2016/04/05

細胞と葉の大きさを決める隠されたしくみ

 

塚谷 裕一(生物科学専攻 教授)

松永 幸大(東京理科大学理工学部応用生物科学科 教授)

発表のポイント

  • 従来、細胞核の大きさと細胞の大きさは比例していると信じられていた。
  • しかしその比例関係は、顕微鏡で見やすい表面の、表皮細胞に限った現象であることを、新しい顕微鏡技術で発見した。
  • 本研究により、生物の器官サイズがどのような遺伝子によって制御されているかの解明が大きく進むことが期待される。

発表概要

細胞の核にはDNAが納められています。その核あたりのDNA量が倍になれば、核の体積も倍になります。一般に核が大きくなれば細胞も大きくなり、ひいては器官や体のサイズも大きくなるとされています。例えばシロイヌナズナという植物においては、細胞核あたりのDNAの量を倍倍ベースで増やす核内倍加という現象が起きます。そのため1枚の葉に含まれる細胞でも、核あたりのDNA量は細胞ごとに異なります。そしてその葉の表皮細胞を顕微鏡で観察すると、さまざまな大きさの細胞のモザイクとなっていることが分かります(図1上)。そのため、細胞の大きさは核あたりDNA量に比例すると信じられてきました。今回、東京大学の塚谷教授と東京理科大学の松永教授らの研究グループは、植物組織を簡単に透明にする新手法を開発して解析した結果、そうした比例関係が顕著なのは、葉の場合、表皮に限ることを発見しました。

内部の組織を作る細胞は、核あたりのDNA量が増えても、ほとんど大きさを変えません。しかしながら、表皮の性質を与える遺伝子をはたらかせてみると、内部の組織であるにもかかわらず、細胞体積がDNA量に比例するようになりました。この発見は、生物の器官のサイズが組織ごとにどのようにして決められているのかを解明する上で、重要な知見と言えます。

発表内容

生き物の細胞核には、いわゆるDNAゲノムという形で遺伝情報の完全セットが納められています。そのDNAセットはヒトや、植物のシロイヌナズナの体では、父方から1セット、母方から1セットの合計2セット分で1組となっています。この状態を2倍体の状態と言います。

もしこのセットの数を倍に増やして4倍体にすると、そのDNAを納めている核の大きさも大きくなります。ひいては細胞も大きくなり、器官や体のサイズも大きくなることが知られています。ブドウやジャガイモなどでは、4倍体や6倍体など、このセット数が多く果実や芋のサイズが大きい優良品種が、古くから選ばれ利用されてきました。魚でも同様の効果が知られており、養殖魚の改良に利用が見込まれています。しかしなぜDNA量が増えると細胞や体のサイズが大きくなるのかは分かっていません。

実験植物として広く研究に用いられているシロイヌナズナでは、細胞がそれぞれ、核あたりのゲノムのセットをさまざまに倍加させる現象、核内倍加現象が頻繁に起きることが知られています。実際、葉の表皮を眺めてみると、表皮細胞の大きさは大小さまざまで、モザイク状となっています(図1上)。これについては1990年代初頭に、細胞ごとに核内倍加の回数が異なるため、核あたりのゲノムDNAのセット数が違ってくるということが発見されていました。すなわち1枚の表皮の中に2倍体、4倍体、8倍体、16倍体、そして32倍体の細胞が混じっているのです。そしてそのDNAのセット数に比例して細胞の大きさも異なることが確かめられたため、DNAのセット数に比例して植物の細胞の大きさは決まっている、という理解がその後一般化し、現在も信じられています。

本研究グループは、この通説に疑問を持ち、表面からは観察の難しい内部組織をきちんと調べることで、従来の通説が本当に正しいのかどうかを検証しました。そのきっかけは、葉の内部にある柵状組織の形です。表面から簡単に見える表皮細胞と違い、柵状組織はほぼ均一な大きさの細胞が揃って並んでいます(図1下)。

図1. シロイヌナズナの葉の表皮と柵状組織

表皮も内部の柵状組織も、どちらも核のDNA量は細胞ごとに異なり、大きなばらつきがある。表皮はそのDNA量に細胞の大きさが比例しているので、細胞の大きさもバラバラだが(上)、柵状組織は比例関係がとぼしいので、ほぼ同じ大きさの細胞で揃っている(下)。スケールバーは100μm。

本研究グループは、この内部組織で核内倍加がどのくらい起きているかをまず調べました。その結果、表皮と同じ程度に内部組織でも核内倍加が活発に起きていることが判明しました。ではなぜ、柵状組織は表皮のようにバラバラな細胞サイズにならないのでしょうか。

このことを明らかにするために、本研究グループは葉を短時間で透明にする新手法を開発し、これによって内部組織での細胞の大きさと、その核に含まれるDNAの量とを測定しました。その結果、表皮では確かに、核のDNA量に対して細胞の体積が比例していましたが、柵状組織ではその関係がたいへん弱いことが分かりました。これまでの研究は全て、表面から簡単に観察される表皮ばかりを見ていたため、DNA量と細胞の体積が比例するのは、表皮に特徴的なものだと気付かず、一般的な法則だと誤解していたのです。

では表皮と内部組織の違いは何によるのでしょうか。本研究グループは葉の内部組織にも表皮の性質を与える遺伝子ATML1をはたらかせ、その上で再びDNA量と細胞体積との関係を調べてみました。すると驚くべきことに、内部組織にあって形態的にも柵状組織的でありながらも、DNA量に対する細胞体積の比例関係が著しく向上したのです。このことから、従来信じられてきたDNA量と細胞体積の比例関係は、実は表皮の性質のもとではたらく法則であることが明らかとなりました。本研究結果より、植物の器官のサイズをコントロールする仕組みの理解が大きく書き換わるとともに、今後、器官サイズがどのような遺伝子によって制御されているかの解明も大きく進むものと期待されます。

 

発表雑誌

雑誌名 Development 143巻 7号(2016年)掲載予定(オンライン版:4月5日に掲載)
論文タイトル The coordination of ploidy and cell size differs between cell layers in leaves
著者 片桐洋平、長谷川淳子、藤倉潮、星野里奈、松永幸大、塚谷 裕一
DOI番号 10.1242/dev.130021
論文URL http://dev.biologists.org/content/early/2016/02/22/dev.130021

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―