2014/11/10(配信日11/6)

福島放射能汚染における土壌中の放射性微粒子の特定と微粒子中の放射能分布の解明

発表者

  • 小暮敏博 (東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)
  • 矢板 毅 (日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究センター
  • 量子ビーム反応制御・解析技術研究ユニット・ユニット長)

発表のポイント

  • 福島県の放射能汚染された土壌において、放射性セシウムを吸着している微粒子の正体とその微粒子中における放射性セシウムの分布を明らかにした
  • これまでの研究では、放射性セシウムがどのような物質に吸着しているかを主に室内実験から推定するだけであったが、今回は実際の汚染土壌を使ってその物質や吸着状態を初めて決定した
  • 福島地方の放射性セシウムの今後の動態(移動や拡散)や、土壌からの除去方法の研究、除染作業で発生した汚染土壌の容積の減少化方法の開発などに大きく貢献するものである

発表概要

福島第一原子力発電所事故によってもたらされた土壌の放射能汚染は今日でも大きな社会問題である。しかし、放射能の主体である放射性セシウム(注1)が土壌中にどのように存在するかは未だ明確ではなく、このため除染のための研究・開発等もなかなか進んでいない。

東京大学大学院理学系研究科の小暮敏博准教授の研究グループは、(独)日本原子力研究開発機構、(独)物質・材料研究機構、(独)国際農林水産業研究センターとの共同研究によって、福島県飯舘村から採取した土壌中で放射性セシウムを固定している多くの微粒子を、さまざまな電子顕微鏡技術等を駆使することによって特定・解析し、さらにそのような微粒子中で放射性セシウムがどのように分布しているかを今回初めて明らかにした。

これらの成果は、福島地方の今後の長期的な放射性物質の拡散・移動等の動態予測、化学的な処理による土壌中の放射性セシウムの除去方法の開発、除染作業によって膨大に発生しつつある汚染土壌の容積の減少化方法や貯蔵方法の提案などに大きく貢献することが期待される。

発表内容

図1

図1:福島県の放射能汚染土壌からマイクロマニピュレータによって採取された放射性微粒子(上)と、各粒子から発せられる放射線をイメージングプレートと呼ばれる放射線記録媒体によって記録したもの(下)。赤や緑が強い放射線を示し、放射能を持つ微粒子とそうでないものが判別できる。

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図2

図2:放射性微粒子の電子顕微鏡像(上)とそこから放出されるX線が示す微粒子の化学組成(下)。これにより、放射性微粒子を構成する物質を明らかにし、左から順に風化黒雲母の鉱物粒子、有機物が主体で小さな鉱物粒子を含む粒子、細かい鉱物粒子の集合体(土壌団粒)と分類された。

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2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた福島第一原子力発電所事故は、周辺の土地に高濃度の放射能汚染をもたらし、その対策は3年半が経った現在でも日本の最も大きな社会問題のひとつとなっている。これまで各地域とそこでの土壌中の放射能強度や経時変化が詳細に調べられてきたが、はたして放射能の主体である放射性セシウム(注1)がどのように土壌中で存在するかは未だ明らかではなく、室内実験等から特定の粘土鉱物(注2)に強く固定されていると考えられてはいるが、実際の土壌での確証的なデータは得られていなかった。このため除染方法の研究・開発等に未だ明確な指針が定められていないというのが現状と言える。

東京大学大学院理学系研究科の小暮敏博准教授の研究グループは、(独)日本原子力研究開発機構、(独)物質・材料研究機構、(独)国際農林水産業研究センターとの共同研究によって、イメージングプレート(IP)オートラジオグラフィー(注3)と呼ばれる放射線検出の手法を改良し、またこれとともにさまざまな電子顕微鏡技術等を駆使することによって、福島県飯舘村から採取した土壌中で放射性セシウムを固定している多くの微粒子を特定・解析し、さらにその中で放射性セシウムがどのように分布しているかを今回初めて明らかにした。

実験ではIPと呼ばれる放射線記録媒体の上に分散した数十ミクロンメートルの土壌微粒子の中からIPを感光させた放射性微粒子を特定し(図1)、これを電子顕微鏡内に移動させてその形態や化学組成を調べることにより、放射性微粒子をいくつかの種類に分類した(図2)。さらにその中の典型的な微粒子を集束イオンビーム加工(注4)と呼ばれる手法によって切断・薄片化し、より高解像度の電子顕微鏡によって微粒子内の構造を調べて、放射線の発生箇所を特定することを試みた。

これらの一連の実験から、放射性セシウムは風化黒雲母(注5)と呼ばれる鉱物粒子に多く固定されており、さらにセシウムはこの鉱物中に均一に分布していることが明らかとなった。このような風化黒雲母はこれまでの室内実験でもセシウムを非常によく吸着することが示されており、先行研究を指示する結果と言える。またこの風化黒雲母は、福島県東部の地質である花崗岩体の長年の風化によって、そこでの土壌に大量に含まれており、森林や水田などの土壌中の放射性セシウムのかなりの量は、この鉱物に強く固定されている可能性が高い。今後、当研究グループを含む上述の共同研究グループでは、福島県の他の地方の土壌についても同様に放射性微粒子を特定するとともに、採集した放射性微粒子を用いてセシウムの存在状態やその安定性、化学的処理による脱理の可能性などを調べていく予定である。

今回の成果は、福島地方の今後の長期的な放射性物質の拡散・移動等の動態予測、化学的な処理等による土壌中の放射性セシウムの除去方法の開発、除染作業によって膨大に発生しつつある汚染土壌の容積の減少化方法や貯蔵方法の提案など、今後の放射能対策のための研究・開発の基礎となる画期的なものと言うことができ、これにより有効な放射能汚染対策が進むことが期待される。

発表雑誌

雑誌名
「Environmental Science & Technology」
論文タイトル
Speciation of radioactive soil particles in the Fukushima contaminated area by IP autoradiography and microanalyses
著者
MUKAI, Hiroki; HATTA, Tamao; KITAZAWA, Hideaki: YAMADA, Hirohisa: YAITA, Tsuyoshi; KOGURE, Toshihiro
DOI番号
10.1021/es502849e
アブストラクトURL
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es502849e

用語解説

注1 放射性セシウム
原子炉などにおけるウラニウムの核分裂反応で形成されるセシウムの放射性同位体Cs-137とCs-134を総称してここでは放射性セシウムと呼ぶ。この放射性セシウムは崩壊する時に高エネルギーのベータ線とガンマ線を放出し、特にガンマ線は物質の透過能力が高いため、福島地域の高放射線量の主要な源となっている。またCs-137が半分に減少する時間(半減期)が30年近いため、今後長期にわたってガンマ線を放出し続ける。
注2 粘土鉱物
地殻を構成する岩石や溶岩、火山灰などが長い年月の間に地表で風化することによって形成される非常に細粒の鉱物群のことで、土壌などに大量に含まれる。あるいは土壌は粘土鉱物と植物等の腐食で形成される有機物の集合体と言える。
注3 イメージングプレート(IP)オートラジオグラフィー
放射線(X線、電子線、ガンマ線など)の照射によって感光する記録媒体を使って放射性物質の分布を調べる手法をオートラジオグラフィーと呼ぶ。従来は記録媒体として銀塩フィルムなどが使われていたが、デジタル化が容易で検出感度や定量性の高いイメージングプレートを使うときは、IPオートラジオグラフィーと呼ぶ。
注4 集束イオンビーム加工
イオン化したガリウムイオンを電子レンズで集束し、その方向を制御することで、試料中の数ミクロンという微小な領域の切断、掘削などができる装置や手法のこと。
注5 風化黒雲母
黒雲母は花崗岩中に含まれる(花崗岩の黒色を呈する部分)典型的な珪酸塩鉱物であるが、この黒雲母が地表の環境に長期間さらされることによって風化し、黒雲母の構成成分である鉄の酸化やカリウムの減少が起きたものをここでは風化黒雲母(weathered biotite)と呼ぶ。尚、この風化黒雲母はしばしば“バーミキュライト”という商品名で市場に出回っているため、この名前を使う研究者も見られるが、学問的にはこの名前は正しくない。