2017/02/08

光照射した極低温の半導体で異常な金属状態を発見

 

東京大学低温センター

東京大学大学院理学系研究科

東京大学物性研究所

 

概要

半導体に適当な波長の光を照射すると、自由電子とその抜け穴、正孔ができます。電子と正孔は低温低密度では、互いにクーロン引力を及ぼしあい、水素原子と同様の束縛状態、励起子を形成します(図左下)。励起子は全電荷がゼロなので励起子が動いても電荷は運ばず、そのため励起子の集団は絶縁体とみなせます。照射する光の強度を強くして励起子を高密度にすると、励起子は電子と正孔に解離して、系全体は金属的な振る舞いを示すようになります(図右上)。この電子正孔系で生じる絶縁体から金属への変化は励起子モット転移と呼ばれ、長い研究の歴史がありますが、それが極低温でどのように生じているのか、また、絶縁体と金属の境界領域では電子正孔系がどのような状態になっているのかはよくわかっていませんでした。

今回、東京大学低温センター、大学院理学系研究科物理学専攻の 島野亮教授、関口文哉特任研究員(当時)、東京大学物性研究所秋山英文教授らは、米国プリンストン大のグループと共同し、テラヘルツ波という電磁波を用いて、半導体GaAsを対象に励起子モット転移を詳しく調べました。特に、結晶を液体ヘリウムで温度5 K(-268 ℃)まで冷却し、さらに光を照射しても電子系の温度が上がらない工夫をして調べたところ、過飽和状態の励起子から励起子モット転移を経てできた極低温の金属状態は、金属相であっても電子と正孔がお互いに引力を及ぼしあって、自由に動きづらくなった異常な金属の状態にあることを発見しました(図右下)。さらに、観測された異常金属状態が、約半世紀前に理論的に予測されながら未だ明確な実証がなされていない電子正孔BCS状態の前兆である可能性を提示しました。

異常金属相は、高温超伝導体を含む強相関電子系でモット転移の境界領域に現れることがすでに知られていましたが、今回の研究成果のように光励起された半導体の電子正孔系で観測された例は初めてで、モット転移の普遍的な性質を反映していると考えられます。励起子モット転移の理解が進むことで、電子正孔BCS状態などの新しい電子相の探索や、新しい光機能の開拓が進むことが期待されます。

図:半導体の電子正孔系の相図の模式図
低温低密度(左下)では、電子と正孔が対となって励起子を形成し、系全体は絶縁体として振る舞う。高密度では励起子は電子と正孔に解離して金属的な電子正孔プラズマになると考えられていた。実際、高温高密度の状態(右上)はよく理解されていたが、低温のまま高密度にしたらどのような状態になるのかがわかっていなかった。今回の研究により、モット転移を起こして金属になっても、電子と正孔間のクーロン相互作用の効果により、電子が自由に動きづらい状態(右下)になっていることがわかった。グラフは、その状態での電子の有効質量を引力の効果を無視した場合の値の比としてプロットしたもの。クーロン相互作用の効果によって重くなっていることがわかる。点線は高温の場合についてプロットしたもので、ほぼ1である。

本研究成果は、「Physical Review Letters」(2017年2月8日オンライン版)に掲載されました。

 

詳細については、東京大学 低温センターのホームページをご覧ください。
 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―