(段丘構成層)が発達する(上)。地面が隆起すると貝などは干上がり、さらに土壌などが堆積し段丘構成層を覆い隠す(下)。

 

房総半島南部の沿岸にも、海岸段丘が存在することが知られており、特に顕著な四段の段丘面は上から沼I~IV面と呼ばれ、元禄型関東地震の繰り返しによって形成されたと考えられています。千倉地域の段丘(図3)はその典型例であり、従来その形成年代が調査され、相模トラフの地震活動の長期評価の際に考慮されてきました。

図3.千倉地域の海岸段丘の分布とその形成年代。線は過去の海岸線。数値は従来の年代値(上)と本研究で更新された値(下)。

 

段丘が形成された年代は、段丘面の形成時に堆積した地層(段丘構成層と呼ぶ)に含まれる貝化石などの生物遺骸を、放射性炭素年代測定法(注1)を用いて調べることで推定できます。波打ち際の砂泥の中で生息していた貝は、海底の急激な隆起が生じると干上がり、地層の中に保存されることになります(図2)。波打ち際は常に波に洗われており、そこに堆積する地層も侵食と堆積を頻繁に繰り返すため、地層の中には、その死後に海中を漂っていたり、古い地層から洗い出されたりして偶然その地層に埋まることになった古い貝も含まれます。正確な段丘の形成年代を推定するには、再堆積した貝化石ではなく死後にその場で埋まった貝化石を見つけ出す必要があります。

従来は川岸などで表層の地層が削られて段丘構成層が露出した場所(露頭)などを利用して、貝化石の採取と年代測定が行われてきました。しかし、化石試料の採取場所に偏りがあったり試料数が少なかったりすると、この再堆積などの影響を除いて、正確な海岸段丘の形成年代を見積もることが困難です。従来の、平均2300年という元禄型関東地震の発生間隔の数値もこのような制約のもとでの調査結果に基づくものでした。

本研究チームは、ちゅう密なボーリング調査を各段丘面に対して複数箇所で実施し、地中から多数の地層の試料を採取する(図4)ことで、従来の露頭などでの調査の制約を乗り越えました。

図4.ちゅう密ボーリング調査の概念図。それぞれの段丘面について複数箇所のボーリング(掘削)調査を行い地下に埋没した段丘構成層から試料を採取。

 

得られた地層試料を手作業で丹念に分析することで、地下の地層の重なり方を3次元的に明らかにするとともに、多数の状態の良い貝化石を取り出すことに成功しました。さらに加速器質量分析(AMS)を用いた年代測定により、それらの年代値が高精度で明らかになりました。その結果、段丘を構成する地層を明確に同定し、従来明らかでなかった再堆積の影響を見積もることが可能となり、海岸段丘の形成年代をより正確に推定することに成功しました。また、50cmという高分解能航空レーザー測量を行い微細な地形構造を解析し、年代測定の結果と統合することで、従来一つの段丘面と考えられていた沼I面の中に、もう一つの段丘面が存在していることを発見しました。

得られた海岸段丘の形成年代は、古い方から約6300年前、5800年前、3000年前、2200年前、西暦1703年(元禄関東地震)となり、元禄関東地震の段丘面(沼IV面)以外の全ての段丘面の年代値が若くなる方向に更新されました(図3)。また、得られた年代の間隔は、最短で500年、最長で2800年という結果となりました。この結果は、2000-2700年(平均約2300年)間隔という従来の推定値と比較すると、最短の発生間隔が1/4程度になり、ばらつきも大きくなっています。このことは、元禄型関東地震が、従来想定されているよりも高頻度で発生しており、またその繰り返しパターンも従来考えられていたほど規則的ではない可能性があることを示唆しています。なお、今回新たな段丘面が見つかったように、今後の詳細な地形解析から、未知の巨大地震による隆起の痕跡が見つかる可能性があり、従来の類型には当てはまらないタイプの地震が検出される可能性も残されています。関東地震の繰り返しパターンについては今後も調査、検討が必要です。

従来の海岸段丘の年代値に基づいて行われた国の長期評価については、将来の地震発生確率などの見直しが必要になると考えられます。今後は、調査範囲を広げ、より詳細な過去の地震の発生パターンの解明を目指します。また、一連の地震発生過程を計算機シミュレーションで再現するなど、定量的研究も進めます。

 

発表雑誌

雑誌名 Earth and Planetary Science Letters, 471C (2017) pp. 74-84
論文タイトル History of the great Kanto earthquakes inferred from the ages of Holocene marine terraces revealed by a comprehensive drilling survey
著者 Junki Komori*; Masanobu Shishikura*; Ryosuke Ando*; Yusuke Yokoyama; Yosuke Miyairi
DOI番号 10.1016/j.epsl.2017.04.044
論文URL http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012821X17302388

 

用語解説

注1 放射性炭素年代測定

貝などの生物が体内に取り込んだ炭素同位体の比率は、その生存中では大気中と同じく一定値を保つが、生物の死後は、放射性同位体である炭素14が放射壊変により時間経過と共に減少する。化石試料に含まれる炭素同位体ごとの存在比を計測して、安定同位体(炭素12及び炭素13)と放射性同位体(炭素14)の比率を求め、大気中の炭素14の存在比率と比較することで、貝などの生物の死後に経過した時間が分かる。最新のシングルステージ加速器質量分析装置(AMS)を用いることで、高精度にかつ多点数試料の測定が可能になった。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―