2014/8/15 (配信日8/8)

植物の根の太さを制御する仕組みを解明

発表者

  • 伊藤 恭子 (東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 准教授)
  • 福田 裕穂 (東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 植物の根で、維管束(注1)の細胞数を増やすための仕組みを明らかにしました。
  • 維管束の細胞を増やすためのスイッチとなる遺伝子が作り出すシグナル物質を初めて明らかにしました。
  • より太く丈夫な根を作り出せる可能性があるため、作物の増産につながると期待されます。

発表概要

双子葉植物の根は、水分や栄養分を植物体全体へと送るための組織である維管束(注1)の細胞の数が増えることによって太くなります。これまで、根の先端で維管束のもととなる細胞の数を増やす仕組みはわかっていませんでした。東京大学大学院理学系研究科の伊藤恭子准教授と福田裕穂教授の研究グループは、モデル植物シロイヌナズナを用いた研究により、その仕組みを明らかにしました。

研究グループは、まず、根における維管束の形成を司る遺伝子LHWとT5L1が、植物ホルモンの一つであるサイトカイニン(注2)の合成に関わる遺伝子の発現を誘導することで、維管束におけるサイトカイニン量を増やし、それにより維管束の細胞が増え、根が太くなることを明らかにしました。さらに、LHWとT5L1は、サイトカイニンの合成だけでなく、サイトカイニンのシグナル伝達に関わる遺伝子の発現も制御することを明らかにしました。つまり、LHWとT5L1は、サイトカイニンの合成とシグナル伝達の両方を制御することにより、バランスを取りながら維管束における細胞分裂の活性化を制御するスイッチとして機能していることがわかりました。

この成果により、根が伸長を始めるときから、より太く丈夫な根を作り出せる可能性があるため、作物の増産につながると期待されます。

発表内容

図

図:根端の維管束細胞で、LHWとT5L1により細胞分裂が活性化される仕組み

拡大画像

植物の根は、根の先端にある根端分裂組織で細胞が分裂することによって縦方向に伸びていきます。横方向には、双子葉植物の場合は、根の中心にある維管束の細胞数が増えることによって根が太くなっていきます。特に、根端分裂組織に存在する維管束のもととなる細胞の数が、根の初期形成時の太さを決める要因となっています。しかしこれまで、根の先端で細胞分裂が起きて根が伸びていく際に、維管束のもととなる細胞の数を増やす仕組みは明らかになっていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の伊藤恭子准教授と福田裕穂教授の研究グループは、根における維管束の形成を司る遺伝子、LHWとT5L1の二つに着目し、維管束の細胞分裂活性化の仕組みを解析しました。LHWとT5L1は、両方が揃うことにより維管束を形成するためのスイッチとして働きます。まず、LHWとT5L1が発現を制御している遺伝子をマイクロアレイ法(注3)により調べました。その結果、植物ホルモンの一つであるサイトカイニンの合成に関わる遺伝子であるLOG3とLOG4、サイトカイニンのシグナル伝達に関わる遺伝子であるAHP6、の3つの遺伝子がLHWとT5L1によって制御されていることが明らかになりました。根端分裂組織にある維管束の細胞は、道管前駆細胞(注4)とその他の細胞(前形成層細胞、注5)に大別することができます。LHWとT5L1、LOG3、LOG4、AHP6はいずれも、主に根端分裂組織の道管前駆細胞で働いていました。次に、LHWとT5L1の働きにより、実際にサイトカイニンが作り出されることを、培養細胞を用いて明らかにしました。これらの結果から、根端分裂組織では道管前駆細胞でサイトカイニンが合成されていることがわかりました。また、サイトカイニンが根端分裂組織のどの領域で作用しているかを、サイトカイニンに応答した部位が蛍光を発する植物体を用いて調べたところ、サイトカイニンに応答する細胞は、サイトカイニンを作り出している道管前駆細胞ではなく、その隣にある前形成層細胞であることを見出しました。さらに、道管前駆細胞で合成されたサイトカイニンにより、前形成層細胞の細胞分裂が活性化することが明らかになりました。LHWとT5L1によって制御されているもうひとつの遺伝子AHP6は道管前駆細胞において、サイトカイニン応答と細胞分裂を抑えていると推察されました。実際、AHP6の機能が欠損したシロイヌナズナでは、道管前駆細胞での細胞分裂が観察されました。これらの結果から、LHWとT5L1は、サイトカイニンを合成とシグナル伝達の二方面から制御することにより、道管前駆細胞でサイトカイニンを合成し、前形成層細胞でのみ細胞分裂を活性化するという、秩序だった細胞分裂活性化の仕組みを制御していることが明らかになりました(図)。

このように、サイトカイニンにより根の維管束を構成する細胞の数を増やせることから、根が伸長を始めるときから、より太く丈夫な根を作り出せる可能性があります。本成果は今後、作物の増産を目指した研究の基盤となると期待されます。

なお、本成果は、理化学研究所環境資源科学研究センター生産機能研究グループの榊原均グループディレクターおよび小嶋美紀子技師との共同研究によるものです。

発表雑誌

雑誌名
「Current Biology(オンライン版)」8月14日掲載予定
論文タイトル
A bHLH complex activates vascular cell division via cytokinin action in root apical meristem
著者
Kyoko Ohashi-Ito, Maria Saegusa, Kuninori Iwamoto, Yoshihisa Oda, Hirofumi Katayama,
Mikiko Kojima, Hitoshi Sakakibara, Hiroo Fukuda

用語解説

(注1) 維管束
水やミネラルなどを通す道管や栄養分などを通す篩管などが含まれる複合組織。
(注2) サイトカイニン
植物ホルモンの一つであり、細胞分裂の促進、細胞の老化抑制、側芽の成長促進などの作用がある。
(注3) マイクロアレイ法
非常に多くの合成DNA断片が貼りついた基板を用いて、多数の遺伝子の発現を網羅的に解析する方法。
(注4) 道管前駆細胞
将来道管の細胞になることが決まっているが、まだ道管にはなっていない細胞。
(注5) 前形成層細胞
細胞分裂をする能力を持ち、全ての種類の維管束細胞を生み出すことができる細胞。