2014/9/29 (配信日9/19)

波形インバージョンによる西太平洋下の最下部マントル構造

— キャロラインホットスポットの起源に迫る —

発表者

  • ロバート・ゲラー(地球惑星科学専攻 教授)
  • 河合 研志(総合文化研究科広域科学専攻 助教)

発表のポイント

  • 世界最高解像度で西太平洋下の最下部マントル(注1)の3次元地震波速度構造を推定
  • 西太平洋下の核とマントルの境界の上に高さ300kmのタワー型の低速度(高温度)構造を発見
  • キャロラインホットスポット(注2)の起源を示唆する結果

発表概要

地球は、地表から深さ方向に地殻・マントル(注1)・外核・内核(注3)にわかれている。外核と接するマントル最下部はD”領域(ディーダブルプライム、厚さ数百キロの領域)と呼ばれる。液体鉄合金からなる外核に近づくにつれて、D”領域内で温度や化学組成が急変する。この領域を介した物質やエネルギーのやり取りはマントルの熱化学進化の観点から地球の進化を考える上で重要な手かがりとなるが、その詳細な構造はいまだ明らかになっていない。

これまでにD”領域の詳細な3次元構造推定を可能にする新しい地震波解析手法を、東京大学大学院理学系研究科のロバート・ゲラー教授および同大学院総合文化研究科の河合研志助教らが開発し、既にその解析手法を中米下の詳細な3次元構造の推定に応用してきた。

今回、ゲラー教授および河合助教の研究グループは、上述の手法を日本の高密度地震観測網で収録された膨大な地震波データに適用し、西太平洋下のD”領域の詳細な3次元構造を推定することに成功した。その構造には、高さ300km程度のタワー型の低速度構造が見られた。これは核とマントルの境界における局所的な高温領域であると解釈される。この構造はキャロラインホットスポットのほぼ真下に位置するため、今まで不明であったこのホットスポットの起源が核とマントルの境界であることを示唆する。従来の希ガスの同位体を用いた研究から、キャロラインホットスポットは初生的もしくは孤立したマントル由来であることが示唆されていたが、今回の成果はその仮説を裏付ける証拠となる。

発表内容

図1

図1:震源(トンガおよびフィジー下の赤星)及び観測点(日本にある青い三角)の分布。赤領域は地震波が記録されたD”領域の水平方向範囲を示す。挿入図は図2bにおける断面を示す。

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図2a

図2:西太平洋下の最下部400 kmマントルのS波速度水平不均質構造。(a)は各深さにおける速度構造。(b)は図1の挿入図で示された断面における速度構造である。高さ300km程度のタワー型の低速度領域がある速度構造が見られる。核マントル境界直上(0-50 km)では二つの低速度領域(矢印)があるが、核とマントルの境界から100-150kmの距離ではそれらは合流し一つの低速度領域になり、250-300km上までその低速度領域は続いている。これは巨大な低速度領域(LLSVP)は複数の小規模上昇流で構成されているプルームクラスターモデルを支持する。断面図は速度が速い領域と速度が遅い領域の核マントル境界からの距離の関係を明らかにする。

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近年、アメリカのUS-Arrayや日本のF-netといったアレイ観測網(注4)の設置に伴い、良質で膨大な地震波形データが急速に蓄積され、地球内部の微細な3次元構造を推定する研究への期待が高まっている。しかし、膨大なアレイデータを従来手法によって解析することは困難なため、新しい解析手法の開発が必要となっていた。一方で最下部マントル(注1)であるD”領域はマントル対流の熱境界層であり、液体鉄合金から構成される外核と接する化学境界層でもある。そのため、D”領域の詳細な構造は地球史を考える上でマントルの熱化学進化を理解するための重要な手かがりとなる。従来の解析手法を使った研究によってD”領域には水平方向に数千キロスケールの大規模な地震波速度不均質構造の存在が示唆されていた。しかし、その大規模な不均質構造の起源については、水平方向の温度不均質、または化学不均質、もしくはその両者の要因によるものとさまざまな説が唱えられていたが、いずれも仮説の域を出ていない。さらに、近年D”領域の主要構成鉱物であるマグネシウムペロブスカイト(今年ブリッジマナイトと命名された)がD”領域内の温度圧力条件によってポストペロブスカイト相に相転移することが発見され、大規模不均質構造の起源の理解にはD”領域内の詳細構造が必須となっていた。また、従来の解析手法を使った研究の深さ方向の解像度は、最下部マントルでは、300-500kmにすぎなかった。そのため、大規模な不均質構造の起源を考える上での情報が不足しており、D”領域内の詳細構造を得るための新しい解析手法の開発が必要であった。

これまでに東京大学理学系研究科のロバート・ゲラー教授および東京大学大学院総合文化研究科の河合研志助教らの研究グループ(以下、研究グループと略す)は、独自に開発してきた解析手法を大幅に発展させ、ビッグデータ解析に適した地球内部の微細構造推定のための新しい解析手法として「局所的な構造推定のための波形インバージョン手法」(注5)を開発し、地球深部の3次元微細構造をより正確に推定することを可能としてきた。この新しい解析手法を用いることで、理論波形と観測波形を客観的に比較することができ、その結果、一本一本の観測波形では識別できないほどのわずかな波形の特徴から詳細構造の推定ができるようになった。例えば、2014年春頃にはこの手法を用いて、中米下のD”領域の詳細な3次元構造を推定することに成功している(http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2014/03.html)。

今回、研究グループは、トンガおよびフィジーにおける複数の深発地震によって起こった地震波を主に日本の防災科学研究所(NIED)のF-Netと呼ばれる最新のアレイ観測網で記録したデータセットに(図1)、上述の新解析手法を適用した。その結果、世界最高解像度(水平 5°; 鉛直 50km)で西太平洋下のD”領域内のS波(横波)速度構造を推定した。さらに、核マントル境界直上では二つの低速度領域があるが、核マントル境界150km上ではそれらは合流し一つの低速度領域になり、300km上までその低速度領域は続いている構造を見出した。つまり、高さ300km程度のタワー型の低速度領域がある速度構造を明らかにした(図2)。

一般的に、高速度領域は平均より温度の低い領域であり、一方低速度領域は平均より温度の高い領域であると考えられている。そのため、タワー型の低速度領域は温度の高い物質が局所的に存在していることになる。太平洋下の最下部マントルには水平方向数千kmの巨大低速度領域(LLSVP、注6)の存在が30年来知られてきたが、それは小さな温かい上昇流(プルーム)が集まっているものなのか(プルームクラスター、注7)、あるいは重い物質が元となって大きな温度の高い不均質構造(サーモケミカルパイル、注7)を作っているのか議論されていた。本研究によって得られた構造はプルームクラスターモデルを支持し、マントル対流は地質学的時間スケールにおいては巨大な化学物質不均質を維持できないことを示唆するもので、マントルの熱化学進化のさらなる理解につながる。

ホットスポットにはプレート内が起源のものとプレートの下が起源のものがある。プレートの下が起源のホットスポットは過去のプレートの情報をホットスポットの年代の軌跡から知ることができるため重要である。また、年代の軌跡が明らかになっているホットスポットはその起源の確からしさから分類され評価がなされている。例えば、ハワイのホットスポットはプレート運動とは関係なく地球深部起源であることが地球物理・地球化学的に認定されている。一方で、キャロラインホットスポットはヘリウム(3He)の同位体から初生的なまたは孤立したマントルからの起源であることが示唆されており、年代の軌跡も明らかになっていることから、非常に重要なホットスポットの一つであったが、地震学的な低速度領域の同定がなされていなかったためにその評価が低かった。本研究の結果はキャロラインホットスポットの真下に低速度領域を同定し、その起源が核とマントルの境界であることを示唆した。今後キャロラインホットスポットの年代軌跡の研究から過去のプレートの運動の研究が進むことが期待される。

発表雑誌

雑誌名
Geophysical Journal International
論文タイトル
Waveform inversion for localized 3-D seismic velocity structure in the lowermost mantle beneath the Western Pacific
著者
Kensuke Konishi, Kenji Kawai, Robert J. Geller, Nobuaki Fuji
DOI番号
10.1093/gji/ggu288

用語解説

注1 マントル
地殻の下から深さ約2900kmまでの岩石からなる固体の層。マントルは、その主要構成鉱物が相転移する深さ約660kmにおいて、上部マントルと下部マントルに区分される。さらに、核・マントル境界上の厚さ約300-400kmの最下部マントルはD”領域と呼ばれる。マントルは対流しており、マントルの最上部と最下部は対流の境界層で鉛直方向に急激な温度変化があると考えられている。D”領域は対流セル下部の熱境界層にあたり、そこでは核・マントル境界へ向けて急激に温度が上昇する。近年の研究により、下部マントルの主要鉱物マグネシウムペロブスカイトが、D”領域の温度圧力下でその高圧相のポストペロブスカイトに相転移することが発見された。そのため、現在では下部マントルは主にペロブスカイトおよびフェロペリクレース、D”領域はポストペロブスカイトおよびフェロペリクレースによって構成されると考えられている。
注2 ホットスポット
ホットスポットとは、下にあるマントルが周りのマントルよりも熱いために火山活動が起こる場所。キャロラインホットスポットは、パプアニューギニアの北の太平洋にあるホットスポット。ホットスポットにはプレート内が起源のものとプレートの下が起源のものがある。プレートの下が起源のホットスポットはプレートの動きと切り離して不動点として扱えるので、過去のプレートの情報をホットスポットの年代の軌跡から知ることが出来るため重要である。また、年代の軌跡を持つホットスポットはその起源の確からしさから分類され評価がされている。例えば、ハワイのホットスポットはプレート運動とは関係なく地球深部起源であることが地球物理・地球化学的に認定されている。
注3 コア(核)
マントルの下にあるおもに鉄およびニッケル(鉄合金)から構成されると考えられている層。核・マントル境界の深さ2900km以深の層は、液体の外核である。また、深さ5150km以深の層は固体の内核である。外核内の液体鉄合金の対流が地球磁場を生成する。
注4 アレイ観測網
近年、広帯域地震計が特定の地域において稠密に設置されている(アメリカのUS-Arrayや日本のF-netなど)。そのような地震計群をアレイ観測網と呼び、詳細な地球内部構造推定に大いに役立つデータを収録する。
注5 波形インバージョン手法
これまでの内部構造推定研究の多くは、まず観測データから波の到達時刻などの二次データを測定し、次にその二次データを分析して内部構造を推定するものであった。一方、「波形インバージョン手法」は、理論波形を計算して、それと観測波形とを直接比較し、その残差を最小化することによって(但し、モデルが暴れないために拘束条件を付ける)、内部構造モデルを系統的に改善する手法である。研究グループはこれを実行するための理論を導き、その上で関連するソフトウェアを開発してきた。
注6 巨大低速度領域(LLSVP)
最下部マントルには太平洋及びアフリカの下に水平方向数千kmにおよぶS波速度の低速度領域が存在することが地震学の観測からわかっており、それを巨大低速度領域(LLSVP)と呼ぶ。一方でその成因については議論が分かれており、小さな上昇流が集まっているプルームクラスターモデルと大規模な化学不均質によって形成されるサーモケミカルパイルモデルがある。
注7 プルームクラスターモデルおよびサーモケミカルパイルモデル
巨大低速度領域(LLSVP)は温かい領域と解釈されるが、解像度の問題から、小さな上昇流(プルーム)が集まったものか巨大な温かい領域なのか議論がなされていた。前者はプルームクラスターモデルとよばれ、後者はサーモケミカルパイルモデルと呼ばれる。マントルの対流によって、沈み込んだプレートなどの化学的に不均質な物質がよくかき混ぜられてしまい均質になれば、小さな上昇流が生まれプルームの集合(クラスター)を作ると考えられている。また、対流によって不均質な物質が核とマントルの境界の上に集められる場合、それを核に大きな温かい化学不均質領域(サーモケミカルパイル)ができると考えられる。そのため、LLSVPがプルームクラスターモデルもしくはサーモケミカルパイルモデルで説明できる場合、マントル対流の様式についてその候補となるモデルをさらに絞り込むことができる。