2017/01/06

南極大型大気レーダー長期連続観測による中間圏重力波の運動量輸送特性の解明

 

佐藤 薫(地球惑星科学専攻 教授)

高麗 正史(地球惑星科学専攻 助教)

堤 雅基(国立極地研究所・総合研究大学院大学極域科学専攻 准教授)

佐藤 亨(京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻 教授)

 

発表のポイント

  • 極域中間圏における大気重力波(注1)の周波数特性や運動量輸送量を明らかにした。
  • 中間圏の大気レーダー観測は大気が電離する昼のみが可能である。本研究により、南極初の大型大気レーダーであるPANSYレーダーを用いた南極夏の白夜期数十日に亘る連続観測を達成した。
  • 本研究で明らかにした現実大気の重力波特性は、最近指摘されている南北両極や赤道と高緯度の気候遠隔結合メカニズムのカギとして気候モデルに強い拘束条件を与えるもので、気候予測精度の向上に資するものである。

発表概要

大気中の浮力を復元力とする大気重力波は、対流圏から運動量を運ぶことにより中間圏大循環を駆動している。最近の研究によりこの大循環による南極と北極の気候結合が指摘されている。しかし、その遠隔結合の仕組みの解明のカギとなる中間圏重力波を捉えるための高分解能の連続観測は困難なため、気候モデルで重力波作用を表現するための基礎的な観測情報が不足していた。東京大学理学系研究科の佐藤薫教授らは、昭和基地に設置した南極初の大型大気レーダー、PANSYレーダーの連続観測により、中間圏の重力波特性を定量的に明らかにした。中間圏重力波の運動量輸送を唯一観測可能なのは大型大気レーダーである。しかし、中間圏観測は大気が電離する日中に限られるため、毎日夜が訪れる中低緯度の重力波観測は短周期成分に限られていた。これに対して、佐藤教授らはPANSYレーダーを用いて、白夜となる極域夏季の数十日に亘る連続観測を達成し(図1)、中間圏における主要な重力波の周期帯(図2)や大循環の駆動力を定量的に捉えることに世界で初めて成功した。得られた情報は、気候モデルに組み込まれている重力波作用の改善をもたらし気候の遠隔結合の予測精度の向上に役立つものと期待される。

発表内容

① 研究の背景・先行研究における問題点
大気中の浮力を復元力とする大気重力波は、運動量を対流圏から中間圏(高度約50~90km)に運ぶことにより中間圏大循環を駆動している。最近この大循環により南極と北極の気候が結合していることが分かってきた。たとえば、北極成層圏で突然昇温現象が起きると、南極中間圏上部も昇温するという現象である。しかしながら、その遠隔結合の仕組みの解明のカギとなる重力波は、時空間スケールが小さいため気候モデルでは解像できず、パラメータとしてその作用のみ組み込まれている。中間圏の連続観測は難しいため、重力波の取りうる広い周期帯の中で、どの周期帯の重力波がどの程度の運動量を運んでいるのかといった基礎的な情報が不足していた。

② 研究内容(具体的な手法など)
重力波観測には高い鉛直解像度が必要である。中間圏での重力波の運動量輸送量が唯一観測可能な大型大気レーダーにおいても大気が電離する日中の観測に限られ、これまでの中低緯度の観測では短周期の重力波成分しかとらえることができなかった。これに対して、極域においては夏に白夜となること、極中間圏雲という特殊な雲が出現し、レーダー観測をすると比較的強い散乱電波が受信されることが分かっていた。

佐藤薫教授ら本研究グループは、昭和基地に設置した南極初のハイパワーな大型大気レーダーであるPANSYレーダーのビームを南極の夏の中間圏に向けて、3年に亘り観測を行った。そして、夏季数十日間の鉛直を含む5方向の風速データをほとんど欠損なく取得することに成功した(図1)。

図1:PANSYレーダーによる中間圏エコーの時間高度断面図

 

このデータの鉛直分解能は600m、時間分解能は1分であり、重力波のとりうる周期帯のほぼ全てを解析することができる。本研究グループは5方向の風速ベクトルを組み合わせることにより、精度よく重力波の運動エネルギーや、運動量輸送量を周期ごとに分解し、周波数スペクトルとして解析を行なった(図2)。

図2:(a) 高度84~88kmにおける中間圏の水平風の周波数パワースペクトル。横軸は周期8分から20日の範囲を示している。慣性周期(約13時間)より短い周期で周波数の-2乗に乗る形をしている。緑(上)は2015~16年、青(中)は2014~15年、黒(下)は2013~14年夏季のデータ。
(b)東西運動量の鉛直フラックスの周波数スペクトル。1時間~1日の周期成分が大きなフラックスを伴うことがわかる。色(線の順)は(a)と同様。

 

その結果、運動量輸送を担う中間圏重力波の周期帯は1時間から1日であることが明らかとなった。これは、それまでの限られた観測により、運動量輸送は数十分以下の短い周期をもつ重力波が担うと考えられてきた予想を覆すものである。また、運動エネルギーの周波数分布を示す周波数スペクトルは、周波数のマイナス2乗に比例する形を持っていること、その形を持つ低周波数側つまり長周期側の限界が約13時間であることも明らかとなった。べき乗にのる限界周波数が分かるほど広い周波数帯域におけるスペクトルを示したのもこの研究が世界で初めてである。

本研究グループが以前に行ったPANSY観測レーダーに基づく南極対流圏の風の周波数スペクトルの研究によれば、周波数のマイナス2乗の形を持ち、その長周期側の限界は約7日であることを示している。したがって、今回の研究で明らかとなった中間圏のスペクトルは、形状は似ているものの限界周波数が大きく異なることがわかる。この限界周波数の違いは、対流圏の13時間から7日の周期成分が、重力波とは異なる地衡風(注2)的な大気波動によるものであり、地衡風的な大気波動は夏季成層圏・中間圏に伝播できないとする理論的予想と整合するものである。

さらに、得られた観測データを基に重力波による運動量輸送量を平均風に対する力として見積もったところ約200m/s/dayとなり、中間圏大循環を駆動するのに十分な力であることがわかった。

③ 社会的意義・今後の予定
本研究で明らかにした情報は、気候モデルに組み込まれている重力波作用の表現をより正確にするために重要であり、中間圏を介した両極や赤道と中高緯度をつなぐ気候の遠隔結合の予測精度の向上に役立つものと考えられる。本研究グループでは、PANSYレーダーをはじめ、世界に点在する大型大気レーダーをネットワーク化した国際共同観測プロジェクトを進めている。これらの高解像観測データと高解像気候モデルを結びつけた研究により、中間圏の大気大循環や埋め込まれた大気階層構造の、より定量的な力学的解明が期待される。

本研究の観測は、日本南極地域観測第Ⅷ期6か年計画(平成23~28年度)における重点研究観測「南極域から探る地球温暖化」のサブテーマ「南極域中層・超高層大気を通して探る地球環境変動」のもとで、データ解析および理論解釈については、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造推進事業 チーム型研究(CREST)「計測技術と高度情報処理の融合によるインテリジェント計測・解析手法の開発と応用」(研究総括:雨宮 慶幸 東京大学教授)における研究課題「大型大気レーダー国際共同観測データと高解像大気大循環モデルの融合による全球大気階層構造の解明」(研究代表者:佐藤 薫 東京大学大学院理学系研究科教授)(研究期間:平成28~33年度)の一環で実施された。

 

発表雑誌

雑誌名 Journal of Geophysical Research—Atmospheres— 121号
論文タイトル Frequency spectra and vertical profiles of wind fluctuations in the summer Antarctic mesosphere revealed by MST radar observations
著者 Kaoru Sato*, Masashi Kohma, Masaki Tsutsumi, and Toru Sato
DOI番号 doi:10.1002/2016JD025834
論文URL http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2016JD025834/abstract

 

用語解説

注1 大気重力波

大気中の浮力を復元力とする大気波動。山岳や積雲対流、ジェット気流や前線などから発生する。1km程度の短い鉛直波長もとりうるため、高高度分解能観測が必要である。また、周期は浮力周期から慣性周期まで取りうる。浮力周期は成層圏・中間圏では約5分、慣性周期は緯度によるが、日本では約20時間、南極昭和基地では約13時間である。

注2 地衡風

地球の自転に起因するコリオリ力(水平風に比例し、北半球では風の直角右向きに、南半球では直角左向きに働く力)と気圧傾度力(気圧の低い方に働く力)がバランスする大気の流れ。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―