2016/03/07

放射性元素による汚染浄化に応用可能な長期固定機構の発見

 

鈴木 庸平(地球惑星科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 微生物を用いた放射性元素(注1)の浄化法が現在注目されているが、微生物は放射性元素をナノ粒子(注2)として地下水から除去するため、長期安定性に対する懸念があった。
  • 地下深部から採取した岩石コアを分析した結果、地下水に含まれるウランがナノ粒子として沈殿し、炭酸カルシウム鉱物(注3)に取り込まれ、100万年近く固定されていることが明らかとなった。
  • 炭酸カルシウム鉱物とウランのナノ粒子は、微生物の栄養を地下水に加えることで人為的に発生させることが容易である。さらに炭酸カルシウム鉱物は放射性ストロンチウムも取り込むため、放射性元素を長期間固定し、安全を確保する技術に応用可能である。

発表概要

世界各地の核関連施設や鉱山の周辺では、放射性元素による地下水汚染が環境問題となっている。日本でも福島第一原発事故で発生した汚染水の地下水への漏洩や高レベル放射性廃棄物の地層処分の問題を抱えている。地下水を汚染した放射性元素の回収・除去に莫大な費用が必要なため、汚染をその場で浄化する技術が求められている。地下水中の微生物の働きを利用して放射性元素を固定する技術が提案されているが、微生物はウランやテクネチウムをナノ粒子として固定するため、長期安定性の確保が課題として挙げられていた。

東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授らの研究グループは、日本原子力研究開発機構、京都大学、茨城高専との共同研究によって、岐阜県の瑞浪超深地層研究所(注4)において掘削した岩石コア試料を調査した結果、深度200メートルの花崗岩の亀裂中で地下水から沈殿した炭酸カルシウム鉱物中に、ウランを主成分とするナノ粒子が取り込まれ、100万年近く固定されていることを明らかにした。

今回の発見は、ウランのナノ粒子が形成した後、炭酸カルシウム鉱物に取り込まれることで、その放射能による毒性が低減するのに必要な長期間にわたり、ウランのナノ粒子を隔離できることを示した成果である。鈴木庸平准教授は、微生物がウランのナノ粒子を形成することを2002年に発見しており[1]、微生物によるウランのナノ粒子の形成と炭酸カルシウム鉱物の沈殿は、地下水への栄養の添加により人為的に起こすことが容易なため、放射性元素の長期固定により安全を確保する技術に応用が可能である。

 

発表内容

人間が酸素呼吸でエネルギーを得るように、微生物の中には水に溶けたウランの酸化還元反応によってエネルギーを獲得し、それによって還元されたウランを固体として沈殿させる種が知られる。実際にウランで汚染された地下水に酢酸等の有機物を添加して微生物を活発化し、ウランを環境基準濃度未満まで下げることに成功している。しかし、生成したウランの固体がナノ粒子であり、このような小さな粒子は環境中で不安定なため、その長期安定性の確保が課題であった。

本研究グループは、瑞浪超深地層研究所の地下200から400メートルの地下水を6年間にわたり化学分析し、花崗岩中で硫酸呼吸(注5)する微生物が生息していることを2014年に明らかにした[2]。硫酸呼吸する微生物の多くがウランのナノ粒子を形成し、花崗岩は他の岩石よりもウランの濃度が高いことが知られているため、本研究グループは、今回、微生物により沈殿したウランのナノ粒子の検出を試みた。掘削により得られた岩石試料を高空間分解能の電子顕微鏡を用いてウランの固体分析を行った結果、花崗岩の亀裂で地下水から沈殿した炭酸カルシウム鉱物の内部にウランがナノ粒子として取り込まれていることが明らかとなった(図)。

図.

  • a. 瑞浪超深地層研究所用地内に建設された大型地下研究施設坑道と試料を採取したボーリング孔のレイアウト図。
  • b. 長さ1メートルの岩石コア写真。
  • c. 亀裂を充填する炭酸カルシウム鉱物を伴う花崗岩。
  • d. ウランの分布を示すマッピング像。
  • e. ウランのナノ粒子(黒いコントラスト)の透過型電子顕微鏡像。

図内の丸は試料採取地点または分析地点を示す。

本研究グループは、さらに炭酸カルシウム鉱物にウランのナノ粒子が固定されていた期間を明らかにするために、直径2μm(マイクロメートル)のレーザーを用いて、ナノ粒子のウランと鉛の同位体組成をプラズマイオン源質量分析計で測定した(注6)。ウラン—鉛同位体組成から算出された形成年代(注7)から、炭酸カルシウム鉱物中にウランのナノ粒子が90万年以上の期間にわたり安定に固定されていることが判明した。炭酸カルシウム鉱物は結晶構造にストロンチウムを取り込む(注8)ため、地下水中で微生物による炭酸カルシウム鉱物の形成を人為的に促進し、放射性ストロンチウムの除去も可能である。微生物による炭酸カルシウム鉱物とウランのナノ粒子の形成を、有機物の添加により同時に引き起こすことで、放射性元素を長期間にわたり生物圏から隔離する技術に応用できると期待される。

 

[1] Suzuki et al., Nature, 419, 134, 2002

[2] Suzuki et al. PLos One, id. 0113063, 2014

 

発表雑誌

雑誌名 Scientific Reports
論文タイトル Formation and Geological Sequestration of Uranium Nanoparticles in Deep Granitic Aquifer
著者

Yohey Suzuki, Hiroki Mukai, Toyoho Ishimura, Takaomi D. Yokoyama, Shuhei Sakata, Takafumi Hirata, Teruki Iwatsuki, Takashi Mizuno

DOI番号
要約URL

 

用語解説

注1放射性元素

原子核が不安定な元素で、自発的に放射線(α線、β線、γ線)を出して崩壊し、放射線が生物の細胞に損傷を与える。放射性元素が地下水に漏出した場合は、地下水中の放射性元素の移動を抑制し安全性を高める必要がある。

注2 ナノ粒子

1 cmの1000万分の1程度の大きさの固体。粒径の小ささから、地下水中をコロイドとしても移動する懸念がある。また、比表面積の大きさから、環境の変化に敏感に応答し、地下水に再溶出する危険性も指摘される。

注3 炭酸カルシウム鉱物

カルシウムと炭酸から成る鉱物の総称で真珠や二枚貝の殻および珊瑚の骨格を構成する。無機的にも形成し、鍾乳石でも知られる。

注4 岐阜県瑞浪超深地層研究所

高レベル放射性廃棄物の地層処分に関わる基盤技術として、岩盤や地下水を調査する技術や解析法、地下深部で必要となる工学技術の向上を目指している。そのため、主に花崗岩を対象として、実際に地下に立坑及び水平坑道を設置し、岩盤の強さ、地下水の流れ、水質などの包括的な科学研究を行っている。

注5 硫酸呼吸

酸素の替わりに、ミョウバンの成分である硫酸を用いて呼吸すること。硫酸呼吸は硫化水素が生じるため、多くの元素の地下水中での挙動に大きく作用する。

注6 レーザーアブレーションプラズマイオン源質量分析計

レーザーを照射して固体を微粒子化し、生成した微粒子を超高温プラズマによりイオン化することで試料に含まれる元素や同位体を分析する装置。

注7 ウラン—鉛同位体年代

ウランの二つの同位体である238Uと235Uが、それぞれ鉛の同位体206Pbと207Pbに壊変する現象を利用して年代を決定する方法。

注8 炭酸カルシウム鉱物へのストロンチウムの取り込み

カルシウムとストロンチウムのイオンは、電荷が等しくイオン半径も近いため、化学的挙動が類似している。このため炭酸カルシウム鉱物が生成される際に、ストロンチウムが結晶に取り込まれやすい。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―