2016/11/29

体内時計が遺伝情報を書き換える~リズミックなRNA編集とその意義~

 

深田 吉孝(生物科学専攻 教授)

吉種 光(生物科学専攻 助教)

寺嶋 秀騎(生物科学専攻 特任研究員)

 

発表のポイント

  • DNAの遺伝情報がRNAに読み取られた後、RNA配列が書き換えられる現象「RNA編集」が一日の特定の時刻に起こることを発見。RNA編集リズムはADAR2(注1)タンパク質が生み出していた。
  • 体内時計が多くの生理機能リズムを生み出すにはADAR2が重要であることを初めて明らかにした。体内時計が正確な時を刻むためにもADAR2が必要であることを発見した。
  • 体内リズムの異常がもたらす肥満・発がん・うつ・不眠など数多くの疾患(現代病)の予防や治療につながると期待される。

発表概要

東京大学 大学院理学系研究科の寺嶋秀騎特任研究員と吉種光助教、深田吉孝教授らの研究グループは、体内時計がADAR2タンパク質をリズミックに作り出すことにより、特定の時刻にRNA上の遺伝情報が書き換えられているという現象を世界で初めて発見しました。

我々のゲノムに書き込まれた遺伝情報は、RNAという分子にコピーされ、その情報を元に多様なタンパク質が創り出されます。我々の体内時計が、睡眠覚醒リズムや代謝産物のリズムを生み出すためには、このRNA分子の制御が重要であると考えられてきましたが、その仕組みは不明でした。本研究チームは、ADAR2タンパク質の量、およびADAR2によるRNAの遺伝情報の書き換え(RNA編集)が一日の時刻によって変化することを見出しました。さらにADAR2欠損マウスを詳細に解析したところ、多様なRNAの量のリズムが消失しており、その結果として血中の脂肪酸量や高脂肪食を食べた時の体重増加に異常が見られることを明らかにしました。一方、概日時計が正確な約24時間周期のリズムを刻むためには、ADAR2が必要であることも新たに見出しました。

本研究は概日リズムの異常がもたらすメタボリックシンドロームなどの疾患の予防や治療に役立つと期待されます。

発表内容

睡眠覚醒リズムや血糖・脂肪酸などの代謝物のリズムに代表されるように、多くの生命現象が約24時間周期のリズム(概日リズム)を刻みます。これらのリズムは、ほぼ全ての生物が体の中に備えている概日時計(注2)と呼ばれる機構によって生み出されています。近年、夜更かしや夜間のスマートフォンの使用などによる体内時計の乱れが、睡眠障害や肥満、生活習慣病などを引き起こす原因となると考えられており、体内時計の性質に対する国民の関心やそれを制御する薬剤の開発に期待が高まっています。

概日時計の中心では時計タンパク質CLOCKが多様な遺伝子の発現リズム(RNA量のリズム)を転写制御することにより、様々な生理機能にリズムを生み出しています。CLOCKの転写制御因子の中にはCRYタンパク質というCLOCKの転写抑制因子も含まれており、CRYがゆっくりと蓄積することによりCLOCKの活性を12時間かけて抑制するという、転写翻訳フィードバックループが、概日時計によるリズム出力の基本原理であると長らく考えられていました。しかし、近年の次世代シーケンサーを用いた研究により、概日時計が生み出すRNA量のリズムのおよそ7~8割は、DNAの転写リズムによって生み出されるのではなく、RNA分子への制御(DNAを転写した後の制御)が概日時計のリズム出力に重要な役割を果たすことが分かってきました。その分子メカニズムとして、小分子RNAの一つであるmiRNAによる制御などが提唱されていますが、RNA量のリズム形成の全てを説明するには至らず、未だに多くの謎が残されています。

本研究チームは、これまでにCLOCKが制御するリズミックな因子の網羅的同定に成功しており、その中にRNA編集酵素であるADAR2が含まれていることに着目しました。ADAR2タンパク質はRNA上の遺伝情報であるアデノシン(A)をイノシン(I)へと書き換えること(A-to-I RNA 編集)により、多くの生理現象を調節しています。このADAR2のタンパク質量が一日を通してダイナミックに変化していたことから、RNA編集に日内変化があるのではないかと仮説を立て、次世代シーケンス解析を行いました。その結果、132種類のRNAにおいて、RNA編集の効率がお昼をピークとした日内リズムを示すこと、Adar2遺伝子を欠損したマウスにおいてRNA編集のリズムが消失していることを見出しました(図1)。

図1. A-to-I RNA編集リズム
Flnb遺伝子のRNAにおけるA-to-I RNA編集に日内変化を検出しました(左図、黒丸の部位)。イノシン(I)は配列情報ではグアノシン(G)として読み取られるため、A-to-I RNA編集によって遺伝情報がAからGへと変化します。

 

さらに、Adar2欠損マウスにおいては359種類ものRNAの量のリズムが消失しており、ADAR2が概日時計によるリズム出力(「RNA編集」のリズムと「RNA量」のリズム)を生み出す鍵分子であることを明らかにしました(図2)。

図2. Adar2欠損マウスにおけるRNAリズムの消失
次世代シーケンス解析を行ったところ、Adar2欠損マウスにおいて359種類のRNAリズムが消失しました(左図は解析結果、右図はその一例のイメージ)。黄色(明色)で表示された時刻においてRNAの発現量が多いことを示しており、Adar2欠損マウスにおいては、そのRNAリズムが崩れている様子が観察されます。

 

このようなADAR2が担うリズム出力の一つとして、Adar2欠損マウスにおける血中脂肪酸量のリズム消失、および、高脂肪食を摂食した時に太りやすいことを見出しました(図3)。

図3. Adar2欠損マウスにおける体重増加
Adar2欠損マウスに高脂肪食を与え続けると、コントロールマウスよりも体重が増加しやすくなっていました。

 

一方、Adar2欠損マウスの輪回し行動リズムを測定したところ、驚くべきことに通常のマウスより短周期の活動リズムを示しました。これはADAR2が概日時計のリズム振動本体そのものにおいても重要な役割を果たしていることを意味します。さらに、Adar2欠損マウスの短周期性の原因は、miRNAの発現量変化によるCRY2の過剰蓄積であることを明らかにしました。

本研究は、ADAR2によるRNA編集の日内リズムを初めて発見し、ADAR2が幅広い概日時計の出力リズム、特に脂肪酸代謝リズムに重要な役割を果たすことを示しました。さらに、ADAR2は概日時計の出力リズムのみならず、正確な約24時間周期のリズムを刻むために必須の因子であることも明らかにしました(図4)。

図4. 概日時計の分子基盤におけるADAR2の役割
時計遺伝子であるCLOCKはリズミックな転写制御により、ADAR2の発現に日内変化を生み出しています。ADAR2はA-to-I RNA編集のリズムを生み出すのみならず、概日時計のリズム出力として広範なRNA量のリズムに影響し、脂肪酸代謝や体重増加などの生理機能に寄与していることが明らかになりました。さらにADAR2は、miRNAの前駆体である二本鎖RNAに結合することでその合成量を制御しています。CRY2はADAR2依存的なmiRNAによって適切な発現量に調節されているため、ADAR2は概日時計が正確な時を刻むために重要な役割を果たしています。

 

そのため本研究は、概日リズムの乱れからもたらされるメタボリックシンドロームなどの疾患の予防や治療に役立つと期待されます。

 

発表雑誌

雑誌名 Nature Genetics(オンライン版11月28日)
論文タイトル ADAR2 catalyzes circadian A-to-I editing and regulates RNA rhythm
著者 Hideki Terajima, Hikari Yoshitane, Haruka Ozaki, Yutaka Suzuki, Shigeki Shimba, Shinya Kuroda, Wataru Iwasaki, and Yoshitaka Fukada
DOI番号 10.1038/ng.3731
論文URL http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3731.html

 

用語解説

注1 ADAR2:adenosine deaminase, RNA specific 2 (別名:Adarb1)

二本鎖RNAに結合し、RNA内のアデノシン(A)を脱アミノ化してイノシン(I)へと書き換えるA-to-I RNA編集を担う酵素。イノシンはシトシンと塩基対合するため、遺伝情報上はAからグアノシン(G)への変化と読み取られます。この遺伝情報の編集により、RNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列が変わり、タンパク質の性質が変化したり、miRNAの発現が調節されることなどが知られています。

注2 概日時計(約24時間周期の体内時計)

生物に内在する自律振動体であり、生物が示すおよそ24時間周期のリズム現象(睡眠覚醒リズムや血糖・脂肪酸などの代謝物のリズム)を生み出しています。概日時計の分子メカニズムは、1日周期で時計遺伝子の発現がONとOFFを繰り返し、その発現量が増加と減少を繰り返してリズムを刻むことが基盤であると考えられています。時計遺伝子の中でもCLOCKはCRYを含めた多様な遺伝子の発現をONにし、CRYはCLOCKの活性を抑制することにより、遺伝子発現のOFFにする因子として働きます。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―