2016/05/06

細胞分裂の方向を調べる新しい方法を開発

 

塚谷 裕一(生物科学専攻 教授)

Xiaofeng Yin( 生物科学専攻 大学院生)

発表のポイント

  • 生物のかたちづくりにおいて重要な、細胞の分裂方向の制御をモニターする新しい方法を開発。
  • 従来の方法は遺伝子組換え等を必要としたが、新しい方法は遺伝子導入のできない生物でも容易に、短時間でモニターできる。
  • 生物のかたちづくりに果たす細胞の分裂方法の役目が、今後明確に判明すると期待される。

発表概要

生物の体は三次元の構造をしています。その三次元の形は、体をかたちづくる単位となっている細胞が、どの方向にどれだけ分裂するかによって決まっていると考えられます。

近年の分子遺伝学の進歩により、どのような遺伝子がどこではたらくことで、どのような形ができるかについて、かなり詳しいことが分かってきました。その反面、それらの遺伝子が、具体的に細胞の分裂方向のどういった変化、分裂の頻度のどのような変化をもたらしているのかについては、まだあまり解明が進んでいません。

その理由の1つとして、複雑な構造をしている体の中で、いつ、どのタイミングでどちらの方向に細胞が分裂しているかを、簡単に見て取る方法が確立していなかった、という点があげられます。遺伝子組換えが可能な生物においては、細胞分裂時にだけ光るようなトリックをしかけるなどの方法で解決が可能でしたが、これは遺伝子導入が可能な一部の生物にしか適用できません。

一方で、細胞分裂が活発な領域を染め出す方法は、これまでに色々と開発されてきました。しかしこれも、個々の細胞がいつ分裂したのかを観察するには、不向きでした。

そこで本研究グループは、DNAを構成する要素の類似化合物として最近広く用いられる試薬EdUを応用し、短い時間だけEdUを与え、そのあと適切な時間をおいてからEdUを取り込んだ細胞核を染め出すという、新しい方法を考案しました。この方法は、遺伝子組換えを全く必要としないほか、実験に広く用いられているいわゆるモデル植物だけでなく、野生植物も広く応用できます。この新しい実験手法は、生物の器官がどのようにして特徴的な三次元の形を作り上げていくのかを解明する上で、今後広く応用されると期待されます。

 

発表内容

生物の体は3次元の形をしています。海藻の仲間アオサなどのように、細胞が一平面上に並ぶようにしか分裂しないため、細胞層一層の、2次元平面でできている生き物もありますが、多くは細胞が三次元方向に分裂を繰り返すため、三次元の体を持っています。このとき、細胞がどちらの方向に、どれだけの回数、どの順番で分裂するかは、体の形を決める上でたいへん重要と考えられます。

しかしその分裂のタイミングと方向、順番を丁寧に追って調べるのは、とても手間がかかるため、これまでごく限られた種類の、限られた状態の組織にしか、そうした解析はなされてきませんでした。

一方、遺伝子をつくるDNAからRNAへ、そしてタンパク質へという遺伝情報の流れに関する研究、いわゆる分子遺伝学の発展により、さまざまな生物の、さまざまな形作りの曲面において、どのような遺伝子が重要かということが次々と明らかになってきています。

また重要な遺伝子の、それぞれがいつ、どういう細胞ではたらくのかという情報についても、近年、多くの知見が蓄積してきました。

ところが、そうした中で、個々の細胞がどういう順番でどちらに、どれだけ分裂しているかの情報は、上述のようにあまりよく分かっていません。そこへ最近、生物の体の中の、どこでどの細胞が分裂をしようとしているかについては、新しい手法が開発され、広く用いられるようになってきました。これは、細胞が分裂に備えるにあたって、DNAの構成要素を取り込み、DNAを複製する性質を利用して、DNAを構成する要素に類似した化合物のEdUという物質を人工合成し、それを取り込んだDNAを染め出すという手法です。

しかしこの方法の場合、どの細胞集団が細胞分裂をしようとしていたかを検出することはできますが、個々の細胞がどちらの方向に分裂するのかまでは分かりません。

そこで本研究グループは、このEdUの与え方を工夫して、細胞分裂の方向をはっきりと目に見えるようにすることを試みました。具体的には、EdUを短時間(パルス状に)与えます。そのあと、EdUを含まない状態で適切な時間待ちます(チェイスと言います)。そして細胞分裂が1回だけ終わった頃を見計らって、EdUを含む細胞核を染め出すという方法を開発しました(EdUのパルス・チェイス投与法と呼びます)。

これを植物の葉になる予定の組織(原基と言います)に適用したところ、2つの娘核(1つの細胞が分裂して2つになったものを娘細胞と言い、それぞれが持つ細胞核を娘核と言います)が対になっている状態で検出されました(図1)。あとは、それぞれの対がどの角度で並んでいるかを測定すれば、細胞がどの場所でどの方向に分裂しているかが分かります(図1左上挿入図)。

図1.新手法で見たシロイヌナズナの葉の原基
2つ並んで緑に光っているのは、1つの細胞核から分裂してできた娘核のセット。核の間の短い補助線は、それぞれのセットの境界面を示す。この境界面を見ることで、分裂の方向が一目瞭然で分かる。背景で薄く青く染まっているのは、この間に分裂をしなかった細胞の核。左上の拡大図は、2つの娘核とその境界線(短い線)、そして分裂した方向(矢印)を示す。

 

モデル植物であるシロイヌナズナの葉の原基について、この方法で解析したところ、細胞分裂の方向は、原基の中の、どこの場所にあるかによって大きく異なることが分かりました。この手法の利点の1つとして、遺伝子組換えができない生物種でも、容易に、また短時間で結果を求めることができる点が上げられます。実際、本研究グループも野生植物のコウガイゼキショウというイグサ属の植物の葉において、この手法が問題なく使えることを確認しました。

この新しい実験手法は、植物の葉のみならず、動物、菌類その他広くさまざまな生物について、それぞれの器官がどのようにして特徴的な三次元の形を作り上げていくのかを解明する上で、今後広く応用されると期待されます。

発表雑誌

雑誌名 New Phytologist(オンライン版4月28日出版)
論文タイトル A pulse-chase strategy for EdU labelling assay is able to rapidly quantify cell division orientation
著者

Xiaofeng Yin, 塚谷 裕一

DOI番号
要約URL

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―